新垣さくらと肝試し
「さくらさん。これはやばくないですか」
「正人ビビってるの?この不気味さが肝試しにはちょうどいいじゃん」
「えー、完全になにか出そうな見た目ですよ」
「何か出たらいいじゃん面白そうで」
「そんなこと言って本当にでたらどうするんですか」
「話しかけて写真撮るに決まってるじゃん」
「えー」
「よし、いくよー」
さくらさんは空き家に向かって歩き出した。
僕も置いて行かれないように急いでついて行った。
僕がどうしてこのような状況になってしまったかというと時間は7時間前に巻き戻る。
2時間目が終わって食堂で昼ご飯を食べている時にさくらさんが来て「正人、今日の夜暇?」と訊いてきた。
特に予定もなかったので僕は「暇ですけど」と答えた。
「ないすー」
そんなこんなで僕はさくらさんと夜に出かけることになり連れてこられた場所は住宅街からも繁華街からも離れた山や畑に囲まれた自然いっぱいの中に一つだけだっている100坪ほどの二階建て一軒家の空き家だった。
どんどん空き家の敷地内を進んでいくさくらさんを一生懸命に追いかけて玄関のところで追いつくことができた。
「正人、この空き家には小学生ぐらいの男の子の霊が出るって最近噂になってるんだよ」
「えー、帰りたいんですけど」
「だめだよ、入るよ」
さくらさんは僕の手を掴んで空き家の中に引っ張り込んだ。引っ張られたことによって重心が傾いてよろけてしまったので慌てて壁に手をついた。その手に違和感を覚えた。
しかし、今回は隠し部屋なんかではなく蜘蛛の巣が手についただけだった。気持ち悪さのあまり叫んでしまった。
「ごめんごめん、大丈夫?」
「大丈夫です」僕は手についた蜘蛛の巣を払いながら答えた。
気を取り直して懐中電灯を片手にもって足元と行く先を照らしながら空き家の中を進んでいた。
「この家はね、10年前まで人が住んでたんだ。ここに住んでいたのは6人家族で両親と子供2人、そして祖父母だった。家族仲は非常によく近くの畑で野菜を作っている祖父母を孫が良く手伝っていたらしくて周辺には家もスーパーもなにもないけどそれはそれは幸せだったらしい。父親の会社の同僚家族が遊びに来たことがあったらしいんだけど都市部で暮らすよりもこのような生活の方がいいなと羨ましいなと感じていた。同僚のお父さんは息子があまりにも田舎での生活が羨ましがって毎日のように行きたいというので息子をその家族に預けるようになった。しかし、そんな幸せそうな家族と息子が一夜にして消えてしまった。家具がすべて残ったまま肉体だけが神隠しにあったようだった。警察とお父さんは全力でその一家と息子さんを捜索した。3か月間での捜索の結果、見つかったのは家の裏山に埋められて人骨になってしまった息子さんだけだった。結局、事件は未解決のままである。その恨みを晴らすために子供の幽霊が姿を現すようになったの」
先輩は低い声で本当か嘘かわからない話をした。
「その話はさくらさんが作った話ですか?」
「さあ、どうでしょうか」さくらさんははぐらかしてまた、歩き出した。
「えー教えてくださいよ」僕もさくらさんの後を追いかけた。
20分ほど歩いただろうか風が窓に当たる音と自分たちの足音と話声が暗い家の中を響いている。
特におかしなものが出たり、音がしたりすることもなくただ単純に暗くて怖い建物の中を歩いているだけだった。
1階をすべて見終わりギシギシと音を立てながら軋む階段をのぼって二階にいった。
「さくらさん特に幽霊もなにも出ないですね」
「今のところはそうだね、でも子供の幽霊の目撃情報が多いのは二階なの」
「え、そうなんですか」
僕は唾を飲み込み少し、恐怖が薄れてきていたのに再び恐怖がまして自分の身体を満たしていった。
「正人、楽しみだね。子供の幽霊出てきてくれるかな」
さくらさんは今日1でテンションが上がっていた。
「まったく楽しくないですよ。怖いので早く帰りたいです」
「だめだよ。そんなこと言うなら罰で正人が先頭歩いてね」
「えー、うそでしょ」僕はさくらさんに背中を押されて前を歩いた。
それから、10分ほど経っただろうか雨が降っているのか雨音が聞こえてきた。
「さくらさん、そろそろ前歩いてもらえませんか」
「だめだよ、2階は正人が前歩くんだよ」
「わかりました」
僕はドアノブを握って別の部屋に入った。部屋の隅々を懐中電灯で照らす。
部屋の角が家具で死角になっているのでもう少し部屋の奥に入って角度を変えて照らした。
僕は声が出る前に後ろを振り返って走り出した。しかし、さくらさんに腕を掴まれて動かない。
動かない状況になってついに声が出た。
「さくらさん手を放してください。幽霊がその角にいます」
「ちょっとまって正人。落ち着いて」
「いや無理です。帰ります」
僕は必死になってさくらさんの手を振り払おうと思ってもがいていたが抜け出す前にさくらさんのビンタが僕の頬に衝撃を与えた。
「落ち着けって、あれは幽霊じゃない」さくらさんが大きな声で強く言った。
「幽霊じゃない?それならもっとやばいじゃないですか。帰ります」
僕は再び、もがいて振り払おうとしたが今度はさっきの3倍ぐらい強いビンタが頬を赤らめた。
僕はそのひりひりする頬を触りながら落ち着きを取り戻すことができた。
「正人、落ち着いた?」今回のさくらさんの声は今までで一番優しかった。
「はい。落ち着きました」
「よかった」
「すみません。ご迷惑をおかけしました。それより頬がすごく痛いんですけど」
「仕方がないでしょ。正人が暴れるから」
「すみません。さくらさんあの子は幽霊じゃないんですか」
「違うよ。生身の人間だよ、そうだよね君ー」
さくらさんは少年に声をかけた。
「そうです。僕は生きてます」
「ほらね」さくらさんは自慢げに言った。
僕は少年の手に触れて確かめた。
「お姉さんたちは僕を見ても逃げ出さないの?ここに来た人たちは僕を見るとすぐに逃げ出すのに」
「逃げ出さないよ。同じ時間を過ごしているのだから。それよりも、君の話を聞かせてよ」
「僕の?」
「そう。どうしてここにいるのかとか」
「それは...」
「言いづらい?」
「うん」
「そっかぁー。j今日は何してたの?」
「近くの川で遊んでた」
「いいねー楽しそう。お魚いた?」
「いた。早くて捕まえられなかった」
「そっかぁー、それは残念だね」
「でもねでもね、きれいな石がいっぱいあったんだ」
「え、どんなの?みたいみたい」
さくらさんは子供と話すのも上手だと思った。相手が言いたくないことには深く立ち入らずに相手が興味があることを深く掘り下げている。これが人と仲良くなる方法なのだろう。
その後もさくらさんは少年との会話を続けていた。
「さくらお姉ちゃん、僕がここにいる理由はね。家出したからなの」
「晴君は家出したんだね。どうして家出しようと思ったの?」
「それはお母さんと喧嘩したから」
「喧嘩しちゃったんだー。どうして喧嘩しちゃったの?」
「僕の誕生日に一緒に遊園地に行く予定だったのに仕事入ったから行けなくなったからおばあちゃんと行って言われて僕はお母さんと行きたいって言ったらわがまま言わないのって怒られた。だから僕は家出したんだ」
「そうだったんだね。晴君はお母さんと行くのをずっと楽しみにしてて行きたかったもんね。それはお母さんも一緒できっと大好きな晴君と遊園地に行きたかったと思うんだ。でも、大人になると我慢しないといけないことが増えていくからどうしても思いどうりにはならないことが多々あるの。だから、今回は遊園地に行くことを諦めなくちゃいけなかったんだよ」
「でも、僕が先に約束してたんだよ。なのにどうして僕が後回しにされなくちゃいけないの」
「そうだよね。どんな理由があっても晴君を優先してほしかったよね」
「うん」
「お母さんのこと好き?」
「うん」
「会いたい?」
「うん」
「じゃあ、朝になったらお姉さんたちと一緒にお家に帰ろうか」
「でも、どう話せばいいかわからない」
「大丈夫。いつも通りの表情で心配かけてごめんなさいって言えばいいの」
「わかった。明日お家に帰ってお母さんと仲直りする」
「うん。いい子だね。仲直りしたらまたお母さんと遊園地に行く約束をしたらいいよ」
「うん。そうする」
「さくらお姉ちゃんも今日はここにいてくれるの?」
「もちろん、いるよ。いいよね正人」
「はい。もちろん」
僕たちは段ボールが敷かれた床に寝そべりながら他愛のない話をしているといつの間にか眠っていて目が覚めた時には外は明るく昨晩降っていた雨もやんでいた。
空はこれでもかというほど晴れていてまぶしすぎるぐらいだ。
僕とさくらさん、そして晴君の3人で大きな空き家からでて晴君の家まで行った。
晴君が家につくと晴君の様子をみてお母さんは泣いて喜んでいた。
「ごめんね。約束破って。もう絶対約束を破らないって誓うからもうどこにも行かないでー」
「うん。お母さんいたいよ。強く抱きつきすぎ、次は絶対遊園地に連れて行ってね」
「うん。何回でも行こうね」
僕とさくらさんは2人の様子を見届けてその場から離れた。
「さくらさんはあの場所に晴君がいるって知ってたんですか?」
「まさか、ただ単純に正人を肝試しに連れて行きたかっただけだよ」
新聞やニュースを見ていなかったので気づかなかったが世間的には小学3年生が行方不明になっていていると大きなニュースになっていたようだ。お母さんが晴君が家出した日の夜に行方不明届が出されておりかなりの大人数での捜索がされていたようだった。
次の日の新聞やニュースで晴君が見つかったことが報道された。
安堵の声が広がり、人々は別のニュースに興味が移り別のニュースに食いつくようになった。
晴君はどこで何をして3日間過ごしたのかを警察に話したのだろう。その後、3人で一夜を共にした家はテープが張られて立ち入り禁止になってしまった。




