エンディング
漆黒の大鎌が、ブンと横薙ぎに振るわれる。
それを間一髪で躱し、青年は冷や汗を滲ませながら後方へと飛び退った。
青年と入れ替わるように、仲間二人が前へと駆け出す。
荒い息を吐きながら、青年は額に滲む汗を腕で拭った。
酷使した体が、小刻みに痙攣している。
青年たちが戦っているのは、白黒の道化師のような格好をした男だ。
その格好や、愛用している武器から、闇の道化師だとか死神だとか呼ばれている。
会う度に色の変わる髪は、今日は赤い。
長い前髪から稀にチラリと見える黄色の瞳は、猫科の獣を思わせる縦長の瞳孔が特徴的だ。
何故か青年の事を気に入っており、何かと絡んでくる迷惑な変人で。
気まぐれに味方をすることもあれば、敵対することもあり。
現在はというと、もちろん敵対している真っ最中である。
ポニーテールの少女は、淡々とした無表情のまま素早く攻撃を仕掛けるが、全て軽々とあしらわれ。
筋肉質で大柄な青年は、いちいち小さく悲鳴をあげながら、必死に大鎌を避けるので精一杯のようだ。
二人を相手にしながらも、その視線はじっと青年を向いている。
前髪で見えないはずなのに、何故かはっきりとそれが感じられて、青年はゾワリと傷だらけの体を震わせた。
「お前、完全に狙われてるな」
「できれば直視したくない現実を改めて突きつけるの止めてくれるかな!?」
軽口をたたきつつ、敵からの視線を遮るように、もう一人の仲間が青年の前に立つ。
片側だけ赤い瞳が示すとおり半魔族である彼は、その血故にか、仲間内で一番好戦的だ。
流れるように抜刀し、駈け出す姿は、何処か楽しげですらある。
三対一となれば、多少余裕もなくなり、視線は青年から外れたものの。
素早く的確な鎌さばきに焦りは見えない。
このままでは駄目だと、息が整う間もなく前に走り出そうとした青年を止めるように、ぽん、と。
司祭姿の男が青年の肩に肘を置いた。
「君がやられてしまったら終わりなんだ。無理はしない方が賢明だな」
どんな時でも飄々と人を食ったような態度を崩さない男は、そう言って肘の上に顎を乗せ、寛いだ雰囲気で戦況を見物し始める。
いや、でも、と眉を下げた青年の横に、カシャリと硬質な足音を立てて白銀の騎士が並んだ。
「いいから、お前はそこで休んでいろ」
固い声で言うと同時、素早く抜いた刃で、飛んできた黒い斬撃を受け止める。
敵の大鎌と、騎士の剣が、ギリリと押合う。
刹那、パッと敵が後ろに飛び退った。
「苦戦してるみてぇだな! しょーがねー、この俺様が加勢してやるよ! 」
一瞬前まで敵が立っていた場所に、バサリと大きな蝙蝠羽を広げ、魔王が降り立つ。
赤い双眸を爛々と輝かせ、肉食の獣を思わせるしなやかな動きで敵へと躍りかかった。
五人がかりで迫れば、さすがに敵の余裕も消える。
捌ききれず、体勢を崩した敵に、魔王がニヤリと笑みを浮かべた。
だが、渾身の一撃を放とうとした、その瞬間。
ぽふんと魔王の体が掌大に縮み、敵へと叩き込もうとした拳は、すかっと見事に空ぶった。
「ちくしょーまりょくぎれか!」
「何これ、どういう仕組み?」
興味深そうにそう呟き、歯嚙みする魔王へと、敵が手を伸ばす。
その手が触れる直前、阻むように、紐状のモノがギュルリと渦巻きながら敵に襲いかかった。
同時に、さっと影が走り、魔王の姿が消える。
紐を断ち切ろうと大鎌が振るわれるが、素早く紐は引き戻され、白衣を着た少年の手の中に収まった。
それと同時に、軍服姿の男が少年の横にストンと着地し、鷲掴みにしていた魔王を雑な仕草で放る。
「あのタイミングで魔力切れとはね」
「うるせ!」
ひょいっと魔王を受け止めると、少年は眼鏡に手を添えながら、からかうように笑い。
少年の手の中で、魔王はむうっと口をとがらせた。
和やかなやりとりを横目に、1人冷ややかな空気を纏い佇む軍服の男を、青年は怪訝な顔で睨みつける。
嘗て軍に居た頃は、憧れの目を向けていたこともあった。
だが、あの時。
軍の研究室で繰り返されていた非人道的な実験を、満足げに笑いながら眺める横顔を見た時。
根本的に相容れない人間であることを知った。
「何で、貴方が……」
「煩い。私とて好きで此処に居るわけではない」
互いに、因縁のある相手だ。
投げ合う視線は冷え切り、間にある空気はピンと張り詰めている。
「駄目ですよ。仲良くしてくださいって、言ったでしょう?」
だが、その柔らかな声が耳に入った瞬間、殺伐とした雰囲気はふわりと搔き消えた。
自分ばかりか、対峙していた男までもが素直に敵意を収めたことに、少し意外な気持ちになりつつも。
振り向いた先にあった、何時もの穏やかな笑顔に、青年はふっと肩の力を抜いた。
商人さん、と、そう呼びかけた青年の声に。
呼びかけられたその人は、はい、と応え。
少し笑みを深めながら、青年に手を差し伸べた。
薄青の細い髪が、さらりさらりと風に靡いている。
青みがかった黒い目は、光の加減によって青みの濃さが変わって見えるらしい。
いつだったか仲間の一人がそうポロリと漏らしていたのを思い出しながら、青年は彼女の手をとった。
とたん、スッと体が楽になる。
あっちこっち浅く切り裂かれていた傷が、瞬く間に治っていった。
これで、また戦える。
青年はぺこりと大きく頭を下げ、丁寧に感謝を伝えてから、キリッと顔を引き締め、敵へと目を向けた。
仲間たちが自然と集まり、青年の隣に並び立つ。
覚悟を決めた顔の青年に目を止め、敵が嬉しそうに笑いながら、大鎌を構え直した。
来い、と仕草で示され、青年はぐっと足に力を込める。
素早く仲間たちと視線を交わし合い、そして。
弾けるように、駆け出していった。
このお話は、ここで完結となります。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました!
明日、登場人物紹介のようなものを載せてから完結済みボタンを押したいと思います。
そちらに興味のない方は、ここでお別れですね……本当にありがとうございました!
興味のあるかたは、また明日!




