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薄幸の魔導師オメガが冒険者になったら、最強勇者の子供を授かりました  作者: 碧木二三
第三章 最強勇者と魔導師オメガの俺が番になるまでの話

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54/58

18-3 ※

※ ※ ※

今回の話にはR-15の表現が含まれています。


 そう言われた瞬間、ぞくりと背筋が粟立った。

 ずっと忘れていた、身体の芯を灼くような熱。

 強く手を引かれ、連れて行かれたのは、昨夜レオスとイコが一緒に泊まっていた客用の寝室だった。


「……っん、」


 部屋に入るなり抱き寄せられ、貪るように口づけられる。

 ……話をするというのは方便か。あの眸を見たときから、それはわかりきったことだったが、それでも最低限の順序は踏んでおきたかった。

 身体の線をなぞりあげるように、大きな手で撫で回される。頭の後ろを荒々しく撫でられたとき、髪を結っていた(ひも)が解けた。

 すると今度は、ぐしゃぐしゃと髪を掻き回される。頭を振って逃げようとすると、離した唇にまたかぶりつかれた。


「レ、レオッ」


 たまらず叫ぶように名を呼ぶと、男はやや不満げに目を眇めた。


「……。何だ、その顔は」

「何って。お預けを食らって、しょげている顔だろう?」


 首を傾けたレオスが、ぬけぬけとそう答える。俺は短くため息を吐いた。


「嘘をつけ。そんなふてぶてしい顔で」

「そうだな……。残念だが仕方ない。ここは良き伴侶として振る舞おう」

  

 ふいに殊勝な顔つきになって、レオスは言った。乱れた髪を直すように撫でてくれながら、(つね)の快活な口調に戻って続ける。


「だいぶ疲れているようだし、昨夜もあまり眠れていないだろう? 今夜はもうここでゆっくり休め」

「……二人で話をするんじゃ?」

「それは別に、いつでも出来るからな。さあ」


 昨夜イコが使っていたベッドはそっちだ、と二つ並んだ客用のベッドのうち、窓側にある方を指し示される。

 だが、離れようとしたその身体を咄嗟(とっさ)に掴み、引き戻したのは俺だった。


「トワ?」

「その……、誤解して欲しくないんだが、お前と触れ合うのが嫌なわけじゃない」


 そう言って、俺は顔を伏せた。そして、息を吸ってさらに話を続ける。


「とっくに気がついているだろう? 俺は近いうちにヒートが来る。それで、お前がもし俺を求めてくれるのなら、その、もちろん応じるつもりだが……」

「だが?」

「──だが。怖いんだ」

「怖い? 何がだ?」


 訝しげに眉を(ひそ)める男の逞しい腕に縋りながら、俺はとうとう告白した。


「……レオス。俺は、多分もう、()()のオメガなんだ」



 ──それから俺は、ぽつぽつとイコを産んだ時のことを全て話した。さらにはレオスと番うことについて、このところ思い悩んでいたことも。

 かつて、俺と記憶を失う前のレオスとは、いつか『番』となる約束を交わしていた。

 だが、不完全なヒートで弱い発情しか起こせないオメガのことを、果たしてアルファは真に求めるものなのか。

 もし番になったとしても、そこに同情や憐れみが介在するのなら、俺はその負い目を一生、背負いきれるのか。

 否、もしかするとレオスには他にもっと、相応しい相手(オメガ)がいるのではないか、と。

 だとしたら、番という関係で愛する者を縛りつけたくなかった。それはきっと、双方にとっての呪いとなる。

 それに番の関係は、アルファの側からなら解除することができる。だがレオスは、たとえ本当に心変わりをしたとしても、いざ俺を捨てるとなればきっと己を責めて苦しむだろう。

 一方で傷物の俺は、番に捨てられた後にヒートが来ても、これまでと同じように薬で簡単に発情を抑え込むことができる……、はずだ。

 だから……。


「だから、レオス。もしもヒートの時、ちゃんと発情できなかったら、項は……噛まないで欲しい。本当の意味で番にはなれなくても、お前が生きていてくれるだけでもう充分、俺は幸福なのだと知ったから」

 

 このままでも、二人で愛し合うことはできる、と……。そう続けるつもりだった俺は、ただならぬ気配にハッとして口を閉ざした。


「レオ……ス?」

「言いたいことは、それだけか?」


 その声は、淡々と。そしていつもは闊達(かったつ)な色を湛えているその目は今、冷ややかに俺を見下ろしていた。

 初めて見る表情だった。

 ……怒って、いるのか。大きな手が、無遠慮に頬を撫でてくる。動けずにいると、そのまま反対の腕を掴まれて乱暴に引き寄せられた。


「──っ!」

「トワ。お前は何一つ悪くないのに、どうしてそんなに自分を(おとし)めるような物言いをする? 俺に相応しいオメガってどういう意味だ」

「レオ……」

「傷というなら、俺にだってある。トワのことを含めた五年間ほどの記憶もない。……それでも、この俺のことだ。帰ってきた暁には、必ずお前を俺の番にすると決めていたはずだ。現にその約束は交わしていたんじゃないのか?」

「で、でもそれは……」

「ああ、約束したのは記憶をなくす前の俺だ。なら、お前こそはっきりとそう言えばいい。お前との事を何一つ覚えていないくせに今更のこのこ現れて、偉そうに伴侶ヅラをするな、と……」

「違うっ! そんなわけない……!」


 ──もうやめてくれ。そんな酷い言葉をこれ以上聞きたくないと、俺はレオスの手を振りほどこうとする。だが腕を掴んでいる手はまったく緩まない。


「あ……」


 呆然と見開いた俺の目から、溢れ出すモノ。

 すると、頬に当てられていたレオスの指が動き、伝い落ちるそれをそっと拭ってくれた。


「何故、泣いている?」

「だって、レオが……。か、勝手に俺の気持ちを悪く歪めて、言うからだ! そんなわけない、のに!」

「なら、今の俺の気持ちがわかったか?」

「……ああ」


 それが当然のようにぎゅっと抱きしめられて、俺はほっと息をつく。

 ところが、一度高ぶってしまった感情はおさまらず、喉の奥からしゃくりあげるような声が出てしまった。

 トントンと、あやすように背中を撫でられる。


「なあ、トワ。お前は俺にとって最高の、ただ一人の伴侶だ。もしお前も俺のことをそう思ってくれているのなら、もう二度と、俺の大切な人を『傷物』だなんて言うのはよしてくれ」


「……っ、すまない」


 謝るな、とレオスは強い口調で言った。


「ましてやその傷は、イコを命懸けで産んでくれた時のものなんだろう? ……そんな時にそばにいてやれなくて、本当にすまなかった」

「うっ、……っ」


 涙が溢れて止まらない。


 ──ああ。つまるところ、俺は……。

 愛する者に失望されることが怖くて、自分への自信の無さから、物分かりのいい素振りでレオスのことを諦める準備をしようとしていた。

 挙句の果てには、それが素晴らしいアルファであるレオスの為なのだと、そう自分に言い聞かせて。

 全くもって、何たる欺瞞か。自己完結もいいところだった。

 もしパットがこれを知ったら、盛大に呆れ返ることだろう。


 ──どうして今更、レオスの愛情を疑うのか、と。


 深い自己嫌悪に陥りつつも、ズズ……ッ、と鼻を啜る音を出してしまう。我ながらなんて締まらない……、とさらに途方に暮れていると、はあ、と盛大なため息が聞こえてきた。


「やっぱり駄目だな」


 次いで、苦い声が降ってくる。


「レオ?」


 顔を上げてみると、声と同じ、苦いモノを噛みしめるような顔つきになったレオスが、俺をじっと見下ろす。


「本当に、今日はもう寝かせてやるつもりだったんだがな」

「なんで……」


 ……いや。いや、おかしい。

 大の大人が、涙と鼻水にまみれた顔を晒しているというのに、なんでそうなる?

 密着し合っている身体が、燃えるように熱い。

 腰の辺りには、固く当たるものがあって……。


「なんで……。それに、ヒートはまだ……」

「そんなもの、関係ないだろう。俺はいつでもトワを抱きたい」


 ひたむきに突きつけられるその激しい熱情に、俺の身体の中に眠っていた種火が次第に燃え上がっていく。

 もう、何も。十四年という年月でさえも。

 レオスとの──愛しい者との間を隔てるものは、もう何一つなく……。


 キスを交わしながらベッドに押し倒され、着ているものをすべて剥ぎ取られてもなお、現実感には乏しく。

 それでも、自分だけ素裸(はだか)を晒すのはと、前からのしかかってくるレオスのシャツの(ボタン)を外そうとすると、そうはさせじとその手を握られてしまう。


「レオ?」

「……悪いが、今はこのままで」


 甘い声とともに意味ありげに微笑まれては、不本意だがその意を受け入れるしかなかった。

 それよりも、レオスが発散させる匂いと熱の所為で、頭の中はふわふわとした多幸感に満ち溢れて……。

 ああ、まさに夢見心地というやつだ。潰れた蛙のような、色気のない喘ぎ声も相変わらずだったが、でももうそんなこともどうでもよくて……。


 それから、俺たちはたがが外れたように互いを求め合った。


「レオ……、レオ、好き……。もう、離れるな……っ」

「ああ、トワ。俺もだ。……二度と、離さない。愛してる……!」


 俺は無我夢中になって太い首に腕を回し、胎の奥にまで届く熱に浮かされながら、その深い快楽に酔い痴れた──。



 

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