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薄幸の魔導師オメガが冒険者になったら、最強勇者の子供を授かりました  作者: 碧木二三
第三章 最強勇者と魔導師オメガの俺が番になるまでの話

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     ➕ ➕ ➕



 翌朝、俺の体調はヒートの直前特有の気怠さの中にあった。

 だが、これで一安心とはいかない。この程度ならば別に珍しい不調ではないからだ。

 期待はするなと言っておいたにもかかわらず、レオスは上機嫌だった。どうやら俺のフェロモンが、昨夜よりもまた一段と強くなっているらしい。

 相変わらず、他人の匂いには敏感でも、自分の匂いについてはよくわからないのだが、とりあえず少し強めの抑制剤は飲んでおいた。いざ発情となれば、いくら薬を飲んだところでほとんど効き目はないが、念の為だ。

 朝から目一杯甘やかされ、朝食もレオスがベッドまで運んできてくれた。そのまま好きなだけ休んでいていいとまで言われる。

 兄は朝早くに王都に向かい、屋敷の中にはなんとなくゆったりとした時間が流れている。俺たちの存在に慣れてきた使用人たちの顔つきも穏やかだった。

 キリィも、独自に情報を集めに行くと言って出かけて行った。

 そしてパットは、メグを連れて新しい服を買いに行くという。メグの素性とその事情がわかった途端、彼女の世話焼きモードが発動したらしい。


『地味な服が好きならそれでもいいけど、とにかくその黒は全然似合ってないのよ! 髪も切るわよ、いい?』

『は、はい!』


 見たところ、メグは完全に気圧されていたが、さりとて無理強いされている風でもなく。とにかく二人は、まるで年の離れた姉妹のように仲良く(?)街へと向かった。


 パットたちよりも早い時間に、イコもヴォルフと一緒に街に出かけて行った。

 新品を求めるパットたちとは違い、イコの目的は月に一度、その街に立つという大規模な(のみ)の市である。冒険者たちが手放した愛用の品々や、彼らが書いた手記を探すのだそうだ。

 そうやって各自が、何やら示し合わせたように出払っていた、その午後のこと。日当たりの良いテラスのテーブルで、レオスとお茶を飲みながらのんびり寛いでいると、執事が俺のもとにやって来てこう言った。


「ただ今、リーファス様に至急お目にかかりたいと仰るご婦人がお見えでございます」

「ご婦人? 俺にか? 誰だ」

「それが、ゾッド夫人と名乗っておいでです」


 いかがなさいますか? と、伺いを立てられた俺は、レオスと思わず顔を見合わせた。

 ゾッド夫人……、ヨタカ殿、いやクィルの母親か。予期せぬ人物の来訪だったが、俺はほとんど迷わなかった。


「わかった、会おう。応接室にご案内を」

「かしこまりました」


 一人で会うつもりだったが、レオスが俺から離れようとしないので、仕方なくそのまま一緒に応接室に向かう。

 中に入ると、胡桃色の仕立ての良い外出着を着た小柄なご婦人が、ひどく憔悴した面持ちで立ち尽くしていた。年の頃は四十半ばぐらいであろうか。


 ──ふぅん? これが、ゾッド夫人……ホーンオウルの上の娘か。


 一見すると、存外に()()()()()な……、否、油断は禁物だ。

 さて、一体何が飛び出してくるのか。

 今回のことは全てクィルの一存で、彼がただ一人でしてのけたこと。

 ゾッド家においては一切(あずか)り知らぬことなので、どうか当家に対しては寛大なる措置を! と。

 正直なところ、そうした(たぐい)の弁明をまくし立てられるのかと思って身構えていたのだが、その予想は完全に外れた。

 俺の姿を見るなり挨拶も名乗りもせず、彼女は胸の前で祈るように手を組み合わせ、その場に(ひざまず)いた。


「ゾッド夫人、何を……」

「リーファス様! ああどうか、どうかお願いでございます! わたくしの息子を……、あの哀れなクィルをどうか()()()()()()()()()!」



     ➕ ➕ ➕



 客人が帰ったあと、少し気疲れをした俺は夜を待つことなくまたベッドに入った。

 当然のようにレオスもついてきて、一緒になってゴロリと横たわる。まるで、大きなネコ科の獣を飼っているみたいだなと思いながら、抱き寄せられるままに彼の胸の上に頬を預けた。


 ──ああ、やっぱり落ち着くな。


 昨夜、十四年ぶりに肌を合わせたとは思えないほど、しっくりと馴染んだ()()の匂いだ。暖かな陽射しのような、力強くて、でもほんの少しだけ苦味のある……。

 レオスの匂いの質は、昔と変わっていない。

 俺のもそうなのだろうか。完全に思い出すことはなくても、どことなく懐かしいような想いは抱いてくれているのか、昨夜以来、レオスはなかなか俺から離れようとはしない……。


「──さっきの話だが。アレは、トワにもあるのか?」


 と、俺の頭を撫でてくれながら、唐突にレオスが切り出してきた。


「さっきの? ああ、ゾッド夫人か?」

「ああ。魔力の回路がどうとか。話の腰を折るのもどうかと思って、あの場では訊ねなかったんだが」


 やけに大人しいなと思ってはいたが、ただ単に、魔導師の家に生まれた者同士の会話についてこれていなかっただけのようだ。


「魔力回路の刻印。起動。そのあたりか?」

「そう、そのあたりだ。一子相伝だというのはなんとなく理解した。つまり、その刻印とやらはイヴリール殿にはあるが、トワにはない、という理解で合っているか?」

「その通りだ。合っている」


 魔力回路の刻印とは、即ち魔術で編まれた家の紋章のようなものだ。先祖代々、当主にのみ受け継がれる秘法とともに継承される。

 我がレイブン家では当然、兄が右の上腕部にその刻印を有していた。


「一度その身に受け継げば、本人が死ぬか次代に引き継がせるまでは身体から消えることはない。おまけに先祖からの悲願のようなものまで、まるで呪いのように付随していることもあって、よほど本人の魔力回路が強くないと、ずっとその念に縛られることになる」


 その呪いは当然、ホーンオウル家の刻印にもあるわけで……。




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