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黒地に銀の縁取りの軍服は、とても格好良い。そして、彼によく似合っていた。
闇色の髪に櫛を通し、項の辺りで纏めて赤い紐で括り、纏めきれなかった一部の前髪を横に流すと、思わず満足げな吐息が漏れた。
筋肉質で背が高いので、なかなかに本物らしい。
黒い布地からのぞく白い肌に何とも怪しげな色香を感じ、恐らくどこかに紛れこむための変装だというのに、逆に人の目を引いてしまうだろうな、と眉を下げた。
まあ、元々の恰好よりはマシなはずだと、口に出さずに言い訳しておく。
苦笑する私を、赤と黒の瞳が見上げている。
何でもない、と首を横に振ってから、彼の左目にそっと眼帯を当てた。
いつか見た宝石のような、綺麗な赤を隠してしまうのはもったいないが、見られれば即座に魔族の血を引いているとばれてしまう。
半分になった視界を確かめるように二三度瞬いて、黒い瞳がまた此方をじっと見つめた。
もう動いて良いですよ、と頷いてみせれば、コクリと頷き返して立ち上がり、玄関へと向かった彼の後を追う。
手早く靴を穿く姿を眺め、元々着ていた服は和風だったのに、靴だけブーツなんだな、とぼんやり考えていると、ちらりと黒い瞳が此方を向いた。
「助かった」
囁くような声が私の耳に届くより早く、夜の闇の中に彼は消え。
ぱたりと閉まった戸の前で、一人口元を被って蹲った。
胸の中心から何かが湧きあがってくる。
叫びたい。転げ回りたい。じたばた暴れたい。湧き上がる欲求を堪えながら、ふるふると全身を震わせた。
一言でいえば。
もえた。
・・・・
「何か良い事でもありまして?」
と、興味深げに聞いてきたご婦人に。
そうですね、ちょっと良い事がありまして、と微笑みを返し。
「今日はずいぶんと機嫌がよろしいようで」
と、嫌みな物言いが癖になってしまっている青年からのモノ珍しげな声には。
そうですか? と、とぼけてみせつつ。
どうやら私は自分が思っていたより分かりやすい人間であるらしいと、ひっそり照れ笑いを隠した。
ここ最近、同じようなことをよく言われる。
別に、それが悪いということもないが、何となく気恥かしい。
軽くなった荷物と、暖かくなった懐を抱えて帰路につく。
人でごったがえす大通りを歩けば、自然と様々な噂話が耳に入って来るもので。
先日行われた華々しいパレードの裏で、魔族が軍の研究機関に侵入し、暴れ回ったらしいとか。
軍内部に手引きした者がいたらしいとか。
軍が秘密裏に魔族を捕まえては非道な実験を繰り返していたことが発覚しただとか。
そんな、噂話の中に散らばる幾つかの欠片を無意識に拾い上げつつも、知らぬ顔で通り過ぎていく。
軍に侵入したというのは、正確には魔族ではなく混血なのではかなろうか、と。
そんな確信に近い予想を胸中で転がして、密かに唇を綻ばせた。




