表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/45

 ぐらぐらと揺れる頭を抱え、私は何処か、ステージの上に立っていた。

 少々無理をしたせいか、寝起きのせいか、どうにも思考が定まらない。


「彼女は、そこに居る吸血鬼を呼び寄せるための餌として、来てもらったんだ。まあ、見てのとおり、その役目はきっちり果たしてくれたよ」


 何処からか、男の声がする。


「役目を終えたんだから、すぐに解放してあげても良かったんだが……彼女は、ちょっと特殊な能力を持っていてね。もう少し、手元に置いておきたくなってしまったんだ」


 わっと、何かを叫ぶ人々の声。重なり合って、何を言っているのか良く聞きとれない。


「そうだな……見てもらったほうが早い」


 何を、と、疑問に思う間もなく。

 虫の息といった様子の魔族が、目の前に運ばれてきた。

 ぐわんっと頭痛が増し、足がもつれる。

 よろけた体を、誰かの手が支えた。

 ふと香る、覚えのある煙草の臭い。


 とん、と背中を押され、哀れな魔族の横に膝をつく。

 成程。見世物になれ、と。

 察して、虚な笑みが浮かぶ。

 擦れた声で助けを求める口を、そっと指で押さえ、宥めるように頭を撫でた。


 手についた血を舐めとって、魔力の味を確かめてから。

 口を開けて息を吸い込むようにと、耳元で優しく囁く。

 素直に開いた口に、ふっと息を吐くように、気を流し入れた。

 血で染まった体が、いっきに修復されていくのを確認し、目を伏せる。

 歓声と、賞賛の声を、冷えた気持ちで聞き流し。

 ぐっと鎖が引かれたのに従って、立ち上がり、一歩、二歩、と後ろに下がった。


「見事なものだろう? 瀕死の重傷が、一瞬で、だ。素晴らしいね」


 言葉とともにするりと顎を持たれ、正面を向かされた。

 楽しげな声の中に含まれた鋭利な悪意に、すっと胸を冷やされる。

 傷一つない体を驚いたように確かめていた哀れな魔族が、此方を向いた。

 ありがとう、と。そう感極まった声が、耳に届いて。


 無駄だと知りつつ、止めて、と、そう懇願する言葉が口から零れた。


 耳元で、ふっと男が吐息だけで笑う。

 「その瞬間」を見ていられなくて、私は目を閉じた。

 一秒後に、空気を切る音と、ぐしゃり、と、何かが潰れる音。

 静かに目を開ければ、予想通りの残酷な光景。

 飛び散る赤から目を逸らして男を睨むが、もちろん軽く流されて。


 悪趣味な余興が終わり、闘技場での戦いが始まった。

 雰囲気で、これが最後の決戦なのだと、そう悟る。


 大多数が、何事もなかったかのように歓声を上げる中で。

 嫌悪と怒りを目に宿している青年たちに。

 彼らだけが、救いだな、と。

 そう思いながら、意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ