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気負いなく、ゆったりと佇む魔王を前に。
誰もが息を飲み、身を硬くした。
だが、魔王がそれを不審に思っている様子はない。
魔族の頂点を前にし、下っ端が緊張で固まるなんてことは珍しくもないのだろう。
「変わった色してんなお前」
と、薄い青という珍しい色が目を引いたようで。
近づいて来た魔王が、無造作に髪を鷲掴む。
そのままの状態で、品定めの視線が全身を舐めていき。
良いな、美味そうだ、と。
小さく零された声が、吐息と共に耳を掠め。
それと同時に、グイッと腰を引き寄せられた。
「コイツ貰ってくわ」
言うやいなや歩き出す魔王に。
思わず声をあげかけた青年の口を、聖騎士様が素早くふさいだのが横目に見えた。
・・・・
さて、予定よりも大分早く魔王と接触することになってしまったが。
エスコートと言うには雑な誘導に従い、歩きながら。
ちらりと隣を見上げれば、ぱちりと視線が合って。
何か言いたいことでもあるのか、と、挑発的に笑む魔王に。
いえ何も、と、首を横に振って、前に向き直るが。
むしろ。
何か気を引く要素でもあるのか、歩き始めてからずっと外されることのない視線に。
何か言いたい事があるのは、其方の方なのでは、と。
思いつつ、知らぬフリ、気づかぬフリで足を進めていれば。
「なぁ、お前、俺に何かしたか?」
ぽつり、と。
疑っているというよりは、戸惑っているような声音で、そう問いかけられ。
はて? と小首を傾げ、曖昧な笑を返した。
まだ、特に何かをした覚えはない。
……する予定はあるけれど。
何か、妙にざわざわするんだよなぁ、と。
胸の辺りを押さえ、呟く魔王に。
此方の企てに気づいているという訳ではなさそうだが、何か感じるものでもあるのだろうか。
勘が良いな、と内心で苦笑しつつ。
一目惚れでもしましたか? と、そう冗談を飛ばせば。
「くっ……はは、そうかもなぁ!」
虚をつかれたような顔で、一瞬固まった後。
ぱかりと大きく口を開け、笑いだし。
面白い奴だな、と、楽しげに。
言いながら、ぐしゃりと髪を掻き回された。
気に入られた、のだろうか。
歩きながら、時より気まぐれに頭を小突かれ。
見上げれば、機嫌良さそうに細まる目。
魔王の雰囲気から、先ほどまで僅かにあった警戒の色が消えている事に気付き、そっと頬を緩める。
気を許してくれているのであれば、その方が都合が良い。
ふわり、と柔らかく。
ことさら無邪気そうに見えるよう作った笑顔の下で。
静かに、鋭く。
突き立てるための、爪を研いだ。




