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その後も、一人でいると時々現れるようになった軍人さんを、適当に構いつつ。
一ヶ月ほど、少年と共に暮らした後。
何となく相性が良さそうな気がしたので、知り合いの魔道具職人に少年を預けてみたところ。
想像以上にすんなりと意気投合した二人により、流れるように養子縁組が行われ。
その数日後には、来年度から王都にある学園に入学することが決まったとの報告を受けて。
配達ついでにお祝いを言いに行けば、少年は、はにかみながら。
卒業後は魔道具職人の元で修行を積み、いづれは家業を継ぐつもりなのだと夢を語ってくれた。
「王都で揉まれて、多少使えるようになって戻ってくれば良いんですけどね」
「戻り次第隠居させてあげるよ。楽しみに待っていてくれ」
軽い調子で言葉を投げ合う二人を、微笑ましい気分でほのぼのと眺め。
良かった、と、小さく頷いた。
あの時少年は、自分にはもう何もないと言ったけれど。
全て失ったところで、生きてさえいれば。
虚無を埋める「何か」なんて、すぐに見つかってしまうものなのだ。
こんなふうに。
・・・・
「ちょっとでかけてくるわ」
そう言って、軽い足取りで窓から出て行った魔王を見送り。
元気だな、と目を細めた。
魔力を奪われてから、むしろ調子が良くなったらしい。
溜め込むばかりだった余計な魔力が排出されたことで、すっきりしたのだそうだ。
髪を黒く染めていたのも、その余計な魔力であったようで。
肩より少し伸びた髪は、元の薄青い色を取り戻している。
特にすることもなく、ぼんやりと窓の外の木々を眺めて過ごしていれば。
するり、と。
後ろから伸びてきた手が、首に絡みついた。
ゆるく引き寄せる力に従い、ぽすりと背中を預ける。
視界の隅で、薄青に黒が寄り添った。
この、近すぎる距離感にも慣れてしまったな、と。
ぼんやり思いながら、目を閉じる。
ふすふすと、鎖骨から首筋にかけてを執拗に嗅いでいたかと思えば。
かぷりと耳を甘噛みされ、ぺしりと額を叩いて嗜める。
だが叩く手をそのままに、一向に甘噛みを止める気配はなく。
身を捩りながら咎めるように睨んでみるも。
「逃げる気があるなら、もっと本気で拒め」
と、そう言って、楽しげに口角を上げられてしまえば。
本気で拒む気のない私が、逃げられる筈もなく。
ああ、捕まってしまったな、と。
一つため息をついて、諦めた。
・・・・
ああ、もう、認めてしまおうか。
私は愛しているのだ。
彼と共に在る時間を。
ゆったりと巡る日常を。
ゆるやかに増えていく繋がりを。
時々巻き込まれたり巻き込んだりと、事件も起きるけれど、それも含めて。
愛してしまったから。
だから、この世界で。
漫画みたいな、この世界で。
彼らと共に。
そう、ひっそりと胸の内で決意を定めてからも。
これといって何かが変わる事もなく、日々は緩やかに過ぎていく。
何かの拍子に、少しずつ増えていく顔見知りと。
気づけば、そこそこ長い付き合いになってしまった彼らと。
基本的には、のんびり穏やかに。
時々、騒がしく。
そんな日々が、続いていく。
多分、これからも、ずっと。




