第4章 幻獣の棲む島 その3
第4章 幻獣の棲む島 その3
如月会長の別荘北側、プライベートビーチ。
ここで、俺は思いもよらない人物と再会した。
「師範!? なぜここに!?」
「ん? おー、銀か! 4ヶ月ぶりかの? どうしたんじゃ、こんなところで?」
目の前の、海パン一丁の老人は、呑気に焼き魚を食べながら、俺の問いに答える。というか、まだ焼き途中の魚が数本ある。
「えっと、宇佐見くんの知り合い?」
楽々浦先輩が、俺と師範を交互に見ながら尋ねてくる。他のみんなも同じような反応だ。
「知り合いというか、俺の剣の師匠であり、真天一刀流の師範ですよ」
「師範!?」
「ほむ、ほほとほりでゃ(うむ、その通りじゃ)」
「師範、魚を食べながら喋らないで下さい。というか、食べるのを止めて下さい」
みんなは、驚きの表情で師範を見て、未だに魚を食べ続けている光景に呆れていた。
「いやぁ、すまんの。これが結構うまくての。わっはっは!」
「師範、ここがどこかわかりますか?」
「ん〜?」
師範は、辺りをキョロキョロと眺め始める。
「はて、どこじゃ?」
確認するまでもなく、この場にいた全員が呆れ果てていた。
「ふふふ、とても愉快なご老人ね、宇佐見くん♪ とりあえず、別荘の一室で話を聞きましょうか?」
「すみません、如月会長。ありがとうございます」
ちょうど魚を食べ終わった師範を連れて、俺たちは全員で別荘内に戻った。
別荘内、一階の一室。
「それで、宇佐見くん、このご老人が師範ってのは本当なの?」
早速、如月会長に聞かれる。
「はい、間違いなく、いや、間違えようないですね。真天一刀流の師範です」
俺は向かいに座った師範を改めて紹介する。
「真天一刀流の開祖にして、師範。名前は相楽宗有、俺の剣の師匠です。まぁ、普段はこんな感じでおちゃらけてますけどね」
俺の紹介に、意外にも、鈴原先輩が声を上げた。
「相楽宗有だって!? それは本当か、宇佐見」
「えぇ、本当ですが、鈴原先輩、知ってるんですか?」
鈴原先輩は、あぁと短く答えると、話を続けた。
「俺は名前だけしか聞いていなかったが、国防軍に務める俺の父から話を聞いたことがあってな。なんでも、国防軍関東支部で武術指南を行って貰ったことがあったとか。まさか、その人が真天一刀流の師範だったとは思わなかったが」
鈴原先輩は驚きを隠せないという表情だ。
「鈴原、鈴原……。おー、確かにおったな、関東支部の隊長さんじゃろ? 名前は、鈴原文輝じゃったか?」
「父の名だ。なるほど、確かに相楽宗有、御本人のようだな」
意外なところで、俺と鈴原先輩に繋がりがあるものだ。少し驚いた。
「その、盛り上がってるとこ悪いんだけど、真天一刀流ってそんなにすごいのか?」
と、ここまで見事な顔芸を披露していた晃が尋ねてくる。
俺が簡単に説明しようとすると、
「すごいなんてものじゃないぞ。真天一刀流は開祖、相楽さんをはじめ、数名しか会得してないというからな。なんでも、全ての一刀流を一つにし、新たな一刀流として生み出されたらしいからな。それを会得するのは、それはもう大変だという話だ」
なぜか鈴原先輩が興奮気味に説明する。
鈴原先輩が、そうですよねと師範に尋ねると、師範は頭をボリボリとしながら、申し訳なさそうにする。
俺は真実を知っているので、黙っている。
「うむ、半分正解かの。確かに、わしが全ての一刀流を一つにしたのは間違いないが、真天一刀流の会得者が少ないのは、単純にわしが教えるのが苦手だからじゃの。銀のように、自分で吸収できたものだけに教えてるだけじゃ」
鈴原先輩は、えっ? という顔をしている。
まぁ、会得者が少ない真実を知った人はみんなこんな感じだ。
「えっと、それで、そんなにすごいおじいちゃんがどうしてこんな所に?」
朋が、もっともな質問を投げかける。
「若い娘さんに、おじいちゃんと呼ばれるのは嬉しいの〜」
このじいさんは、全く。俺は師範に睨みをきかせる。
「おっと、弟子が怖いわい。仕方ないの〜。まぁ、そこまで大した理由じゃないわい。この島から北の方に、別の島があるじゃろ? そこからの地脈の流れに、異様な雰囲気を感じ取ってな」
「地脈に異様な雰囲気?」
俺はふと、今朝飛行場で感じた気配を思い出した。確かあの時も北の方から感じたはずだ。
「うむ、地脈の流れが自然のものとは異なる動きをみせての。今は大丈夫のようじゃが」
「それで、どうしてこの島に来たのでしょうか?」
如月会長が続けて、師範に尋ねる。
「先にも思ったが、お嬢さんも可愛いらし……」
如月会長は、ニコッと微笑む。その場にいた全員がわかった。これは怖い。早く答えなさいという雰囲気だ。
「これまた怖いお嬢さんじゃ。原因の島に、今朝着いての。お腹が空いたから、朝ご飯を食べようと、魚を捕まえるために海に出たら、思わぬ潮の流れに捕まり、ここまで流れ着いたというわけじゃな」
師範の言葉に全員が驚いた。
「あの島からここまで泳いだんですか!?」
「ぶわっはっはっは! まぁ、結果的にそうなるかの」
師範は大声で笑い始めた。
北側の島。
ここに、妖艶な雰囲気の女性が一人いた。
彼女は、周りの豊かな自然の雰囲気に全く合っていない、綺麗な紺色の着物を着ている。
「まさか、あんな大物がここまで来るとは思わなかったわ。おかげで実験を中断してしまったけど、今はいないみたいね? どこにいったのかしら、あのおじいちゃん」
彼女は、そっとその場にしゃがみ込み、地面に手を当てる。
「いないのなら、いいわ。とりあえず、実験を再開しましょう」
そう言うと、彼女は地面に触れた手に力を込めて、彼女の周りに赤黒い光が漂い始める。
すると、一瞬、彼女の近くに巨大な生き物のような何かの影が現れ始めるのだった。




