8
バチリ、と鋭い音で目が覚めて。
籠の外に、忌々しげに腕を庇う彼の姿を認め、ぱちりと目を瞬かせた。
ああ、きっとこの籠には防犯用の何かが施されていて、籠に触れようとしたか破壊しようとしたか、何らかの行動を起こした彼を弾いたのだろう。
そんな風に予測を立てて。
起き上り、籠の縁から手を伸ばしてみる。
どうやら私の体には反応しないようだと確認して、下ろそうとした手を、ぱしりと掴まれた。
掴まれた手の先で、どうにも不機嫌そうな顔をしている彼と目が合い。
気恥かしく思ったことを隠すために、彼の腕に目を落せば。
これはまた、ずいぶんと無茶をしたのであろう様子が見てとれて。
何かを考えるよりも先に、手の先から気を流し込んでいた。
口からが一番流しやすいが、実はどこからでも気を流すことはできる。
気の調整も、血を舐めた方がより正確であるというだけで、口にしなくとも可能ではある。
特に彼の魔力の味は、何度も確かめたので、はっきりと覚えている。
の、だが。
僅かに感じた違和感に、はて、と小首を傾げた。
少し集中して魔力の流れを探れば、彼の中に不自然な「濁り」がある事に気がつく。
封印、いや、呪いの方が近いか。魔力を常に失い続ける……いや、魔力を誰かに奪われ続けている?
少なくとも、彼にとって良いものではないだろう。
癒すついでに、この余計な流れをどうにかできないだろうか。
そういう気持ちで、魔力の流れを調整しはじめる。
それに気付いた彼が、此方を凝視したあと、ふっと口の端を上げた。
思わずつられて口元が緩んだところで。
「これなら、いける」
いつになく嬉しげに呟いた彼が、私の手をぐっと握りしめたのと。
彼の魔力が爆発的に膨れ上がったのは、ほぼ同時。
ごくごく自然に、暴走しはじめた魔力を押さえる形で気を添わせ。
抑え込みながら、彼の思い描く通りに練りあげて。
彼の内側にあった余計な濁りの根源が、練りあがった魔力の渦に耐えきれず霧散したのを、ぼんやりと感じて。
ああ、これは、解放したは良いが制御が難しそうだと、眉根をよせて彼を見れば。
それで構わない、と、そう不敵な笑みを返されて。
あ、その笑い方、好きだな、と。思ったところで、手が離された。
ちらりと籠を一瞥し、今なら壊せるが、まだ加減に自信がないと苦々しげにそうこぼす彼に。
大人しくしていれば乱暴にはされないようだから、このままでも大丈夫だと、笑って首を振る。
そうか、と頷いた彼が、つっと顔を後方の扉に向ける仕草に、誰か来たんだなと察し。
小さく手を振る私に、もう一度頷いてから、音もなく彼が消えるのを見送って。
殴る様に開け放たれた扉から、数人の誰かが駆けこんでくるのを見るともなく見ながら、ほっと体の力を抜いた。
とたん、ぶわりと汗が噴き出して、ぷるぷると震える右腕を、痺れて感覚の無くなった左手で押さえた。
ああ、少し、無理をしたかもしれないな、と。
這うようにしてベットに戻り、吐き気を我慢しながら、それでも悪くない気持ちで、目を閉じた。




