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 戻ってきた家では、すでに此方での顔見知りたちによって宴会が開かれ、終わった後のようで。

 居間や玄関先で眠っている、知った顔の酔っ払いどもに。

 斬新な出迎え方ですね、と呆れて笑いながらの帰宅となった。


 体の中に残っているアルコールを軽く逃してやりながら、1人1人起こしていけば。

 帰ってくるのが遅いと口々に文句を言われ。

 そんなに待ちわびてくれてたとは、すみません寂しがらせてしまいましたね、などと冗談交じりに返してから。


「ただいま戻りました」


 と、そう改めて伝えた言葉に。

 伝え方はそれぞれに「おかえり」と、そう返してもらえる喜びを。

 ひっそりと、胸に抱きしめて。


 ところで、この有様はどういうことでしょうね、と。

 酒瓶の類いが散乱し、何故か家具があっちこっちひっくり返されている惨状を見渡し。

 座った目で、冷やりと微笑んだのは。

 多少の照れ隠しも含んでのことだった。


 ・・・・


 戻って来てからの暮らしは、此処を出る前の暮らしとほとんど変わらず。

 夜明け前に起き、香草や薬草や果実なんかを採ってきて「商品」を作り、朝市で売って、商品がなくなったら店を畳んで昼まで適当に過ごし、午後からは朝市用とは別に用意しておいた商品を持って、配達を頼まれているお客さんたちの家を巡り、その後はその日の気分によってまた適当に過ごし……と。

 そんな感じの平穏な日々。


 変わった所といえば、生活の中に魔王という存在が加わったことくらいだが。

 それも、喋って動くぬいぐるみを頭や肩に乗せているようなもので。

 此方としてはさほど不便も感じず。

 周りの人々も、最初だけは多少のツッコミを入れはしても、その後はスルリと受け入れの姿勢を整えてしまい。

 当の魔王の方も、一度存分に暴れたせいか、それともこういった静かな暮らしも案外悪くないと思っているのか。

 特に不満を言うでもなく、此処での生活に馴染んでいる。


 隠れ里での暮らしも、此処での暮らしも、基本的には平和なもので。

 できれば、ずっとそうであって欲しいのだけれど。

 けれど、時より思い出したように襲ってくる「異常事態」があるからこそ、それを愛おしいと思えるのかもしれないな、と。


 まさにその異常事態を前に、ふっと遠い目になりながら、そんな事を考えた。



 配達の途中、小道に入った所で。

 待ち伏せていたらしい軍人さんたちに、統制のとれた動きで取り囲まれ、銃を突きつけられ。

 その人たちの纏う軍服に、いつぞやの彼の姿を思い出し。

 その関係で目を付けられていたのなら今更な気もするけれど、と。

 ほんのり小首を傾げつつ、そっと魔王を手元に引き寄せた。


 大人しく従うのであれば手荒な真似はしない、との声に。

 応えるように、好戦的な笑みを浮かべ。

 一瞬で大きく姿を変えた魔王が、躍り出る。


「おいおい呆気ねぇなぁ! 手荒な真似してくれんじゃねぇのかよ?」


 ほんの瞬きの合間に倒れ伏した人々を、余裕綽々といった様子で見回し、魔王が嗤った。

 皆、意識を刈り取られているだけで死んではいない。

 そういえば、好戦的なわりに殺してしまったりとかはしないですよね、と呟けば。

 まぁ、格下相手にゃ手加減するって感覚が染み付いちまってっからな、と。

 何処か得意げに笑いながら、振り向いた魔王の腕に。

 くるり、と、紐状の物が巻きついて。


「なっ……!?」


 とたん、ぽふんと縮んだ魔王の体に、再び紐状の何かがくるくると巻きつき、ミノムシのように拘束する。

 何だコレ! と、もがきながら苛々と叫んだ魔王に答えるように。


「コレはね、魔族を捕獲するために開発された装置だよ。対象の身体を拘束し、魔力を奪う。なかなか優秀だろう? 元はもっと大掛かりな物だったんだけれどね。私が手を加えて、より使いやすく小型化することに成功したんだ。褒めてくれて良いよ」


 ゆったりと奥の物陰から進み出てきたのは、まだ幼い少年だった。

 眼鏡に白衣と、科学者のような出で立ちの少年は、片方の手に金属性の小手のようなものを付けている。

 魔王を拘束している紐状の何かは、その掌部分から伸びていた。

 ミノムシのようになった魔王を見せつけるように揺らしながら、少年はゆったりと笑みを浮かべ。


「やあ、久しぶりだね」


 と、私に向かい。

 そう言って、片手をあげた。

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