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「一緒に来てもらおう」


 そう言うやいなや、否とも是とも答える間もなく、伸びて来た手にあっさりと捕えられ。

 多少一般人と違う要素を持ってはいても、戦闘面に関してはからっきしな私には抵抗するすべもなく。

 目隠しをされて連れてこられたのは、何故だかいやに煌びやかな一室で。

 これまた何故だかメイド服を着た女性達にあれやこれやと世話をやかれる日々に、好待遇がむしろ不気味だな、と。

 内心顔をしかめつつ、けれどだからといってどうすることもできず、流されるままその部屋で数日を過ごした私の前に。


「ほう。君があの吸血鬼のオヒメサマ、か」


 と、どうも黒幕臭のする男が薄笑みを浮かべつつやってきたことで。

 どうやら、この不気味に優雅な時間も終わるようだと気を引き締めた。

 吸血鬼、と聞いて、思い出すのは彼の顔。成程、詳しい種族にまで考えが及んだ事はなかったが、確かにそれっぽい。

 正確には半吸血鬼ダンピールか、とぼんやり考える私を覗きこみ、男は悪役然と酷薄な笑みを浮かべた。


「オウジサマが助けに来るまで生きていたかったら、今まで通り大人しくしておくと良い」


 言われなくとも、非力な私に出来ることもなく。

 命令し慣れた様子で男が指図するのに黙々と従っていれば。

 どういうわけだか甘々なロリータファッションに身を包む自分がいて。

 白を基調としたフリフリヒラヒラした服は、見る分には可愛らしいが。

 それを纏っているのが自分だと思うと、どうにも居心地の悪い気分になり、ぐっと顔を顰めた。

 好みではないと言いはしたが、ここで私に拒否権があるわけもなく。

 着せられた服と、白いリボンで結ばれた両サイドの髪束を、じとりと鏡越しに睨むしかなかった。

 仕上げとばかりに、私の首にかちりと首輪を嵌め、男はくっと喉を鳴らす。


「なかなか似合ってるよ、お人形さん」


 くんっと首輪につながる鎖を引かれ、強制的に上を向かされたかと思うと。

 どこか満足げに呟かれた言葉に、反応を返すことすら億劫で、顰めたままの顔で沈黙を貫く。

 男はつっと鎖に手を這わせ、鋭利な笑みを浮かべてみせた。

 立つように命じられ、従うやいなや鎖を持つ男が歩きはじめてしまえば、自分も歩みを進めるしかなく。

 従順だな、と笑う声を聞かぬフリ。

 部屋を出た瞬間、一斉に向けられた好奇の視線にも気づかぬフリをして、揺れる鎖を追う事だけに集中した。



 ざわざわと蠢く人々は皆着飾り、上品そうな口調で下世話な会話を交わし合っている。

 飛び交う言葉の中を歩くだけでも、様々な情報を拾うことができた。

 ご主人様然とした顔で鎖の先を持つこの男が、「伯爵」と呼ばれているとか。

 主に魔族を商品として取り扱う奴隷商人であるとか。

 最近、大きな取引先を失ったらしいとか。

 ココは伯爵が所有する「闘技場」であり、奴隷同士による殺し合いを観戦する場であるとか。

 気に入った魔族等を購入することもでき、場合によっては競が行われることもあるとか。

 伯爵の思いつきで、今回は「特別ゲスト」を呼んでいるとか。

 どうも、そのゲストが、伯爵の取引先を潰した者たちであるらしいとか……


 拾った情報から、何となく事の全容を理解して、内心でため息をついた。


 きっと、こうなる事を警戒して、私と距離を取ったのだろうな、と。

 その気遣いが無駄になってしまったことを、不可抗力ながら申し訳なく思う。

 けれど、そんな感傷を、この場の誰かに悟らせる気にはなれず。

 時より意味ありげに見下ろしてくる男の横で、何の感情も浮かべず、何もしゃべらず、ただただ人形のように立っていたのだった。

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