第拾伍節『皇女』Der fünfzehnte Abschnitt : “Prinzessin”
天環暦2110年01月12日。
宴の翌々日、ダニエラ嬢は本当に来た。馬車が二台であった。一台は本人、もう一台は侍女と荷である。シュタインエック邸の門を潜った時、エルメンガルトが玄関先で硬直した。屋敷は、狭い。帝都の貴族街の外れ、二階建ての石造りで、部屋数は十二。庭は猫の額ほどで、銀器は半分売った。応接に出せる茶器は、辛うじて揃っている程度である。ダニエラは、其のどれにも触れなかった。通された応接室で、彼女は椅子に腰を下ろすなり、卓の上に紙の束を広げた。
「昨日、覚え書きを作りました。伺いたいことが四十二ございます」
「……四十二」
「危険、費用、期間、必要な道具、術者の条件の順に分けております」
「分類まで」
「同じことを二度訊くのは、時間の無駄にございます。順に参ります」
そして、其の通りにやった。二刻半である。途中でユリアーネが茶を替えに来たが、ダニエラは茶に手も付けなかった。るいの答えを片端から書き取り、判らぬ言葉が出れば説明を求め、説明が判らねば図を描かせた。筆跡は、意外なほど下手であった。
「……失礼ながら、」
三十七番目の質問の後、るいは口を挟んだ。
「貴女樣は、何をお調べでいらっしゃいます」
ダニエラの筆が、止まった。彼女は、しばらく手元を見ていた。それから、顔を上げた。社交の顔では、なかった。
「……妹が、おります」
*
「十四になります」
ダニエラは、卓の上で指を組んだ。
「生まれつき、背骨が曲がっております。……年々、悪くなります。四つの頃はほんの少しでございました。十を過ぎた辺りから、目に見えて」
るいは、黙って聴いた。
「今は、真っ直ぐ座っていられません。其れから、息が。……肺が押されているのだそうです。冬になると、寝ている間に息が止まりかけます。治療術師を七人替えました。咒紋も、薬も、矯めの器具も」
「……」
「一番新しい治療術師が、先月、申しました」
女は、そこで一度言葉を切った。
「あと二年か三年だろう、と」
応接室が、静かになった。
「……妹は、外に出しておりません」
「……」
「其れが、良いことだと思っておりました。……人の目に触れれば、傷つきます。其れくらいなら、家の中で穏やかに、と」
ダニエラは、自分の手を見た。
「私は、外に出ております。毎晩、宴に。……『麗しの華』などと呼ばれまして。其れが仕事にございますので」
「……」
「妹は、其れを喜びます。姉樣は綺麗でいいと。……本当に、喜ぶのでございます。恨み言の一つも申しません」
女は、顔を上げた…目が、赤かった。
「昨夜、貴女樣を拝見して、」
「……」
「三年ほど前の貴女樣を、私は覚えておりました。……失礼ながら、其の折の貴女樣は、妹と似ておりました」
*
るいは、目を閉じた。三年ほど前のルイーゼの背中を、記憶から引き出す。高度の側弯である。胸椎と腰椎が大きくS字に曲がり、肩の高さが左右で違い、骨盤が傾いていた。頭蓋も左右不対称で、噛み合わせも狂っていた。原因は、生活である。陽の当たらぬ部屋で、子供の頃から偏った姿勢で咒紋の勉強と咒術の修行ばかりしていた。ダニエラの妹は、恐らく違う。生まれつき、と言った。四つの頃から兆候があり、成長と共に悪化している。其れは生活によるものではなく、骨そのものの形の問題である。
治せるか。るいは、頭の中で計算を始めた。自分の時は、丸一日かかった。あれは既に成長の止まりかけた十五歳の骨で、しかも術者と患者が同一人物であった。自分の体であれば、痛みも、位置も、内部の感覚も全て判る。他人の体では、判らぬ。十四歳。成長期の途中である。骨は柔らかく、動かしやすいが、其の分、元に戻ろうとする。そして、肺が押されている。肺の圧迫は、骨だけの問題ではない。肋骨の並びが崩れ、其れに合わせて胸郭全体が変形している。骨を直せば、内臓の位置も変わる。急激に変えれば、其れ自体が命に関わる。
『……一度では、無理だ』
るいは、目を開けた。
「……ダニエラ樣」
「はい」
「妹君を、拝見できますか」
女の顔から、血の気が引いた。それから、勢いよく椅子から立ち上がった。
「今」
「……いや、あの、支度が」
「馬車は下にございます。妹の支度は要りませぬ。貴女樣だけ、お乗りくださいませ」
「……」
「今」
*
妹の名を、クラーラ“Klara”と言った。十四である。姉と同じ栗色の髪をしているが、色は薄い。陽に当たっていないのだ。部屋は、明るく整えられていた。窓は大きく、寝台には上等な布が掛かり、卓には本が積んである。侍女が二人、常に付いている。金は、掛けられていた。娘は、寝台の上に体を起こしていた。背中に宛てがった枕が三つ。其れで辛うじて上体を支えている。右肩が高く、左肩が沈んでいる。胸郭が右に捻れ、其れに引かれて首が僅かに傾いている。呼吸が浅い。一呼吸ごとに、鎖骨の上が窪む。
『……肋間筋が使えていない。首と肩で吸っている』
るいは、扉の所で足を止めた。
「クラーラ。お客樣よ」
「……はい、お姉樣」
娘は、るいを見た…そして、微笑んだ。実に、良い微笑み方であった。
「……宮廷咒紋司樣でいらっしゃいますか」
「はい。フォン・シュタインエックのルイーゼと申します」
「クラーラと申します。……お姉樣が、昨夜からずっと貴女樣のお話をしておりました」
「……」
「うるさかったでしょう。お許しくださいませ」
娘は、悪戯っぽく言った。姉が、扉の陰で顔を覆った。
*
診察は、四半刻ほどであった。るいは『透視』の咒紋式を組み、クラーラの体の内部を、上から下まで丁寧に視た。結果は、予想より悪かった。脊柱の弯曲は、るいの三年前より深い。胸椎の捻れが強く、其れに合わせて肋骨の形そのものが変形している。右の肺は、正常の六割ほどの容積しか無い。そして、心臓の位置がずれている。押されているのだ。
『……これは、放置すれば二年三年というのは、正しい』
治療術師は、無能ではなかった。正確に見立てている。
「……クラーラ樣」
「はい」
「一つ、伺います」
「はい」
「痛いのは、嫌ですか」
部屋が、静まった。姉が、息を呑む音がした。娘は、るいを見た。そして、少し考えてから、答えた。
「……嫌にございます」
「……」
「ですが、」
クラーラは、寝台の上で、僅かに姿勢を直そうとした。直しきれずに、諦めた。
「嫌だからと、逃げられるものでもないと、存じております」
*
るいは、姉妹に向かって、正直に説明した。治せる見込みはある。だが一度では無理であること。骨を直せば内臓の位置が変わる。急激にやれば、其れ自体が命を奪う。ゆえに、少しずつ、幾度にも分けてやらねばならぬ。恐らく、一年から二年。その間、痛みが伴うこと。るいは自分の時、痛みを咒紋で遮断した。だが他人の脳に干渉するのは、自分の脳に干渉するより遥かに危険である。ゆえに、完全には遮断できぬ。そして──前例が無いこと。
「私は、自分の体で一度やっただけにございます。他人の体でやったことはございません」
「……」
「咒紋府に届け出て、受理されております。技法は公開されております。ですが、使った者は、まだ私しかおりませぬ」
ダニエラは、蒼白になっていた。
「……失敗すれば」
「死にます。失敗した場合の、最悪の結果です」
るいは、はっきりと言った。
「あるいは、今より悪くなります。其れも、十分に有り得ます」
言い終えて、るいは自分の口調に驚いた。十七年、彼はこういう説明ばかりしてきた。実験の被験体になる者に、危険を説明し、予算を出す者に、失敗の確率を説明し、教授会に、想定される最悪の結果を説明する。説明せずに始めた実験は、一つも無い。自分の脳を実験台にした時ですら、彼は書面を作り、想定される損傷を列挙し、其れを一人で読んでから椅子に座った。誰も見ぬ書面である。だが、書かねば始められなかった。
「……お姉樣」
クラーラが、静かに言った。
「はい」
「何もしなければ、あと二年ほどにございますね」
「……そう、言われております」
「治療を選べば、其れより短くなるか、長くなるか。どちらも有り得る」
娘は、るいを見る。
「左樣でございますか」
「……はい」
「では、選ぶ余地がございます」
クラーラは、浅い呼吸のまま、はっきりと言った。
「私、やります」
「クラーラ!」
「お姉樣。何もしない方は、もう結果が決まっております」
*
その帰り、馬車の中で、るいは長いこと黙っていた。エルメンガルトが、心配そうに見ている。
「……エルメンガルト」
「はい」
「引き受けた」
「……はい」
「一年から二年、月に二度通う。其の度に、あの娘に痛い思いをさせる」
「……はい」
「失敗すれば、死ぬ」
女中頭は、しばらく黙っていた。それから、静かに言った。
「帝國伯令嬢」
「うむ」
「……お手当ての話は、なさいましたか」
るいは、其の場で固まった。
「……忘れた」
「帝國伯令嬢!」
*
手当てについては、翌日ダニエラから使いが来た。金額は、るいが想像していた三倍であった。しかも、前払いである。書狀には、こう添えられていた。
治るか否かに関わらず、右の額を差し上げます。
貴女樣は、二年、他の仕事ができなくなります。
其の分にございます。
るいは、書狀を三度読んだ。
『……この人は、買っているのではない』
治療を買っているのではない。るいの二年を買っているのだ。結果ではなく、時間に払う。これは──研究費の考え方である。良いスポンサーの、である。
『……敵わんな』
*
その金で、るいはまず、ブルクマイアへの借りを半分返した。残りで、紙を六百枚買った。そして、次の巡察の算段を始めた矢先に──皇宮から、書狀が届いた。
*
第二皇女ブリュンヒルト付き家庭教師。其れが、るいの職名である。宮廷咒紋司第十三座という肩書は、実のところ、この任に付随したオマケであった。二年前、皇女がルイーゼを家庭教師に欲しいと駄々をこねた。皇女の家庭教師には相応の格が要る。ゆえに、誰も欲しがらぬ第十三座の席に、十三歳の下級貴族の娘が座らされた。そして半年後、皇女はるいを呼ばなくなった。以来、二年である。書狀は、皇女の女官長からのものであった。
第二皇女殿下におかれましては、来る三日後、
午後の講義を再開あそばされたく、
シュタインエック伯令嬢の参内を求められます。
るいは、書狀を卓に置いた。そして、しばらく天井を見上げていた。
『……二年ぶりに、か』
ルイーゼの記憶を引き出す。最後の授業のことは、はっきり覚えている。
*
二年前…皇女の私室である。ブリュンヒルトは、十四であった。咒紋の初等の課題を出されていたが、三度続けて手を付けていなかった。その日、皇女は取り巻きの侍女五人と共に部屋に居た。ルイーゼが課題の話を切り出すと、皇女は笑った。侍女も笑った。皇女は「そんなものは學ばずとも困らぬ」と言い、侍女たちが「その通りでございます」と唱和した。ルイーゼは、其処で言ったのである。「殿下。學ばずとも困らぬのは、今だけにございます」
「殿下が困らぬのは、殿下が皇女であられるからにございます。其れは殿下の功績ではございません」「私は、殿下より一つ年下にございますが、學院を出ております。其れは、私が學んだからにございます」全て、正しい。一言も、間違っていない。そして──侍女五人の前で言った。皇女は、顔を真っ赤にして、部屋を出ていった。その日以来、るいは呼ばれていない。
『……』
るいは、両手で顔を覆った。
『……最悪だな、これは』
自分のものであって、自分のものでない記憶を覗くのは羞恥物である。十三歳のルイーゼには、判らなかったのだ。あの娘が課題をやらなかったのは、怠惰だからではない。出来なかったからである。初等の課題である。學院の六歳の児童がやるものだ。其れを十四の皇女が三度手を付けなかったということは、其れが解けなかったということである。解けぬと言えぬから、やらなかった。やらぬ理由を訊かれたから、笑った。そして侍女の前で、一つ年下の娘に、正論を突きつけられた。
『……十三歳に、其れを見抜けというのは酷か』
だが、常磐塁なら見抜いた。いや──見抜けたかどうかは判らぬ。彼も対人関係で失敗を重ねた男である。ただ、大勢の前で言ってはならぬということだけは、幾度も痛い目に遭って覚えた。三十五の男が二十年かけて覚えたことを、十三の娘が知らなかった。其れだけの話である。
*
三日後、るいは参内した。皇宮の東翼、第二皇女の私室である。通された部屋は、二年前と何も変わっていなかった。壁の織物も、卓も、窓辺の花瓶も。ただ、花瓶に活けてある花だけが違った。そして、侍女が居なかった。一人も、である。部屋の中央に、ブリュンヒルト姬が一人で座っていた。十七になっている。二年前より、太っていた。それも、かなり。頬が丸くなり、顎の線が消え、指が太くなっている。美食と観劇に耽っていると聞いていたが、なるほど、とるいは思った。皇女は、るいを見た。そして、明らかに、動揺した。目が泳ぎ、口が僅かに開き、扇を持つ手が卓の上で止まった。
「……シュタインエック」
「はい」
「……お前、」
皇女は、言葉を探した。
「……誰」
*
るいは、深く一礼した。
「シュタインエック伯令嬢、ルイーゼにございます」
「……」
「二年ぶりにございます、殿下」
「……顔が」
「はい。事故の後、咒紋で歪みを直しました」
「……歪み」
「背骨と、頭蓋と、噛み合わせを」
皇女は、まじまじとるいを見た。それから、扇を卓に置いた。置いた手が、僅かに震えていた。
「……座れ」
「はい」
るいは、卓の向かいに座った。沈黙が、長かった。皇女は、卓の上を見ている。るいを見ない…やがて、口を開いた。
「……なぜ、来た」
「お召しにございましたので」
「……講義をせよと、妾が申したからか」
「はい」
「……」
皇女の指が、卓の縁を掻いた。
「……妾は、二年、お前を呼ばなかった」
「はい」
「其れでも、来るのか」
「はい」
「なぜ」
るいは、暫く考えた。ここで、講義の話を始めることもできる。二年の空白を無かったことにして、初等の課題から始めることもできる。其れが、恐らく最も無難であった。だが。
『……無難にやって、また二年空くのは、御免だ』
るいは、椅子から立った。そして、床に膝を突いた。皇女が、ぎょっとして顔を上げた。
「……何を、」
「殿下」
るいは、床に手を突いて、頭を下げた。
「二年前、大勢の前で殿下を窘めましたこと、私めの落ち度にございました」
部屋が、静まり返った。
「申し訳ございませんでした」
*
ブリュンヒルトは、動かなかった。何を言われたのか、判らぬ顔をしていた。やがて、ひどく掠れた声で言った。
「……何だ、それは」
「謝罪にございます」
「……」
「私が申し上げたことは、内容としては誤っておりませんでした。ですが、申し上げ方が誤っておりました」
「……」
「侍女の前で申し上げるべきではございませんでした。あれでは、殿下は引くに引けませぬ。……私は、殿下に逃げ道を残しませんでした」
皇女の口が、震え始めた。
「其れは、私の未熟にございます」
るいは、床に手を突いたまま続けた。
「其れから、もう一つ」
「……」
「あの課題は、難しすぎました」
皇女が、其の言葉で、弾かれたように顔を上げた。
「……何を、」
「學院の初等課程は、六歳から始まります。ですが、其れは六歳から毎日八年やった上での初等課程にございます。……殿下は、咒紋を八年やっておられません」
「……」
「私は、其れを考えずに課題を出しました。出して、やらぬと責めました」
るいは、顔を上げた。
「出来ない課題を出して、出来ぬと責めました。教師として、最も為してはならぬことにございます」
ブリュンヒルトの顔が、歪んだ。
「……黙れ」
「はい」
「黙れと申しておる!」
皇女は、卓を叩いた。扇が跳ね、床に落ちた。
「妾を、憐れんでおるのか!」
「いいえ」
「では何だ! 二年も来なかった女が、いきなり床に手を突いて、何のつもりだ! 妾が呼ばなんだのは、妾が悪いと申したいのか!」
「いいえ」
「では何だ!」
るいは、まっすぐに皇女を見た。
「私が、悪うございました」
*
皇女は、口を開いたまま固まった。それから、顔を背けた。肩が、震えている。
「……出て行け」
「はい」
「出て行けと申しておる」
「はい」
るいは、立ち上がった。そして、床に落ちた扇を拾い、卓の上に置いた。一礼して、扉に向かった。扉に手を掛けた時、背後から声がした。
「……シュタインエック」
「はい」
「……あの課題は、」
皇女は、るいを見ていなかった。窓の方を向いていた。
「……三日、やった」
るいは、扉の前で足を止めた。
「三日、誰にも見せずに、やった」
「……」
「解けなんだ」
「……はい」
「妾は、皇女ぞ」
皇女の声が、掠れた。
「……皇女が、六つの子供の課題を、三日かけて解けなんだ」
るいは、扉から手を離した。そして、部屋の中央まで戻った。
「殿下」
「……何だ」
「其れは、殿下の頭が悪いからではございません」
「……」
「手順を、誰も教えなかったからにございます」
皇女が、振り向いた。
「……手順」
「はい。咒紋式を組むには、順序がございます。其の順序は、學院では二年かけて体に叩き込みます。順序を知らずに式を組もうとすれば、誰であっても解けませぬ。……私でも、其れは同じにございます」
「……」
「殿下は、順序をご存知ない。ご存知ないまま、答えだけを求められました。……解けぬのが、当然にございます」
ブリュンヒルトは、るいを見た。目が、赤い。
「……お前は、」
「はい」
「……妾に、其の順序を、教えるのか」
「はい」
「六つの子供が二年でやることを、十七の妾に」
「殿下は十七にございます。六つの子供より、遥かに速く覚えられます」
るいは、少し笑った。
「……半年で足ります」
*
その日、講義は行われなかった。皇女が、「今日は疲れた」と言ったからである。るいは一礼して退出した。皇宮の廊下を歩きながら、るいは考えていた。落ちてはいない。あの皇女は、まだるいを許してはいない。二年分の意地がある。今日一日で解けるものではない。だが、扉は開いた。
『……半年か』
半年、月に何度か通う。ダニエラの妹には、月に二度通う。次の巡察は、三十州である。
『……時間が、足りんな』
思いながら、るいは宮殿の中庭を横切った。冬の日が、石畳に落ちている。と、其の時、るいは視界の隅に其れを視た。比率である…七対三。合計は、東部で減ったきり、戻っていない。戻っていないが──此処は、都である。咒氣の層は厚く、咒紋は自在に組める。半年ぶりに、るいは本来の力を取り戻している。なのに、比率は戻らぬ。
『……減ったものは、戻らんのか』
るいは、掌を見た。そして、其の思考を、意識して押しやった。考えることは、他に幾らでもある。




