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理由は後付けで  作者: 浅井天
第二章:献身循環団体と田中優成

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田中優成君編1

 気づいた頃には6月になっていた。あれから変わったことと言えばアルバイトを始めたことだろう。始める前は何かと理由をつけて後回しにしていたのだが大学にも慣れて少し時間を持て余しはじめていたので重い腰を上げてバイトを始めたのである。問題というのは先送りにしたとしても最終的には対処をしないといけないのだと心から思う。今の自分がやるのか未来の自分がやるのかの違いでしかないのだ。


 最初のアルバイトはスーパーで働くことにした。大手のスーパーなのでかなり大きく従業員数も多いのでまだまだ知らない人ばかりだ。時給は最低賃金の1070円だが楽しいので文句はない。


仕事内容というのは賞味期限の近い商品をピックして値引く作業や品出しだった。毎日のように同じ商品が残っているので人気のない商品がはっきりとわかる。自分の嫌いな食べ物が残っていた時は自分だけではないのだと気づいて少しうれしく思う。品出しをしているとその商品を食べたくなってしまう。あれも食べてみたいこれも食べてみたいの繰り返しでバイトで稼いだ金のほとんどがとんでいってしまいそうなので財布のひもを強く縛っている。


そんなバイト生活だが同じアルバイトの人たちと話していて気付いたことがあった。佐藤さんの報告書を作成している時に出てきた青木拓馬先輩が同じバイト先だということを知った。青木拓馬先輩は身長が180センチほどあって短髪で髪を茶色に染めていた。身体は筋肉質で第一印象はすごく怖かったが話してみるとすごく優しかった。青木先輩に同じ大学だと聞きましたと話したら青木先輩は笑って「君がリーダーが言ってた新入部員の正人君か。バイトでもサークルでもよろしく」と言った。

僕は背の高い先輩の目を見るために上を見上げて「よろしくお願いします」と言った。


 僕は今、その先輩と一緒に新しい依頼者の家に向かっているのである。

「正人君、学校にはもう慣れたかい?」青木先輩は歩きながら訊いてきた。

「そうですね。大体は慣れました」

先輩はうなずきながら「そうかそうか、それはよかった。今日でサークル活動二回目か?」と言った。

僕は「そうです」と返事をした。

僕は前回の佐藤さん以来のサークル活動となっている。献身循環団体には佐藤さん以降も何度か依頼が来ていたようだが他のメンバーの対応していたので僕にはまわってこなかった。池田先輩にもあの日以来あっていない。リーダーには租税論で何度か会って話をするが大体は他の女の人といる。学校ですれ違う時もいろんな人といる。たぶん、あの人は人たらしなのだろうなと思った。


 青木先輩は「まだ二回目か。わからないことがたくさんあると思うから何でも訊いていいからな」と優しく頼もしい先輩らしく言った。

青木先輩は身体的にも僕よりも力強く精神的にも強く非常に頼りになる存在であると僕はアルバイトを通して感じていた。

僕は先輩の頼もしい発言に対して「ありがとうございます」と元気に答えた。

先輩は僕の返事を聞いて笑った。

「元気でいいことだ。よし、今回の依頼内容の説明をするか」と先輩は言った。

僕は「はい、お願いします」と言った。

先輩は資料を取り出すと話始めた。


「今回の依頼者は小学三年生(8歳)の男の子、田中優成君からの依頼で『兄弟がいないのでお兄ちゃんと遊んでみたい』とのことだ。田中優成君は電話からの依頼だったのだが依頼内容と住所を告げると電話がきれてしまったらしい。なので、今回は予定を詰めることもできていないのでアポなしで突撃することになる。どのようになるのかわからないがとりあえず行ってみようということだ」

僕は話を聞いてふと疑問に思ったことを口にした。

「電話ってどこにかかってきたのですか。学校ですか?」

青木先輩は「学校ではなくて部室の電話だ」と言った。

「部室に電話機ありました?」

「あるよ。リーダーの机にな。もともとあの部屋には電話線通ってなかったんだがリーダーが学校側に無理を言ってつけさせたんだよ。あの時は流石に職員の人たちに嫌な顔されたなー。リーダーに職員の人に滅茶苦茶いやそうな顔されてたぞと言ったら。僕が少し嫌な顔をされるだけで多くの人の利益になって救える人が増えるのなら安いものだね。と言ってたな」先輩は思いふけるように言った。


僕は青木先輩の話を聞いてリーダーもかなり裏では頑張っていたりするのかもしれないと思った。

「そのようなことがあったのですね。リーダー結構かっこいいですね」

「そうだろう、リーダーかっこいいんだよ」と青木先輩は少し頭の中でリーダーのことを思い出している雰囲気だった。何も口に出さなかったが顔は少しにやけていた。


 依頼主の家に着いたので先輩はインターホンを押した。インターホンを押して出てきたのは髪色は派手で毛先を少し巻いている香水のにおいのきつい女性だった。その女性は僕たちを見ると少し怪訝そうな表情をした。

女性は「どちら様でしょうか。家に何か御用ですか」と言った。

青木先輩が僕より半歩前に出て「僕たちは京都アカシア大学の献身循環団体というサークルに所属している青木と高部です」と言った。

先輩は高部の時に手を指して紹介してくれた。

先輩は続けて話した。


「献身循環団体は困っている人から依頼をいただいてその依頼を解決する活動を行っております。今回はお子さんの田中優成君にご依頼をいただきましたので参上させていただきました」

先輩は自己紹介と家に訪れるに至った経緯を女性に話終えると女性の方を見て返事を待っている。

「献身循環団体さん?そのような怪しい組織にお世話になるつもりはございません。息子の依頼はたぶん間違えだと思いますのでお帰りください」と女性が言って扉を閉めようとしたが青木先輩は止めて「息子さんに少しお話を伺うだけでもいいので」と言った。


流石は筋肉がしっかりあり背の高いだけあって女性の扉を閉める力を上回っていた。数分間の先輩と女性の葛藤が気になったのか家の奥から1人の男の子がゆっくりと歩いてきた。男の子は女性の足元に行って声をかけた。女性は男の子の方を睨むように見た気がしたが数秒後には異様なまでに笑顔になって声を出した。

「優成来たらだめって言ったでしょう。自分の部屋で勉強してなくちゃ」先ほどまでの気の強い女性というイメージから優しいお母さんに180度変化した。

青木先輩は男の子を見ると嬉しそうに「君が優成君か、依頼をもらった献身循環団体の拓馬といいます。この人は正人っていいます」と言った。

優成君は先輩の言葉を聞いて笑顔になって「拓馬君と正人君。はじめまして」と頭の中で名前を反芻するように口に出した。

僕たちは笑顔でうなずいた。


青木先輩は「僕たちと遊びたいって優成君は依頼してくれたんだよね」と言った。

優成君は大きくうなずいて「うん」と言った。

「じゃあ、遊ぼうか」と先輩が言って優成君の手をとった。

お母さんはずっと表面上では笑顔でいるが心の奥底では僕たちを警戒し言葉の一つ一つを確認している様子だった。お母さんは青木先輩が優成君の手をとるのをみると黙っていた口が開いた。

「優成、今日は宿題がまだ終わってないでしょ。お母さんもこれから仕事に行かないといけないし。今日は遊ぶのをやめて明日にしたら?」と言った。優しい口調のようだったが奥底で不満がマグマのように煮えたぎっているように感じた。僕は少し怖くなって体重を後ろにかけた。


お母さんは僕たちにも「今日は私も仕事がありますのでまた明日にきてもらえませんか」と言って今日は帰るように促しているようだった。

先輩は少し迷っている様子だったが少し考えて納得したのか「わかりました。また明日出直してきます。本日は急に押しかけて申し訳ありませんでした」と礼儀正しくいってお辞儀をした。僕も先輩に合わせて深くお辞儀をした。

お母さんは先輩の発言を聞いて満足したのか笑顔になってすごき機嫌がよさそうだ。

「ではまた、明日お越しください」と言って扉を閉めた。


扉が閉まりきる直前に見えた優成君の表情は少し暗かった。

まるで、お母さんが指さす家の奥には地獄でも広がっているかのようであった。

目の前に広がる天国にあと一歩届かず、再び同じ場所で同じ生活をすることの苦痛さを彼の表情が物語っていた。


 先輩は扉が閉まるのを確認すると何も言わずに歩き出した。僕も先輩に合わせて歩いた。優成君の家から500メートルほど離れると先輩が口を開いた。

「あの家族何かありそうだから、明日よく観察しておくんだぞ」と先輩は鋭く言った。

僕はなんのことだかさっぱりわからなかったが「わかりました」と返事をしておいた。


先輩は何かについて特にそれ以上深く話すことはなく僕の返事を聞くと兄が弟にするような優しい顔した。

僕に笑顔を見せてすぐに、先輩は「また何かあったら連絡する」と言って走っていってしまった。


青木先輩とはバイトの時にLINE を交換していた。


スマホで時間を確認するために視線を下に落とす、2026年6月7日土曜日時刻はまだ午後1時だった。

視線を正面に向けた時には先輩の姿はもう見えなかった。

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