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ぐらぐらと揺れる頭を抱え、私は何処か、ステージの上に立っていた。
少々無理をしたせいか、寝起きのせいか、どうにも思考が定まらない。
「彼女は、そこに居る吸血鬼を呼び寄せるための餌として、来てもらったんだ。まあ、見てのとおり、その役目はきっちり果たしてくれたよ」
何処からか、男の声がする。
「役目を終えたんだから、すぐに解放してあげても良かったんだが……彼女は、ちょっと特殊な能力を持っていてね。もう少し、手元に置いておきたくなってしまったんだ」
わっと、何かを叫ぶ人々の声。重なり合って、何を言っているのか良く聞きとれない。
「そうだな……見てもらったほうが早い」
何を、と、疑問に思う間もなく。
虫の息といった様子の魔族が、目の前に運ばれてきた。
ぐわんっと頭痛が増し、足がもつれる。
よろけた体を、誰かの手が支えた。
ふと香る、覚えのある煙草の臭い。
とん、と背中を押され、哀れな魔族の横に膝をつく。
成程。見世物になれ、と。
察して、虚な笑みが浮かぶ。
擦れた声で助けを求める口を、そっと指で押さえ、宥めるように頭を撫でた。
手についた血を舐めとって、魔力の味を確かめてから。
口を開けて息を吸い込むようにと、耳元で優しく囁く。
素直に開いた口に、ふっと息を吐くように、気を流し入れた。
血で染まった体が、いっきに修復されていくのを確認し、目を伏せる。
歓声と、賞賛の声を、冷えた気持ちで聞き流し。
ぐっと鎖が引かれたのに従って、立ち上がり、一歩、二歩、と後ろに下がった。
「見事なものだろう? 瀕死の重傷が、一瞬で、だ。素晴らしいね」
言葉とともにするりと顎を持たれ、正面を向かされた。
楽しげな声の中に含まれた鋭利な悪意に、すっと胸を冷やされる。
傷一つない体を驚いたように確かめていた哀れな魔族が、此方を向いた。
ありがとう、と。そう感極まった声が、耳に届いて。
無駄だと知りつつ、止めて、と、そう懇願する言葉が口から零れた。
耳元で、ふっと男が吐息だけで笑う。
「その瞬間」を見ていられなくて、私は目を閉じた。
一秒後に、空気を切る音と、ぐしゃり、と、何かが潰れる音。
静かに目を開ければ、予想通りの残酷な光景。
飛び散る赤から目を逸らして男を睨むが、もちろん軽く流されて。
悪趣味な余興が終わり、闘技場での戦いが始まった。
雰囲気で、これが最後の決戦なのだと、そう悟る。
大多数が、何事もなかったかのように歓声を上げる中で。
嫌悪と怒りを目に宿している青年たちに。
彼らだけが、救いだな、と。
そう思いながら、意識を手放した。




