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研究所というのであるから、何かしらの研究をしているのだと思う。
最初、その片手間に私の身体や能力について測っている様子だった少年だが。
私が体内に魔王の魔力を留めていることが発覚した瞬間から、その空気が変わり。
真剣を通り越して、鬼気迫るといった表情を浮かべ黙々と何かを計算し始めた少年に。
何となく、少年の目指すところが見えたような気がした。
そこからは、毎日何らかの実験やテストを繰り返す日々が始まり。
ただ、何をするにも基本的に私への説明はなく。
耳に入ってくるのも、専門用語らしき単語だけ。
魔法的な知識にも化学的な知識にも精通してるとは言い難い私には。
いまいち自分が今何をしているのか、または何をされているのか分からないままに時が過ぎていく。
反抗的な態度をとるわけでもなく、指示されれば黙って従う私は協力的な方だと思うのだが。
少年の言葉の節々に含まれる、どことなく脅すようなニュアンスであるとか。
此方を見据える瞳に混じる、ピリリとした警戒心であるとか。
そういったものが消えることはなく。
少年の、そういう。
私が少年に対して友好的であるはずがない、と決めつけているような態度に。
心の何処かで後ろめたさでも感じているのかもしれないな、と。
そんな風に考えている私も、少年に対して後ろめたさのようなものを感じていたりするのだが。
私には少年から恨まれる心あたりがあって、少年にも私から恨まれる心あたりがあるらしい。
けれど、私は少年を恨んではいないし、多分、少年も私を恨んではいないのだろう。
だったとして、現状の何かが変わるということもなさそうだけれど。
・・・・
その日は、何処か今までとは違った空気を感じ。
良く分からないが、今までとは違うことをするのだろうな、と。
思いつつ、これまでのように黙々と指示に従っていれば。
何やら物々しい雰囲気の機材や装置が壁一面に設置された部屋に連れてこられ。
部屋の真ん中に立つように、との指示を最後に、ぽつんと。
1人、そこに取り残され。
一面だけ、ガラス張りになっている壁の向こう側から。
此方を凝視する視線には、気づいていないような顔をしたまま静かに待機していたところ。
部屋の四隅から、『捕獲装置』に使われているのと同じ、紐状の何かが此方へと伸び。
反射的に後ずさった私の体に、シュルシュルと巻きついた。
じわり、じわり、と。
巻きついたところから、魔力が吸い取られていく。
それに比例して、黒く染まっていた髪が元の色に戻っていった。
数分後。
アラームのような電子音が響き、拘束が解ける。
とたん、ガラスの向こうの人々が騒めきはじめた。
手元の機械に何かを入力しながら、興奮した様子の少年が早口に指示を飛ばているのを、手持ち無沙汰に見守っていると。
「ソレが、お前の言う『白い悪魔』か」
研究員たちの後ろから、カツカツと靴を鳴らし。
軍服の胸に多くの勲章を煌めかせた、何とも「偉そう」な雰囲気の軍人さんが現れ。
迷惑そうな顔の研究員たちを気にせず押しのけ、少年の横に立つと。
白い手袋に収まっている指先で、ついっとガラスを撫でながら。
冷淡な声で、そう言った。
「ああ……そうだよ。彼女は希望を叶え、絶望を告げる……真っ白な、私の悪魔だ」
手を動かしながら、上の空に答え。
ふと顔を上げた少年は、そこでやっと軍人さんの存在に気がついたようで。
ああ、いらしてたんですか、と苦笑し。
お望みの品でしたら彼方に用意してありますよ、と、そう言って軍人さんを別の部屋へと誘った。
少年の後に続いて部屋を出る時、1度。
すっと此方を振り向いた軍人さんの、酷く鋭い視線に。
何となく、不穏なものを感じ、ひっそりと眉をしかめた。
あの人は、なんと言うか。
自らの望みのためであれば、平気で他者を踏みにじり、嗤えるような。
その上で、自分を絶対の正義であると、胸をはって主張できるような。
そういうタイプの人だ、と、そんな風に思いながら。
扉の向こうに消えていく背中を、見送った。




