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引っ越しの準備を終えた後、改めてしっかりと挨拶をしてまわり。
惜しんでくれる人々と、一人づつ、手を振りあい。
定期的に遊びに来る事を何度も約束して、里を後にした。
向かうは、闇の大地と呼ばれる場所。
魔王のねぐらが在った場所でもあるので、訪れるのはこれで二度目だ。
といっても、その近くまで行くだけで、内部まで足を踏み入れる気はないのだが。
「なんだ、さとがえりでもさせてくれるってか?」
ふん、と鼻で笑った魔王に。
まあ、そんなところです、と返して。
ふくりとした両頬を、ぐにりと指で挟んだ。
進むに連れ、濃くなる魔力の気配と、騒がしさ。
多くの魔族たちが、暴れ回っている。
その中心地であろう場所はまだ遠いはずだが、それでもハッキリと感じとれる喧騒に。
「なんだぁ? アイツラずいぶんとはしゃいでやがんな」
そう言って小首を傾げた魔王に。
頂点を失った魔族たちが、次にすることは何だと思います? と。
問いかければ、すぐに察したらしく。
「ああ、なるほどな」
ニヤリと笑い、楽しげな視線を彼方に投げた後。
ああ、くそ、まつりじゃねぇか。さんかしてぇ、と。
悔しげに呟き、ばたばたと人の肩で暴れる魔王に。
では参加してみますか、と。
ごく何気ない調子で、切り出して。
は? と、虚を突かれた顔で此方を振り返った魔王の額に。
口付け、「魔力」を吹き込んだ。
・・・・
殴り、切り裂き、噛み砕き、引きちぎり、押し潰し、嗤い、吼える。
魔族達の狂乱の宴は、魔王を失った日から続いていた。
魔族の頂点に立つために必要なのは、強さ。
ただ、それだけだ。
今此処で行われている戦いの勝者が、そのまま次の魔王となる。
単純で、分かりやすい選出方法である。
宴も中盤にさしかかり。
敗者は消え、残ったのはいずれも名だたる強者ばかり。
拮抗する実力者達が、お互いの出方を伺い、睨み合う。
ピンと張り詰めた空気の中、不意に。
「おう、楽しそうな事してんじゃねぇか! 俺も混ぜろや」
場違いに明るい声を響かせて、飛び込んで来た「見知らぬ魔族」に。
何だコイツは、と胡乱な視線が突き刺さる。
おいおい雑魚はすっこんでな、と。
面倒くさそうに言って、蝿を払うように手を振った一本角の鬼人は。
次の瞬間、背後に居た数人を巻き込んで、遥か後方の岩山に叩きつけられていた。
「そうそう、その通り。雑魚は、すっこんでねぇとだよなぁ」
しんと静まりかえる中、楽しげに。
振り抜いた形で止めていた腕をゆったりと降ろし、挑発的に周囲を見渡して。
魔王が、嗤う。
一気に膨らんだ緊張感と、一斉に向けられた警戒と興味の視線を、満足げに受け止め。
さあ来いよ、と。
誘うように両手を広げて見せた魔王に。
その場に居た魔族たちが、一斉に飛びかかった。




