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理由は後付けで  作者: 浅井天
第六章:全力の1球と1年

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19/21

No,80

 蝉の声が嫌というほど聞こえてくる。暑すぎて冷房が効いた空間から出たくない。動きたくない。大学生として初めての夏休みを有意義に活用するわけでもなくただただ日にちだけが過ぎていくような生活を送っている。

 そんな生活を送っていると突然、1本の電話が入った。

「もしもし、正人?」

「はい」

「今から大学にきて、待ってるから」

「え?」

電話は切れた。

こっち側に拒否権はないのかと思いながらなかなか動かずにいたからだを動かした。

玄関を開けた瞬間に熱気が顔に当たり今すぐに踵を返して家の中に戻りたいと思った。

「これはしんどいな」


 「正人、おはよう。意外と早かったね」

「おはようございます。すごい暑くて来たくなかったですけどね」

「それは、ごめんね。依頼が入ったから仕方がなかったんだよ」

「依頼ですか、なら、他のメンバーでもよかったんじゃ」

「いや、みんなには電話したら断られたから正人には断られる前に切った」

「なんですかそれは」

この人は僕のことをなんだと思ってるんだ。

「それより、さくらさん。今回の依頼内容は何ですか」

「今回の依頼内容は…」さくらさんはスマホでドラムロールを流した。

「ダン」

「お、ノリがいいね。草野球チームを作って試合に参加したいです」

「帰ります」

「ちょちょちょ」

さくらさんは僕の腕をつかんだ。

「だってこんなに暑いのに野球だなんて。ハードすぎますよ」

「それはそうだけど…」

さくらさんは下を向いてしまった。

「わかりましたよ。手伝います」

「ありがとう。ちょろいなー正人は」

「あー。やっぱりやめます」

「うそうそ」

僕らは笑った。

「草野球ってどうやってメンバー集めるんですか」

「うーーん。適当にそこら辺の人声かければいいんじゃない?」

「え、そんなラフな感じですか」

「だめかな?とりあえず、依頼者のところいってみよ」


 「初めまして、献身循環団体の新垣さくらと高部正人です」

「わざわざ、ありがとうございます。どうぞ、上がってください」

「失礼します」

お母さんが出てくれた。

壁際には家族写真が飾ってある。自分の家にはないので少し羨ましく思った。


 「はじめまして、田村晃です」

高校生らしき少年が挨拶をしてくれた。

「初めまして、新垣さくらです」

「高部正人です」

「今回は草野球チームを作って試合がしたいということだけど、メンバーとかポジションとか決めてるのかな?」

さくらさんが晃君に訊いた。

「メンバーは特に考えてないのでお姉さんに任せます。ポジションはピッチャーやりたいです」

「了解。最高のメンバー集めとくよ。ピッチャーかいいね。なら、正人はキャッチャーな」

「え?初心者の僕に一番捕球回数の多いポジションですか」

「うん。向いてそうだし。私はDHかな」

「いやいや、人数少ないんですからどこか守ってください。それに誰の代わりに打席立つんですか」

「正人」

「僕かい」


 「晃君。監督とかは欲しい?」

「欲しいです。みんなで楽しくやりながら勝ちたいので」

「了解。ちなみに、晃君の野球経験は?」

「小学生の頃にお父さんとキャッチボールしたぐらいですけど。自信はあります」

「いいね。絶対勝とうね。来週にグランドで集まるときまでにメンバー集めとくから楽しみにしてて」

「はい。お願いします」

「うん。じゃあ、今日は私たち帰るね」

「ありがとうございました」

僕たちはお母さんに家の入口まで見送ってもらった。

「あのー。少しお話をいいですか」

お母さんが僕たちに言った。

「はい。どうかしましたか」

さくらさんが訊いた。

「晃には言わないでと釘を刺されているのですけど。実は….....」


 時は過ぎて晃君とのグランドでの練習の日になった。メンバーはさくらさんが一人で決めるということだったので僕もどのようなメンバーになったのかわからない。少し楽しみだが本当に集まったのか不安の方が大きいのが現状である。

グラウンドについたがいたのは晃君とお母さんの麻衣さんだけだ。

「おはようございます」

「おはようございます。みなさんまだですか?」

麻衣さんが訊いた。

「たぶんまだだと思います。連絡してみます」

さくらさんに連絡をしようと思いスマホを開いたタイミングでさくらさんから電話がかかってきた。

「もしもし」

「もしもし、正人はもうグラウンドにいるの?」

「はい。いますよ。晃君と麻衣さんも一緒に」

「だったらちょうどいいや。2人に目を瞑るように言って。2人が目を瞑っているのを確認したら正人も目を瞑って」

「わかりました。さくらさんが目を瞑ってくださいとのことです」

2人は頷いて目を瞑った。

それを確認して僕も目を瞑った。

「さくらさん。全員目を瞑りました」

「おっけい。そのまま待ってて」

電話がきれる音が聞こえた。

遠くから大勢の足音が聞こえてきて地面の砂をすりながら近づいてくる。足音が止まり、目の前に人がいるなという漠然とした感覚だけがあった。

「それでは目を開けてください」

さくらさんの声が聞こえた。

僕たちは目を開けて目の前にいる人達を確認する。1人ずつ確認していく。見たことのある人達が多いことに気づいた。僕は盛り上がってやる気が満ち溢れた。

それは晃君も一緒だったようで、普段はクールであろう彼が顔を綻ばせていた。

「さくらさんすごいメンバー集めましたね」

「でしょ。頑張ったよ。一週間で。では一人ずつ紹介していこうかな」


 「まず、元プロ野球選手の田口悠真選手。トリプルスリーを達成されたこともあるすごい選手ですね」

僕はあまり知らなかったが晃君は知っているようで喜んでいる。

「次は、同じく元プロ野球選手の高橋翔太選手。ショートでゴールデングラブを6年連続でとられたこともある方ですね」

僕はあまり知らなかったが晃君は知っているようですごく喜んでいる。

「続いて、元プロ野球選手の山本太一選手。ホームラン王3回、メジャーリーグでもホームラン40発を打ったこともある方です」

僕はあまり知らなかったが晃君は知っているようですごく喜んでいる。

「ここからはまとめてテンポよくいきますよ。小学校の先生の藤木晴先生。私の高校3年生の時の担任の伊藤拓真先生。私の彼氏の渡辺大輝。近所の肉屋さんの林さん。京都のマザーテレサこと佐藤良子さんとその息子の広茂さん。そして監督に献身循環団体リーダーの北山花音。以上が今回のメンバーです」

僕は懐かしい人が多いので盛り上がった。しかし、晃君は知らない人ばかりで拍手をしているだけで先ほどのテンションはなかった。

そして気づいた、僕と晃君では盛り上がる人が異なっていたことに。


 「それでは、みんなで練習を始めて勝利を目指していきましょう。最後にチーム名を発表します。チーム名は.....」

さくらさんはまたまたスマホでドラムロールを流した。

「ドン」またまた僕が言った。

さくらさんは僕の方を見てニヤリと笑った。

「Don't look downです」

みんなはおおーーと言った。

「意味は下を向くなです。最後まで上か前を向いていきましょう。下を向くのはゴロをとるときだけで」

「いいね。お嬢ちゃん」元プロ野球選手の方たちがさくらさんをほめている。


 それからは毎3回の練習の日々が始まった。日中照らし続ける日差しの中を僕たちは汗を垂らしながら白球だけを追い続けて食らいつく日々だった。

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