閑話 ハルトン領訓練場
「なあ、うちの領主様って強いのか?」
「ドラゴンスレイヤーが弱いわけねえ」
ハルトン領のカントリーハウス横にある訓練場は、日々人が溢れている。
前伯爵時代にはなかった光景だ。
騎士団も警備隊も使えるよう、対人でも対魔物でも対応できる訓練器具が置いてある。
魔法での射撃訓練場、攻撃魔法を受けて結界を維持する訓練器具、幻影を使った対魔物訓練、自立人形を使った対人訓練。
筋トレ器具も様々なモノが揃えられている。
更には、領主様が開発した魔力操作を鍛える知育玩具まで置いてある。
訓練場にシャワー室もついた。
武器や防具も、前伯爵時代より良い物になった。
食堂の料理も美味しい。
いたれりつくせり。他の領地よりも充実した訓練場だ。
そして、訓練場の隅には巨大な大木を加工した何かがある。
それを使っているのを、まだ誰も見ていない。
「あれってなんだろうな」
「いっぱいぶら下がってるよなー」
巨大な大木には、沢山の棒が突き刺さっており、その棒の先には小さな丸太がぶら下がっている。
使い道がさっぱりわからない。
「おい!領主様だ!」
「え!どこ?どこ?」
「あそこだよ」
小さくて華奢な女性が大剣を持って歩いていた。
彼女は、こちらに気づいて手を振った。
「どうみても強く見えないよな」
「スゲー可愛い」
「若い。あれで伯爵って意味わかんね〜」
「あれ?大木使うのか?」
訓練場にいた者は、領主様に視線が釘付けだ。
軽く素振りをしたアンジェリーナは、走り出すと跳び上がり、大木を駆け上がる。
巨大な大木は高さ40メートル、横幅は3メートル。
アンジェリーナが縦横無尽に動く。
その動きは、速過ぎて目で追うのも大変だ。
棒から棒へ跳び移り、丸太に攻撃をいれる。
ガンッガンッガンッ
音だけが訓練場に響く。
「すっげー…」
「あれって、ああ使うのか」
「全ッ然、見えねー」
「絶対強いわ」
一時間程、休むことなく訓練したアンジェリーナは、たいして汗をかいた様子もなく去っていった。
「なあ、領主様って王宮魔術師団に所属してんだよな?」
「つまり、剣より魔法が得意」
「嘘だぁ…」
「可愛くて強いなんて最高だな!」
アンジェリーナは、無自覚に支持者を増やしていた。
アンジー「あのアスレチック、誰も使ってないのかしら。森での戦闘訓練用なのに」
あんな戦い方、誰もできないよ!




