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「仕切り直そう。さっきは話しの途中で撃たれてしまったからね」


 そう何処か拗ねたように呟き、少年はふっと息を吐いた。

 私にはもう何もないし、何もいらない、と。

 先程と同じ言葉を繰り返した後、とぼけたように肩をすくめ。


「まあ、そう言ったけどね。自ら手放す前に奪われれば、悔しいと思う気持ちくらいは残っていたみたいだ」


 そう言って、自嘲するように笑った後。

 先程のように虚なものではなく、吹っ切れたような目をして。

 此方に、手を差し出した。


「君には迷惑をかけたね。すまなかった。償いになるかは分からないが……もとの世界に還してあげることなら出来るよ。勿論、それ以外で私に望むことがあるなら、出来うる限り応えたいと思う」


 呆気なく迎えた決断の時に、私は何気ない顔をして。

 差し出されたその手を、掴んで、引いて。

 そのまま、歩き出し。


「え、ええと。これはどういう……?」


 呆気にとられた顔で、疑問符を飛ばしている少年に。

 とりあえず帰りましょう、と。

 何時もと同じ笑みを浮かべれば。

 少年は口を閉じた後、困ったような、泣きそうなような、顔をして。

 俯き、こくりと一つ頷いた。


 繋いだ手には、ほとんど力を入れていない。

 けれど、家に帰るまで互いの掌が離れることはなかった。


 ・・・・


 道中は特に何事もなく、夕食を屋台で済ませてから帰宅し。

 井戸に興味を示した少年に使い方を教えがてら、風呂に水を張って。

 沸かしている合間に、石鹸類や趣味で作った入浴剤等について説明しながら。

 ふと、興味深そうに手の中で入浴剤を転がす少年を見下ろし、気づいて此方を見上げた少年に。


「一緒に入りますか?」


 と、湯船を指ししめしながら、小首をかしげれば。

 一瞬、言葉の意味を掴み損ねたように目を瞬いた少年は。

 次いで、じわりと頬を染め。


「からかわないでくれ!」


 そういう冗談には慣れていないんだ、と視線を彷徨わせる様子を見ながら。

 どうやら精神年齢は前世で固定されているようだ、と。

 一つ頷き、謝った。


 からかったわけではなく、本当に何気なく、一緒に入ってしまえばてっとり早いかなと思っただけなのだけれど。

 5・6歳くらいに見える少年であれば、別に構わないかと。

 ごく自然に子供扱いしてしまっていたな、と。

 軽く反省した、数分後。


「一緒に寝ますか?」


「だからそういう冗談はやめてくれと……!」


 またもうっかり、不適切な発言をしてしまい。

 赤面した少年に、枕でバシバシと叩かれ。

 謝りながら逃げまわっていれば、遊んでいるように見えたらしく。

 俺も混ぜろとばかりに魔王も枕を振り回しはじめ。

 そうこうしている内、いつのまにか魔王と少年の枕投げ合戦が始まっていたので。

 白熱する二人に気付かれないよう、そろりとその場を抜けだして。


 パタリ、と。

 後手に閉めた扉の向こうに、楽しげな喧騒が遠ざかり。

 ふっと小さく笑みを漏らしながら、その場を離れた。



 薄く雲のかかった月を、ぼんやりと見上げながら、待つ。

 ふと強く吹いた風に、巻き上がった髪が月を隠し。

 髪を払おうと上げた手を、横から伸びてきた手が掴む。


「逃した」


 と。現れるなり、そう不機嫌な声を零した彼に。

 それは残念でしたねと返し。

 掴まれた手をやんわり引き戻そうとするが、叶わず。

 むしろしっかりと掴み直され、体ごと引き寄せられた。

 ぐるりと腰に回された手の力強さに、これは暫く離してもらえなさそうだな、と。

 察して、虚ろな目で遠くを見つめる。


 私が研究所に居た間、発散する術がなかった故に。

 どうも膨らんでしまったらしい彼の「吸血欲求」が満たされるまで、私はひたすら無になった。

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