終章 それぞれのレゾンデートル その16
終章 それぞれのレゾンデートル その16
「ほんとに、ほんとに父さんなのか!?」
俺は目の前に現れた、仮面の男の素顔を信じられず、声を上げる。
しかし、男は否定せず、
「そうだ。銀、久しぶりだな」
こう言って、父であることを肯定した。
「えっ、銀くんのお父さん!?」
後ろで見ていた麗先輩も驚いていた。
「楽々浦さん、あなた宇佐見くんのお父さんを知っているの?」
如月会長が尋ねる。
「はい。夏休みに、銀くんの実家に行った時に。そこで、その、会ったというか……」
「会ったというか?」
「えっと、お墓参りしたんですよ」
麗先輩が戸惑いながらも答えると、周りのみんなも驚いて、俺と対峙している人物を確認する。
「楽々浦、それは本当なのか? どう見ても生きているように見えるんだが?」
「わたしも分からないです。でも、あの銀くんの様子を見ると……」
「亡くなっていたはず、ということか」
鈴原先輩も驚きを隠せないといった感じだ。
「それじゃあ、あれは幽霊ってことか?」
「いや、晃、それはないんじゃない? 宇佐見くんとあれだけ戦ってたんだから。足もあるし」
晃の予測を朋が否定する。晃は、それに納得したようだった。
後ろにいたみんなが、先程とは別の意味で、俺たちに再び注目した。
「嘘だ! 父さんは5年前に亡くなったはず! 今年も命日に墓参りに行った。だから、ここにいるはずがないんだ!」
「そう思うのなら、そう思うのも自由だろう。だが、真実というのは、時に人の想像を超えるということを覚えておくといい」
目の前の男は、真っ直ぐに語ってくる。
俺はその男の言葉を聞き、再び驚いた。
(“真実は時に人の想像を超える”。昔、父さんから聞いた言葉だ。本当に父さんなのか? だけど……。くそっ、わけがわからない)
「まぁ、理解できないのも無理はない。わたしもあの時に死んだはずだからな。だが、こうしてここにいる」
(生き返ったとでも言いたいのか!? だが、そんなことあり得ない)
「しかし、残念だな。俺はお前と剣を交えて、息子の成長を感じとれたのだがな」
俺は男の言葉を静かに聞いていた。
(剣を交えた時に、なんとなく感じた懐かしさ。先程感じた、落葉斬の癖。駄目だ、否定しようとしても、感覚は父さんであることを肯定する)
「頭では理解できない。だけど、剣を交えて俺も懐かしさを感じていた。落葉斬の癖、昔と一緒だった。ほんとに父さんなんだな。だけど、なら、どうやって生き返ったんだ? なんで生き返ったのに、俺の前に現れなかった?」
俺は目の前の男、父さんに尋ねる。
「生き返った方法は、残念ながら分からない。だが、理由ならある。母さんのためだ。それが、お前の前に現れなかった理由でもある」
父さんは真剣な表情で、だけどどこか悲しそうに答えた。
「母さんのため?」
「あぁ。そうだな、銀、お前にも伝えておこう。銀、お前の母さんは、能力者に殺されたんだ」
「えっ? ちょ、ちょっと待ってくれ! 母さんが殺された!? それも能力者にって。能力者はブラックフォール事件の後に現れたはずだろ? 母さんが死んだのはそれよりも前じゃないか!」
父さんの口から伝えられた事実に、俺は驚きを隠せなかった。
「確かに、大体の能力者はそうだ。だが、先程も言ったように、“真実は時に人の想像を超える”。ブラックフォール事件よりも前にも、能力者はいたんだ、少数だがな。その者たちを、原初の能力者と呼ぶ。その中に、母さんを殺した犯人がいたんだ」
「犯人がいた?」
「あぁ。見つけ出して殺した。」
「殺した!?」
「そうだ、そいつを殺した。だから、俺は生き返ったことを隠し、お前の前に現れなかったんだ」
なんて重い事実だろうか。正直、俺は頭がついていかなかった。
「父さんが俺の前に現れなかったのはわかったよ。それじゃあ、犯人を殺した父さんが、なぜここにいるんだ?」
「それは……」
父さんが答えようとした、その時だった。
グラグラグラ!
地面が急に、地震のように揺れ始めた。
「きゃっ!」
「な、なに!?」
「地震か?」
後ろにいたみんなも驚く。
しばらくすると、揺れは止んだ。
「そうか、いよいよ始まったか」
父さんがぼそっと呟く。
「始まった? 一体何が始まったんだ?」
「銀、お前はなぜ俺がここにいるか知りたがっていたな? その答えは俺の後ろにある。今の揺れも答えの一部だ」
そう言うと、父さんは、自身の後ろにある建造物を指差した。
「そこに何があるっていうんだ?」
「説明してもいいが、それを教えていると時間がなくなるぞ? 今の揺れは始まりの合図なんだからな。さて、銀、どうする?」
「それなら、そこに行くまでだ!」
「ふっ、やはりそうなるか。だが、俺はここの守護を任されている。そのまま通すわけにはいかないぞ?」
父さんは、話しながら刀を構え始めた。
「俺は、父さんを倒して、その先に行く!」
同じように、俺も刀を構える。
「なら来い! 銀、お前の全てを見せてみろ!」
「あぁ、分かった! 俺がどれだけ成長したか見てくれよな!」
俺は、刀をギュッと握る。
(奥義は、最終的には自分で創るものと師範は言っていた。それを全力でやろう!)
「我が剣で切り拓くは、真なる天への道! 真天一刀流、銀流奥義! 終の型、銀刀一閃火!」
「我流の奥義か! ならばこちらも奥義で応えよう! 裏の型・終の太刀、奥義! 深淵蒼炎斬!」
赤い炎を纏った俺の刀。
蒼い炎を纏った父さんの刀。
「はあああ!!」
「うおおお!!」
想いを乗せた、お互いの全力の奥義。
まさに一瞬の出来事。
交差するように、お互いがいた場所を入れ替えた。
「くっ!」
先に膝をついたのは俺だった。刀を地面に刺し、倒れないように体を支える。
「ぐっ!」
父さんも遅れて膝をついた。俺と同じように刀を地面に刺し、倒れないように体を支える。
しかし、
「ふっ、やはり成長したな、銀」
父さんの刀の先端が折れ、父さんはその場に倒れた。
しばし流れる沈黙。
そして……。
「これは!」
「えぇ、そうね」
「宇佐見くんが!」
「あぁ!」
「銀くんが勝ったぁー!!」
みんなの歓声が遅れて辺りに響いた。
俺は、この時初めて、父さんに勝ったのだった。




