6
特別ゲストが到着した、との連絡を受けて。
頷いた男が合図を送ると、さっと会場の明りが落ち、壁の一面に「外」の映像が映し出された。
森の中を、魔物の軍勢を殴り飛ばしながら走る青年たち。
その中の一人に、さっと視線が吸寄せられた。
はっと無意識に吐息が漏れたのを、聞かれていたのだろうか。
せっかくだ、盛大に出迎えてやろう、と。
呟いた男が、此方を見てニヤリと笑った。
首輪に加えて、口を封じるマスクのようなものを付けられ。
皮のベルトでさらに手足を拘束されると、筋肉質の大男に抱え上げられる。
前を歩く男の後ろに大男が付き従い、その周りを護衛らしきヒトたちが囲んだ。
男以外は、全員魔族だ。種族は様々だが、比較的人間に近い見た目のモノが多いように思えた。
生意気そうな少年が、時々気まぐれに髪を引いてくるのを面倒くさく思いつつ、目を伏せてやり過ごしていれば。
「さあ、感動のご対面だ」
そう楽しげに男が呟いて。
ソレを合図にしたかのように、無駄に大きなエントランスの扉が、大きな音を立てて蹴り開けられた。
射すように眩い外の光に、薄暗い室内に慣れきった目を焼かれ、じわりと涙が浮かぶ。
それでも目を瞑ることはせず、飛び込んで来た黒い影にじっと目を凝らした。
入って来た青年たちは、すでに帰り血を浴び、薄汚れている。
それを囲む魔族たちも、似たような格好だ。
まるで彼等を歓迎するかのように立ち並ぶ使用人たちの制服は黒で統一されており。
エントランスを見下ろすように設置されたバルコニーに立つ男たちの服も概ね黒い。
白くふわふわした自分の格好は、この場で酷く浮いているなと思い。
次いで、あえて目につくように、この格好を選んだのかもしれないと思い至る。
ようは、演出のようなものなのだろう。
挑発を目的とした、悪趣味な。
私の姿を捉えた彼の目が、鋭く殺気を飛ばし始めた事で、やはりコレが狙いのようだと察せられて。
うっかり餌にされてしまった事を申し訳なく思い、けれど、餌に釣られてくれたことをどうにも嬉しく思ってしまう気持ちもあり。
知った顔を見つけた安堵も手伝って、付けられた拘束具の奥でふっと口元が緩む。
連動してへにゃりと眉が垂れ下がってしまったのを、目ざとく見つけた少年が大げさに笑ってみせた。
「へぇ。君も、そんな顔するんだ。今まで何をされても顔色一つ変えなかったお人形さんが、ねぇ?」
嘲る口調は私へというよりは、彼を煽るためのものだろう。
実際、何をされても、といわれる程、何かをされたわけでもない。
有無を言わさず誘拐され、羞恥プレイ及び緊縛プレイもどきを経験させられているというくらいで。
おや。わりと色々されているかもしれない。
そんな風に少々緊張感に欠ける思考をしていたところ。
ぐっと顎を持ち上げられ、息苦しさで顰めた顔を、見せつけるように彼に向けられた。
「可哀そうに。これじゃ助けを呼ぶこともできない。まあ、呼んでも無駄だけど!」
びきり、と彼の額に青筋が浮かんだのが、この距離からも見てとれた。
ずいぶんとまあ、徹底して煽るものだ。
少年を諌める言葉を口にしながら男が前に出て、青年達をゆったりと睥睨する。
男はしらじらしく歓迎の言葉を口にし、それから一言二言。
先頭に立っている青年と意味深なやりとりを交わすと、余裕の滲むゆったりとした足取りでその場を後にした。
一拍遅れて、護衛達も男の後を追う。
抱えられている私も当然、その場を後にすることになるわけで。
どうにも名残惜しさを感じ、ぐっと身を捩った私は、ちょうどというか当然というか、此方を凄まじい眼力で凝視していた彼に。
「ごめん」と「ありがとう」を視線で伝え。
おそらく正確に読み取ったのであろう彼の目から、ふと殺気が消えると同時。
「まっていろ」と、そう動いた彼の唇が、閉まる扉の向こうに消えた。




