プレイボール
元プロ野球選手の三人による指導によって最初はボロボロだったメンバーが上手くなっている。特に僕はキャッチャーという重要なポジションなだけあって高橋さんに付きっ切りでボールの取り方送球の仕方など1から100まで教えてもらった。僕は手にマメを作りながらうまくなるために全力を注いだ。
「正人君、いい感じになってきたね」
「本当ですか。ありがとうございます」
晃君はというと投球練習をどこから呼んだのかわからないが日本のエースに見てもらっている。投球フォームの改善から腕の振り方、リリースポイントまで何から何まで教えてもらっているようだ。
京都市の草野球チームとの試合まで残り10日となり8月も終わろうとしていた。
「今日の練習はここまでです。みなさんお疲れさまでした」さくらさんが全体に声をかける。
みんな片付けをして「お疲れ様です」と言って帰っていく。
「正人、今からバッティングセンターいくでしょ?」さくらさんが訊いてきた。
「はい」
「おっけい。今日も大輝行くっていったから三人でいこ」
「了解です」
大輝さんとさくらさんの三人で練習終わりにはバッティングセンターに行っている。大輝さんとさくらさんの間に僕が入ってもいいのかと思ったりして最初はすごく居心地が悪かったのだが大輝さんはすごく優しくてしっかりしている方だった。さくらさんのような人と付き合う人はヤンチャな人だと思っていたがそんなことはなく真面目ですごく紳士的な人物像だった。
さくらさんの無茶ぶりに振り回されている話は2人とも共感できて盛り上がってすぐに打ち解けることができた。
*
「この前なんて、淡路島の玉ねぎと普通の玉ねぎがどう違うのか確かめたいから淡路島連れてってとか。長野県で星空みたいとか。当日とか前日に言ってくるのよね」
さくらさんは大輝さんにもかなりの無茶ぶりを言っているようだ。正直、この話を聞くと僕はまだましな部類に入るなと思った。
「僕は急に心霊スポットに連れて行かれたり、淀川が本当に琵琶湖から流れてるのか調べたいから一緒に自転車で川沿い進んで確かめようとか。言われましたね」
「それはなかなかやばいね」大輝さんは笑って同情しているようだ。
笑い声を聞いてさくらさんがこっちに向いた。
「2人で楽しそうになに話してるの?」
「男の会話だよ」大輝さんが言った。
「なんだそれ」
さくらさんは興味がなくなったのかまたバットを振り始めた。
*
金属バットとボールが当たり甲高い音が響き渡る中僕たちはひたすらにバットを振り続けた。晃君に勝利を届けたいという思いで。
「今の当たりめっちゃよかったですよね。見てました?」隣の打席でバットを振っているさくらさんに訊いた。
「いや、みてない」
「ですよね」
最近のさくらさんは野球に真剣に取り組んでいる。僕のことなど目もくれず自分が結果を出すために練習している。
とはいえ、さくらさんはバットを持っている姿が様になっているなと思った。いつも持ち歩いて振り回していそうな雰囲気だ。
さくらさんの奥の打席の方を見るとホームラン狙いのさくらさんとは対照的にバントの練習をしている大輝さんがいた。
性格が対照的で自分では埋められない穴を埋めてくれるから結ばれたのか自分とは正反対の生き物に魅力を感じ、憧れを持ったから結ばれたのかはわからないが僕はそんな二人がすごくお似合いだと思った。
「大輝なんでバントの練習なんかしてるんだよ」
「勝つためにはバントも大事だよ」
「バントは効率が悪いってわざわざ、アウト増やしてコツコツ一点を取るよりも一振りのホームランで一点取った方が効率いいでしょ」
「確かに、そうかもしれないけど。みんながみんなさくらみたいにパワーはないんだよ」
「そうか、大輝は頭の良さだけ仕上げて筋肉は全く仕上がってないもんね」さくらさんは大輝さんに向かって笑って言った。
「そうだよ。悪かったな」
そう言い放つと大輝さんは再びバットを寝かした。
時刻は21時になった。
「そろそろ終わってラーメン食べにいこう」
さくらさんが言った。
「おっけい」
「そうしましょう」
バッティングセンターの帰りに三人でご飯に行くことがルーティンになっていた。
僕たちはテーブルについてラーメンを食べながら話をしている。
「正人は正直今回の試合勝てると思う?」
さくらさんが言った。
「そうですね.....。晃君がどこまで投げれるかが勝利のカギだと思いますね」
「どこまでというのは?」
「スタミナと質ですかね」
「なるほどね。確かにそこは未知数だよね」
「スタミナが心配なら継投する選択肢は?」
大輝さんが訊いた。
「そこは監督と本人次第だよね」
「そうか。今回の主役は晃君だもんね」
「そうそう」僕とさくらさんは頷いた。
「本当にやばくなったら元プロ野球選手の3人が投げてくれるはず」
*
京都市の草野球チームとの試合本番を迎えた。
「今日の試合のメンバーを発表します」監督が言った。
「1番センター田口悠真。2番ショート高橋翔太。3番ファースト山本太一。4番ピッチャー田村晃。5番レフト新垣さくら。6番ライト藤木晴。7番サード伊藤拓真。8番セカンド渡辺大輝。9番キャッチャー高部正人。以上が今回のスターティングメンバーです。残りの林さんと佐藤良子さん佐藤広茂さん田村麻衣さんはベンチスタートで。それでは初めての試合気合入れていきましょう」
「おおお!!!」
みんな気合十分だ。
今回の試合は5イニング制で僕たちは後攻だ。相手チームは全員が野球経験者で先発ピッチャーの最速は130キロを超えるらしくバッティングセンターで練習していた110キロよりもはるかに速いのでかなり、厳しい戦いになりそうだと直感的に思う。
ホームに整列をして試合が始まった。晃君はマウンドに上がってキャッチャーの僕に向かって投球練習を始めた。球速はなかなか出ていて練習の時と変わらないので調子は悪くなさそうだ。球速は100キロ前後といったところだろうか、球種はスライダーを投げれるように練習すると言っていたがものになったのだろうか。
投球練習が終わり、1番の人が左打席にたった。どこまで通用するのかわからないが試してみるしかない。アウトローに構える。ボールは僕の構えたところにきた。次はインコースに構えた。しかし、ボールは真ん中よりにはいってしましヒットを打たれてしまった。
2番の人が右打席に入った。アウトコースに構える。ボールは構えたところにきた。2球目もアウトコースに構える。ストライクになって2球で追い込むことができた。3球目は試しにスライダーのサインを出してみた。しかし、晃君は首を振った。その首振りは投げられないのか今ではないのかわからない。
仕方なくインハイに構えた。ボールは大きく外れてボールになる。4球目はアウトコースに構える。ボールはいいコースに来たが上手く打たれて2ベースヒットになる。ノーアウトランナー2、3塁と初回からピンチを迎えてしまった。
僕は審判にタイムを要請してマウンドに向かった。
「大丈夫?」
「大丈夫です」
「スライダーは投げれる?」
「まだ、自信がないです」
「わかった。それと、インコースに投げるのは苦手?」
「はい。当てちゃいそうで」
「わかった。晃君の投げられそうなコースで絶対に抑えよう」
3番打者以降にはアウトコース中心でインコースは高めに構えてボールだまを要求するだけだった。3番バッターは打ち損じてくれてセンターへの犠牲フライだった。4番バッターには右中間を破るツーベースを打たれ。5番バッターはショートゴロ。6番バッターにはヒットを打たれて3点目を取られた。7番バッターをセンターフライに打ち取り何とか3つのアウトを取ることができた。
みんな守備位置からベンチに戻ってきて
「晃ナイスピッチング。まだまだこれからやから切り替えていくで」と励ましていた。
「はい」
1回の裏の攻撃は元プロ野球選手の3人に打席が回るのでこの回に何とか少しでも点数を取って点差を縮めたいところだ。1番の田口悠真さんが打席にたった。田口さんは初球を振って2ベースヒットにした。早速のチャンスにチームは大盛り上がりだ。
「田口さんナイスバッティング」晃君が一番に大きな声で言った。
これだけ大きな声を出せていればさっきのピッチングを引きずっていなそうだ。
2番の高橋さんはライト前ヒットで続いてランナー1塁3塁になった。
3番の山本さんの打席になり一発出れば同点というビッグチャンスだ。相手は最悪歩かせてもいいといった配球でフルカウントになり迎えた第6球目を山本さんは大きく振りぬいてレフトスタンドに運んだ。
チームメイトはベンチを飛び出して三人を迎え入れた。
「ナイスバッティング!!」
「これで試合は振り出しに戻ったよ」
このままの勢いで逆転したいところだったが晃君の打席はストレートにタイミングが合わずに三振。さくらさんはいつもバッティングセンターで見ていたような豪快なスイングで打ったがセンターフライだった。さくらさんは悔しそうな顔をしながらベンチに戻ってきた。
「くっそー。ちょっと先だったか」
藤木先生もストレートのタイミングが合わずに三振に倒れた。これで3アウトになり攻守交代で再び晃君のピッチングだ。
「抑えてる時のイメージで投げていこ」
「はい」
僕と彼はグローブでハイタッチをした。
2回の晃君のピッチングはキレとコントロールが良かったのと守備に助けられて三者凡退に抑えることができた。
その裏の攻撃は誰も相手の130キロのストレートにタイミングが合わずに三者連続三振に倒れてしまった。僕は気づいた頃には追い込まれていて焦って振ると空振りで三振でいいところなしだ。




