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 貴女が持っていてください、と。

 青年から手渡された導石を、コロリと掌の中で転がして。

 切れたままになっていた紐を結び直し、自分のものと一緒に首にかければ。

 二つの石が、胸元でぶつかり合い。

 こつり、と、小さく鳴った。


 ・・・・


 それで。

 どうやって魔王に近づくか、といえば。


 数日前から急に、魔物たちによって若い娘が攫われるという事件が頻発しているらしく。

 恐らく、新しい身体を得たばかりの魔王への、献上品であろうと推測され。

 であれば、潜入するのはそう難しいことじゃない、と。

 男は薄く笑い、その場に居る半分を魔族に変えてみせた。

 もちろん見かけだけ、だが。


 魔族と、攫われてきた被害者のフリをして、魔王のねぐらに乗り込む。

 その後は、臨機応変に。

 と、いうことで。

 まずは魔物役と被害者役でペアを作る、という流れになったのだが。


「ちょっと待って! 何で僕が、被害者側に分類されてんの!?」


 そう声をあげた青年に、全員の視線が集まった。

 男性にしては細身で、中性的な顔立ちである。

 女物の服を着れば、被害者を装うのに問題はないと思われた。

 まあ、妥当な分類であろう、と。

 その場に居る、青年以外は「うむ」と納得顏で頷き。


 腑に落ちない、といった様子の青年の肩に、ぽん、と。

 ポニーテールの少女が手を乗せ、緩く笑んだ。

 その手には、淡い色の、ゆったりとしたワンピース。


「これも付けると良い」


 そう言って男が懐から取り出したのは、青年の髪と同色の、ふわりと波打つ付け毛。


「使うか?」


 目を逸らしつつ、聖騎士様がそっと化粧箱を差し出す。


「お前ら何でそんな用意周到なんだよ!?」


 青年の叫びが、部屋じゅうに木霊した。


 ・・・・


 青年が複雑そうな顔で衝立の向こうに消え。

 数分後、清純系なお姉さんになって戻ってきた。

 これはお見事、と思わず呟いてしまったが、どっと沸いた周囲の声に掻き消されて「彼女」までは届かなかっただろう。


 幻術があるなら、別に僕じゃなくても……というか女装する必要ないんじゃ……という不満げな呟きは黙殺され。

 潜入後の大まかな行動方針やら役割分担等やらの話合いが始まってしまえば。

 青年は諦めの溜息とともに、口を閉じるしかなかった。



 そうして翌日、早々に。

 ポニーテールの少女は、ミノタウロスと化した仲間の肩にちょこんと腰掛け。

 若干遠い目をした青年は、リビングメイルとなった聖騎士様の腕に抱え上げられ。

 私は、鬼人姿の男に手を引かれ。

 すでに場所は突き止めてあるという、魔王のねぐらへと出発した。

 ……のだが。


「お、タイミング良いな! 小腹減ってたんだよ丁度」


 まさか。

 たどり着いて、まさに、突入しようとした、その瞬間。

 何処かから帰還してきたらしき魔王に、声をかけられるとは。


 不意打ちでの遭遇に、ピリリと緊張が走った。

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