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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第111話 オルカの正体と根回し

 ヘリオットさんと一緒にギルドに向かっているといろんな人がロボたちに声をかけてくれる。完全にアイドル。ペットを飼うような文化がないから珍しいんだろうな。

「しかし、新しい魔物か。何を連れてきたんだ?」

「キラー・ホエールかオルキヌス・オルカという魔物だとは思うが、そういえばちゃんと聞いていなかった。今はナイトがウェストの所に紹介に行っているから、登録の時に本人に聞いたほうがいいな」

「聞いたことがない魔物だな。その子も喋るのか?」

「ああ」

 めちゃくちゃ流暢に話します。

「どうしてそうホイホイ強力な魔物に会うんだ?」

「うちの子たちがホイホイ連れてくるからかな」

 今回は連れて来たのではなく迷子を連れて来てくれたんだけど。そう言ってロボたちを見るとどや顔で八百屋のご夫婦に撫でられていた。

 何故あの子たちは誇らしげに撫でられるのか。もしかして俺に自慢しているの? 撫でてくれている人が笑っているからいいけど。

 少しゆっくりと歩いてギルドに着くと、ウィルとヴァネッサさん、シオンさんが扉の前にいた。ウィルとシオンさんは久しぶりだな。

 ただいまー!と突撃していったロボたちを三人が受け止める。

「どうしたんだ?」

 ヘリオットさんがヴァネッサさんに訊くとため息で返された。

「先に帰ってきた冒険者たちからどうもユウがまた新しい随獣と契約したらしいって聞いてね。ヘリオットさんも一緒ってことは本当なのね?」

 あー、列に並んでいた冒険者から報告が行ったのか。

「本当だ。今ウェストの所にナイトが紹介に行っている。ネコのことも登録し直さなければいけなくなったから、中で紹介するよ」

「ネコちゃんがどうかしたの?」

 早速ネコを抱っこしていたヴァネッサさんが首を傾げる。

化け猫(ケット・シー)ではなくネルガルという魔物だったらしい」

「ネルガル? このちっこいのが?」

 ヴァネッサさんに抱かれたネコをウィルが指先でつつく。シオンさんもネコを覗き込んだ。

「幼体だとしてもかなり……というか規格外に小さいなぁ。本当にネルガルなのか?」

「私にはわからないが、新しく契約した魔物が言うにはそうらしい」

 俺もオルカに言われるまで化け猫(ケット・シー)だと信じていたもの。

 ホールに入るとアリサさんがカウンターで手を挙げてくれた。手元に書類があるので準備をしてくれていたらしい。

「今度はどんな子ですか?」

 ワクワク顔のアリサさんには申し訳ないけれど、オルカはロボたちみたいに愛でることは難しいだろう。

「残念だが可愛らしい系統ではないな」

『ナイト、オルカ。戻れる?』

『はい』

 念話で呼ぶとすぐに影が広がってナイトとオルカが姿を現した。ナイトには慣れたこの街の人でも最終強化済み戦隊ヒーローは想定外だったらしい。ホールが水を打ったように静かになる。

 横のカウンターにいた冒険者がそーっと離れていったところで我慢できなかったのかシオンさんが吹き出した。

「ははははは!! またとんでもないものを連れて来たな! ポセイドンとは!」

「ぽ、え?」

 え?

「なんでお前が不思議そうなんだよ」

「いや、キラー・ホエールか何かかと」

 ウィルに訊かれるけれどそう返すのがやっとだった。

「オルカはポセイドンだったの?」

「うむ。そういえばきちんと言っていなかったな」

 ロボに平然と返しているから、本当にポセイドンなんだろうな……。

「こりゃーまた」

「とんでもないな……」

 ヴァネッサさんとヘリオットさんが頭を抱えた。そりゃポセイドンならとんでもないですよね。許されるなら俺も頭を抱えたい。

「ただのポセイドンではありませんよ」

 既に混沌を極めているところにナイトの明るい声が響く。

「彼は当代獣王の第二位、『皇帝』の()を戴くポセイドンです」

 なんかどえらい肩書きが出てきたぞ。というか待って。もしかしてオルカのヤバい同族って半年前に地震起こしたっていうポセイドンか! 武器が槍なのも納得だよ! 三叉槍(トライデント)か。

 ヴァネッサさんたちはもう開いた口が塞がらないらしく、シオンさんはお腹を抱えて蹲った。

 ジュウオウって誰かが言ってた気がするな……ウェストかサウスだったか?

『ナイト、ジュウオウって何?』

『この世界の抑止力のようなものです。あとで説明しますね』

 はーい。

「どうしてそうなるんだよ!」

 我慢ならなかったらしいウィルの叫びにホールにいた全員がうんうんと同調する。ヴァネッサさんたちだけでなく、ホール中の職員と冒険者がこちらに注目していた。

「いや、その……ネコがつれて帰ると言い張って聞かなかったから……?」

「おぁん!」

「ご飯ではないと言っておるだろう」

 元気に鳴くネコにオルカが頭を掻く。シオンさんが細かく震えているけれど大丈夫だろうか。

「獣王……獣王ときたか……」

 乾いた笑いを零しながらヘリオットさんが呟くけれど、もう契約してしまったので仕方ないですね。

 ホールの動揺を押し切ってネコの分と合せてオルカの登録を済ませてからヴァネッサさんを見る。

「それと、話しておきたいことがある。ヘリオットさんも一緒に」

「ポセイドン以上があるの?」

「捉えようによっては。ウィルとシオンさんも頼めるか」

 二人を見ると笑いすぎて震えていたシオンさんは笑いを引っ込め、ウィルが目を細めたので伝えたい内容は伝わっただろう。

「その話はここでは拙い。ギルマスの部屋に」

「あんたは知っている話なのね? いいわよ。移動しましょう」

 ウィルの言葉に肩を竦めたヘリオットさんも頷いてくれた。



 ロボたちには先にダイナーでご飯を食べておいてもらうことにして、ナイトとオルカだけを連れてヴァネッサさんの部屋に移動する。ナヒカさんがいるらしいからロボたちだけでもご飯を用意してくれるだろう。

「防音の結界をお願いできますか?」

「あいわかった」

 部屋に入ったナイトがオルカに依頼すると二つ返事で了承されていた。そんな気はしていたけどオルカ当然のように結界張れるのか。

 全員がソファーに座ったところでヴァネッサさんが膝を叩いた。

「それで? どんな内緒話をしてくれるんだい?」

 ヴァネッサさんとヘリオットさんが俺を見て、ウィルは目を逸らしシオンさんは口許を手で隠している。シオンさん既に笑ってるでしょ!?

「端的に、私の父についてだ」

 仮面をバングルに戻して顔を晒すとヴァネッサさんとヘリオットさんが絶句した。

「……そっちかぁー……絶対何かあるとは思ってはいたけど」

「皇帝陛下の隠し子かどっかの貴族のボンボンかと思っていたが、まさかリアムの子だったか……」

 まあ驚かれますよね。

「シオンとウィルは知っていたのね? ウィル、報告しなさいよ」

「明らかに面倒事な気配がしたので」

 しれっと言うウィルにヴァネッサさんの鉄拳が入っていたけどそれは俺のせいではないよね?

 はーぁ、とヘリオットさんが深いため息を吐く。

「それで、急に正体を明かした理由はなんだ? 何かあるんだろう」

 訊かれて笑うしかない。問題が起こっていることを見透かされている。

「女帝の森で勇者パーティの神官に会って、まずは父の元に行ったが私にも言いたいことがあると。普段どこにいるのかと訊かれて素直にここだと答えてしまった」

「神官が来て拗れる前に話しておこうってことね。あいつが来たら私かヘリオットさんが対応することになるし」

 そういうことですね。

「既に接触されていたらもうどうにでもなれと思っていたのだが、まだなようだから手を打っておこうかと」

 しかしまだ来ていないということは、神官さんは本当に父さんと決死の追いかけっこしているのかな?

「わかったわ。あいつの性格的に騒ぎ回ることはしないでしょうけど、ユウが不在の時にこっちに来たら私たちで説明と合せて対応しておく」

「ありがとう。迷惑をかけてすまない」

 頭を下げると気にしなくていいと手を振られる。シオンさんがいてくれたおかげか、思っていたよりもすんなりと受け入れてもらえたな。

「しかし、リアムの子がこんなに大きかったとは。噂に踊らされた」

 ヘリオットさんが額を揉みながら天を仰ぐ。

「ああ、子供が産まれたらしいと広まっていたのだったか。リアムは何も考えていなかっただろうが、巧く撹乱できたようだな」

 シオンさんから見ても父さんは何も考えてなさそうなのか。巧く話が転がっていたので良しとします。

「そりゃ産まれたばかりの赤ちゃんか、せめて小さな子供だと思うわよね」

「光魔法を気軽にぶっ放すような規格外な子、その噂がなければ真っ先にリアムとの関係を疑っただろうが……直前に産まれたやなんやと聞いているとな」

 タイミングも良かったらしい。ショウさんも似たようなことを言っていたな。俺の話と同時期に子供が産まれたと言う噂が広まったから結び付かなかったとか。

「それ以外にも気になることはあったけど、シオンまで一枚噛んでいたなんて」

「本人から直接頼まれていたからな」

 シオンさんが俺と父さんとの繋がりを否定してくれていたのか。ありがたや。

 そんな話を聞いていると、唐突にウィルが顔の前に手を翳した。ヴァネッサさんが訝かしげに顔を顰める。

「何しているの?」

「いや、顔を見たのは初めてだったんで、本当に似ているなーと思って。顔を見たあとだったら目許を隠してもまんま勇者ですよ」

 俺の顔を隠して見ていたのか。シオンさんもヴァネッサさんとヘリオットさんも同じように手を上げる。

「本当だ。輪郭も髪型も同じなのか。長さと色が違うから印象はかなり違うが」

「つむじと分け目が強固なんだ」

 輪郭はともかく、以前髪型を変えようと努力したけれど無駄だった。分け目を変えても半日保たない。スーパーロングの父さんと違って襟足短いし前髪も父さんよりも短めにしていて色も全く違うから、似ているというという前提で見なければ髪型だけで気づかれることはないと思う。

「その顔なら隠すしかないな」

 ヘリオットさんがため息を吐きながら言い、それにヴァネッサさんが同調した。

「そうね。仮面を怪しまれて被る不利益を考えても、その顔を晒したうえで血縁関係を否定してまわるほうがはるかに手間だわ」

 怪しまれていましたかー。そりゃそうですよね。

「やはり仮面は怪しかったか」

 バングルになっていた世界樹の種子を手の中で仮面に変える。シャチのアイパッチに似た模様の入った顔半分を覆う仮面は自分でも怪しいと思う。

「仮面のせいだけじゃないぞ」

 え?

 ウィルの言葉に首を傾げると、ヴァネッサさんがため息を吐きながら脚を組んだ。

「突然現れた素性どころか顔すら晒さない男が、街に入って数時間もしないうちに街を壊滅の危機から救ってみせた」

「その功績で男は街に住む多くの人々から一気に信頼を得たわけだが、その危機が外部から故意にもたらされたものだったことが判明した」

 ……うーん。

「改めて指摘されますと怪しさしかありませんね」

 笑いを含んだナイトの声に頷く。タイミングが良すぎる。俺の行動に合せての襲撃だったと疑われても仕方がない。ヴァネッサさんの言葉を引き継いでいたヘリオットさんが笑う。

「怒らないんだな。まあ怒らないだろうと思って話したが」

「疑わしいタイミングだったのは事実だ。必要な警戒だろう」

 疑われていたのだとしても露骨に行動制限などはされなかったし、変な言いがかりを付けられることも無かったから別に気にしてない。

 ガンジさんが言っていた俺の正体云々っていうのはこのことか。

「そう言ってくれると助かるわ。まあ、正体を怪しんではいたけれど、襲撃の犯人かもって疑いは早めに晴れていたしね」

「シオンさんのおかげか?」

「それもあるけど、あんた工作員としては変なのよ」

 変、とは。

 ヘリオットさんが指を立てる。

「まず感覚が世間とズレすぎている。主クラスのワイバーンに気軽に名付けるのは正気じゃない。そんな目立つ行動、工作員としては致命的だ」

 世間とズレているというのは否定できない。

 次はウィルが指を立てた。

「そのくせ説明に対する理解力が高すぎる。一定以上の高等教育を受けた思考力だ。阿呆を演じるつもりなら大失敗だがそれを気にしている素振りもない」

 一定以上かはわからないけれど、高校まで真面目に行っていたからね。ただ論理的思考はできるけれど拡散思考と批判的思考が苦手だからオルカがポセイドンだってことに気づけなかったわけだけど。ヒントいっぱいあったのになあ。

「要約すると、猛烈に運が悪いだけの超強いただの田舎者なんじゃないかと思っていたところでシオンの登場よ。念のためウィルを付けていたけど、無駄だったわ」

 ヴァネッサさんの言葉にウィルを見るとウィンクされた。お目付役だとは思っていたけどもっと大層な役を背負っていらっしゃった。


オルカは女帝に次ぐお偉いさん。


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