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やあ、久しぶりだね……?
見覚えのない少年に、見知った人に対するような気軽さで、ひょいっと手を振られ。
はて、と小首を傾げた私に、少年は「まあ、分からないだろうね」と大人びた顔で笑い。
私にはね、生まれる前の記憶があるんだ、と、そう言った。
「前世の私は、優秀な魔法使いだったんだ。1日で国を1つ滅ぼしてしまえるくらいの力を持った、ね。まあ、そのせいで今では『災厄の魔法使い』なんて呼ばれているみたいだけど」
何処か得意げに言葉を続け、クッと眼鏡を押し上げた少年が。
『誰』であるかを知って、一瞬呼吸が乱れた。
そうですね、召喚魔法を成功させてしまえるくらい、優秀な魔法使いでした、と。
平坦な声で呟いた私に、笑みを深め。
「ずっと探していたんだ。私の可愛い悪魔さん」
君を召喚したのは私なのだから、君は私の「所有物」でしょう? と。
曇りのない目で、そう主張する少年を見て。
その手の中で、きーきー喚きながらもがいている魔王を見て。
少年が現れたのと同じ物陰から、伏兵であろう軍人さんが数名、姿を現したのを見て。
諦めのため息と共に、そっと両手を上げた。
・・・・
「ようこそ私の研究所へ」
少年の声を合図に、目隠しが外され。
自由になった視界に映った「研究所」の内部は、魔術的要素と化学的要素の混在する混沌とした空間で。
この世界に来て、初めて見たのもこんな感じの景色だったな、と。
ぼんやり思い出しながら、ぐるりとそこを見渡した。
研究員と思われる白衣の人が数人、何かよく分からない装置を弄っていたり、何かよく分からない薬品を調合していたり、何らかの数値であったり複雑な記号のような何かであったりを書き記していたりと、それぞれに動いている。
何となくそれを目で追っている私の手を引き、少年は奥へと進んでいった。
研究所の真ん中にでんと鎮座する実験台と椅子。
少年の定位置であるらしいその場所は、研究所の中でも一層混沌としているように見えた。
危ういバランスで積み上がっている魔導書であったり、不可思議な形状の実験器具であったり、用途不明の電子機器であったりが雑然と置かれている光景に気をとられていると。
カチリ、と左手首に薄い金属の輪が嵌められた。
輪の内側には、びっしりと魔術的な記号が刻まれ。
外側には、型番のようなものがデジタル時計の表示のように光っている。
少年からは特に説明もなかったが、逃亡防止のための何かであろう。
その後、シャワールームにて「洗浄」され。
あっちこっち計測された後、病院の検査着に似た白い服を着せられ。
採血と各種検査が終わった所で、その日は開放された。
開放されたと言っても、もちろん家に返してくれるはずもなく。
研究所内にある自分用に割り当てられたベットルームで自由に過ごすお許しが出たというだけだが。
ベットルームの壁面に埋め込まれた画面には、魔王が檻の中でギャンギャンと喚き散らしながら暴れている様子が映し出されている。
人質のつもりだろうか。
別に、そんな事をしなくとも逃げる気はないのに。
そもそも自力での逃亡は不可能であることだし。
少年が私を側に置きたいというのであれば、それに従うのは特に苦ではない。
まあ、かと言って。
この状況を、歓迎しているわけではないけれど。
生きることを望んでいたのに、それよりも力を振るうことを選んだ魔法使い。
その生まれ変わりである少年は、何を望んで、何を選ぶのだろう。
あの時、魔法使いに絶望を告げた白い悪魔は。
今度は少年に、何を告げることになるのだろう。
ほんのり、「何か」を突きつけられているような気持ちになりつつ。
せめて、前回よりはマシな結末になると良いなあ、と。
ぼんやり祈りながら、目を閉じた。




