第4章 幻獣の棲む島 その4
第4章 幻獣の棲む島 その4
別荘一階の一室。
ここまで泳いできたという驚きの事実を笑いながら話す師範。
ふと、笑うのを止めて、北側の方へと真剣な表情を向ける。
(これは!)
俺もハッキリとわかった。
しかし、すぐに異変は無くなった。
「師範、今のは」
「うむ、銀にもわかったようじゃの。短い間だったが、地脈に乱れが起きていたわい」
俺と師範の様子に、如月会長が尋ねてくる。
「やはり、北の島に異変が?」
「はい、ただ、すぐに収まりました」
俺の答えに、如月会長はそうと、短く頷くと、何か考え始めた。
そして、ちょっと待っててと言い残し、どこかへ行ってしまった。
師範は急に席を立ち、どこかへ行こうとする。
「師範はどこに行くつもりですか? まさかまた泳いで行くつもりじゃないですよね?」
「いや、そのつもりじゃが?」
「なら、俺も行きますよ」
「ふむ、よいのか?」
師範は周りを眺め、俺に尋ねてくる。
「そうですね。夏休み初日、楽しみに来たのは間違いないですが、異変を放っておいて楽しめる程、無神経ではないですよ。それはたぶん、みんなも同じだと思います」
晃と朋、鈴原先輩、楽々浦先輩が頷いて答えてくれる。
「銀は良い学友に恵まれたようじゃな?」
「えぇ、本当に。時々お節介に感じる時もありますが」
師範に俺は笑いながら答えた。
と、ここで、どこかへ行っていた如月会長が戻ってきた。
「みんな、お待たせ♪ モーターボートの用意ができたわ、さぁ行きましょう♪」
「ぶわっはっはっは! こりゃ一本取られたわい!」
如月会長には、こうなることがお見通しだったというわけだ。
俺たちは、如月会長の用意してくれたモーターボートに乗り、北側の島へと出発した。
如月島から北に約4キロ、北側に見えていた島の南側の海岸へと、俺たちは到着した。
ちなみに、モーターボートは、なんと楽々浦先輩が運転した。
「うげぇー」
「ちょっと大丈夫、晃?」
到着すると同時に晃は吐きそうになっていた。
まぁ、無理もない。あの見かけによらず、楽々浦先輩の運転はかなり荒かった。なんていうか、無邪気故のという感じだろう。
「ま、全く、中森は情けないな」
「あら、そういう鈴原くんだって、顔色悪いわよ?」
「ご、ごめんね、みんな」
当の運転していた本人は、全員に謝っている。
「師範、最初はどこに行きますか? えっと、師範?」
「ん? おーおー、すまんな、綺麗な花畑が見えてたわい」
師範は危うく命を落とす間際だったようだ。
「ふむ、とりあえずわしの服が置いてある場所まで行こうかの、こっちじゃ」
元気に歩き始めた師範に俺たちは着いていく。
師範は、海岸から続く獣道のような所を進んでいく。
海岸は如月島とほとんど変わらなかったが、一歩島内に入ると、生えている植物から全く異なった環境だった。
30分程歩き、師範が足を止めた。
「おー、あったわい!」
そこには、綺麗に畳まれた男性用着物と、並べられた草履が一足あった。なんていうかこれでは……。
「なんか、これ、自殺した人の物みたいじゃねぇか?」
晃が思っていたことを口にしてくれた。
というか、場所も場所だ。断崖絶壁になっていて、下を覗くと、波が打ち寄せていた。
如月会長が小声で俺に聞いてくる。
「あなたの師匠はここから海に飛び込んだのかしら?」
「えぇ、たぶん」
横では下を覗き込んで、ブルブル震えている楽々浦先輩がいた。
師範は、いつの間にか、着替えていた。
「ほう。確かに、この格好だと刀がよく映えるな、本物の剣士のようだ」
鈴原先輩が感心していた。いや、言動が目立つが、剣士で間違いないのだが。
ふと、辺りに涼しい空気が流れ始めた。
(なんだ? これは、普通の冷気じゃない)
何が起きているのか考えていると、更に、霧が出始め、あっという間に辺りは霧で覆われた。
(く、なんだこの霧は? 数メートル先がやっとだな)
周りにいたはずのみんなの気配も、声すらわからなくなる。はぐれたのかと思った時だった。
「きゃあ!」
「楽々浦先輩?」
近くから楽々浦先輩の悲鳴が聴こえた。
俺は刀を抜き、急いで声のした方へと向かった。
いた!
数メートル先に楽々浦先輩を見つける。と、同時に、今にも楽々浦先輩を襲おうとしている、巨大な猿のような動物も見えてきた。
「させるか!」
楽々浦先輩の前に出て、その生き物を斜めに斬る。確かに斬ったはずだった。
(なんだ? 手応えがない?)
その生き物は聞いたことがない断末魔を上げる。そして、霧の中へと姿を消した。
俺は不思議に思いながらも、刀を鞘に収めた。
「大丈夫ですか、楽々浦先輩?」
「うん、宇佐見くんありがとう。急に霧が出てきたと思ったらみんなどこかへ行っちゃって、宇佐見くんが近くにいてくれて良かったよ」
「立てますか?」
「あ、うん、ありがとう」
ぺたんと座った楽々浦先輩に手を差し出し立たせる。
「ねぇ、宇佐見くん、みんなはどこに行っちゃったの?」
「残念ながら、わかりません。俺も気づいたら一人だったので。それにさっきの生き物も、見たことありませんでしたし、不思議な感じで」
「不思議な感じ?」
「はい、なんていうか、霧散した感じでした、なんていうか幻のような」
俺は楽々浦先輩に先程の感覚を説明した。
「幻……。」
楽々浦先輩は、俺の袖口をギュッと握ってくる。
「楽々浦先輩?」
「そ、その、なんていうか怖くて。ダメかな?」
「そんなことないですよ、それじゃあ、早く他のみんなも探しましょう。みんながいたら、恐怖感も薄れると思いますし、あの不思議な生き物に襲われたら大変だと思いますから」
「う、うん、そうだよね。行こう、みんなを探しに」
俺と楽々浦先輩は、濃い霧の中、はぐれたみんなを探しに島の中を進んでいった。




