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理由は後付けで  作者: 浅井天
第二章:献身循環団体と田中優成

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7/21

田中優成君編2

 日曜日ということもあって平日とは異なる賑わい方をしている街を抜けて住宅街に入った。

昨日も歩いた道なこともあって迷いもなく歩を進めているが頭の片隅では昨日、青木先輩が言った「あの家族なにかありそうだからよく観察しておくんだぞ」を意識して気を張っていた。


気を張っていることが隣を歩いている先輩にも伝わったのか先輩は僕の方をじっとみて「正人、あんまり緊張するなよ。子供を相手にするんだから笑顔でな」と言った。

僕は心の中であなたのせいでこうなってるんですけどと思ったが口には出さなかった。


心とは正反対の表情と言葉を並べた。

僕は満面の笑みで「はい、青木先輩アドバイスありがとうございます」と言った。


「正人、その笑顔は少し可笑しい」と言って先輩はこらえきれずに笑っていた。

「青木先輩が笑顔にしろって言ったじゃないですか」

「俺は確かに笑顔と言った。しかし、正人のそれは変顔に近いぞ」

先輩はお腹を抱えながらまだ笑っている。


僕の渾身の笑顔を先輩はこのように言うとは先輩の高かった評価を見直す必要があるかもしれないと思った。

「そんなことないですよ。そんなに言うなら先輩の笑顔見せてくださいよ」

「いいよ」先輩は笑顔を作った。

しかし、その笑顔こそ純度100%の変顔だった。


僕は思わず笑ってしまった。おそらく、先輩は笑いをとるためにふざけたのだろう。

「それこそ、変顔でしょ」と僕は言った。

先輩は笑って「そんなことないだろう」ととぼけたように言った。


 そんな、おふざけのような会話をしていると優成君の家に着いていた。

先輩は真剣な顔つきをしてインターホンを押した。チャイムが家中に響きわたると昨日と同様、お母さんが出てきた。お母さんは僕たちの顔を見ると今回は快く家の中に案内してくれ、リビングにとおされた。リビングの雰囲気はごく普通といった印象で何もおかしなところが見当たらない。先輩は優成君を見つけると駆け寄って抱きついた。

よく、お母さんの目の前でできるなと感心しながらお母さんの表情を確認したが違和感はなく息子の幸せを喜ぶ母親の顔だった。


 「よし、優成。今日はお兄さんたちと何して遊びたい?」と先輩は訊いた。

優成君は迷う様子もなく即座に「トランプ」と答えた。

「トランプかいいぞー。やろう」

優成君はトランプを近くの棚から持ってきた。


まずは、3人でババ抜きをした。先輩が一番であがって僕と優成君の勝負になった。僕が2枚持っていて左側がジョーカーで右側がスペードの7だ。優成君は1枚しかないので2分の1で優成君の勝ちという状況になっている。大人げないと思われるかもしれないが僕も負けず嫌いなので負けたくはない。


どちらを取るのか駆け引きが続いた。

「正人君。ババはどっちですか」と優成君が訊いてきた。

「僕からみて右だよ」僕は平気で嘘をついた。

優成君は迷うことなく僕から見て右のカードを取り、あがった。

僕はスペードの7が抜かれた瞬間に負けを認識した。

ジョーカーをおいて手をたたいて悔しがった。


「優成君どうして僕が嘘をついているってわかったの」と僕は訊いた。

優成君はなかなか答えなかったのでもう一度訊いた。


優成君は「あ、すいません。何か言いました?」と言った。

勝ちに浸ってぼーっとしていたのだろう。

僕はもう一度同じことを訊いた。

優成君はうなずいて「それは、ババはどっちかと訊いた時に少し左側に視線がいっていたので」と答えた。


僕は感心した。小学3年生にここまで見破られているとは大した洞察力だ。

僕にも小学生の頃にこれだけの能力が備わっていたのならもう少しうまく人生を過ごせていたかもしれない。それは無駄な願いだと気づくことにさほど時間を要さなかった。たとえ、能力があったところで僕なら使いこなせずに今と同じ道をたどっていたであろう。


 そのあとは神経衰弱、7並べ、UNO、オセロ、人生ゲームをした。僕は全部負けた。

遊びながら優成君は僕たちにすごく興味があるようでたくさん質問をしてくれた。

「拓馬君と正人君のお家はここから近い?」

僕たちはそろってかぶりを振って「遠いよ」と答えた。

「僕の家にどうやって来たの?」

「電車に乗ってきたんだよ」

「拓馬君と正人君のお家はどこなの?」

「滋賀県っていう京都府の隣の県にあるんだよ」先輩が答えた。

「正人君は?」

「僕も滋賀県だよ」

「拓馬君と正人君は何歳?」

「俺は19歳だよ」先輩が答えた。

「僕は18歳だよ」


質問攻めでとりとめのない会話だった。


 お母さんはキッチンで晩御飯の用意をしているようだったが用意が終わったのか椅子に座って僕たちが遊んでいるところを見ていた。特に口出しする様子もなく子供を見守る保護者であった。


 遊んでいるとあっという間に時間は過ぎて17時を告げる防災のチャイムが響いていた。

青木先輩が立ち上がって「そろそろ、お兄さんたち帰ろうかな」と言った。

優成君は残念そうに「えー、もう帰っちゃうの」と言ったがそれ以上は僕たちをとめようとはしなかった。

僕たち3人で片付けをして、帰る準備をした。


僕たちは玄関で別れの挨拶をした。

「僕たち帰るな優成。今日はすごく楽しかったよ」と青木先輩が言った。

優成君は寂しそうに俯いている。


俯いている優成君に合わせてしゃがんで顔を下から覗いた。

優成君は先輩を見ると笑顔になって顔をあげた。


お母さんは「今日は優成と遊んでいただいてありがとうございました」と言った。

「いやいや、僕たちが遊んでもらっていたようなもので、すごく楽しい時間でした」と先輩は言った。

僕も先輩に続けて「休日にお家にお邪魔させていただいてありがとうございました」と言った。


先輩は玄関の扉に手をかけて扉を開けた。

扉を超えきる前に振り向いて優成君の方をみて「また来るから」と言った。

そう言うと先輩は軽快に外に出たので僕も急いでついていった。


 先輩は昨日と同じように500メートルほど無言で歩くと話し出した。

「正人的にはおかしなところとか気になるところあったか?」と先輩が訊いてきた。

「特になかったと思います。昨日と今日の印象を合わせると子供のことを考えて厳しくしているどこにでもいるお母さんとその子供といった印象でしたね。なので特に違和感を覚えることはなかったですね」


「確かに、正人の言ったとおり特におかしなところはなかった。俺の思い違いだったのかもしれないな」

先輩はそういうと真剣は表情から逆転してすごく笑った。

僕も先輩の笑い声を聞いて緊張がとけて甲高く笑った。


先輩は笑うのをやめてまた真剣な表情に戻って話した。

「でも、やっぱり気になることがあるんだよ。正人は水曜日の16時以降空いてるか?」

「空いてますよ」

「なら、一緒に来てほしいところがあるから来てくれないか?」

「いいですよ」

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