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ぼんやり、なんとなく。
感情も、感覚も、思考も。
薄く、鈍くして。
ただ流れに身を任せていれば、気楽にいられる。
都合の悪いことは聞こえないフリ、見ないフリ、気付かないフリ。
そうやって自分を守りながら、ただ平穏に過ごしていられれば良い。
けれど、別に、それに固執しているわけでもないのだ。
例えば他の、大切だと思えるものを犠牲にしてまで守るほどのものではない。
そういられたら良い、そうであれば嬉しい、くらいの、そんな、ふわりとした希望で。
だから、必要であれば。
全部ひっくり返してしまっても良い。
覚悟さえあれば、私はきっと、何処までも強かになれる人間だから。
……と、そんな事を考えながら、私は嘗て彼らの手を借りて逃げ出してきたその場所を見上げた。
・・・・
見覚えのある青年が、里に駆け込んできたのは夜が明けてすぐのこと。
たまたまか、何かの巡り合わせか、ちょうどその場に居合わせた私は。
目があうなり、一緒に来て下さい、と青年に手を引かれ森の中へ。
私に何の用があるのかは分からないが、恐らく、行方が知れなくなった彼に関連することだろうと当たりをつけ。
走る青年の背を懸命に追いかけるも、すぐに体力は尽き。
それに気づいた青年が、謝罪とともに、素早く私を背負い上げ。
ひた走る青年の背に身を任せること暫し。
たどり着いたその場所に、おや、と内心で目を瞬いた。
この場所に、再び足を踏み入れることになろうとは。
世界で一番大きな教会は、日の光を浴びて白く輝きを放ちながら、静かに佇んでいた。
上手く人目を避けながら、青年は奥へ奥へと教会の中を進んでいく。
見覚えのある区画に入り、これまた見覚えのある隠し扉の先に。
揃っていたのは、やはり見覚えのある顔ばかり。
「なんだ、早かったな」
薄く笑みを浮かべた男から、呆れ混じりの声が投げられ。
それに続くようにして、挨拶やら何やらの声が飛び交った。
「ところで、いつまで背負ったままでいる気なんだ?」
そう何気ない調子で発せられた聖騎士様の声に、青年はきょとりと目を瞬いて。
次いで、はっと此方を振り返り、すみません忘れてました、と慌てた様子で手を離し、飛び退いて。
そうしてようやく、私は再び地に足をつけることができたのであった。
「何も言わずに攫ってきたのか」
何処まで事情を聞いているのかという問いに、まだ何も、と正直に答えたところ。
男はわざとらしく嘆息してみせながら、からかう様に青年へと流し目を送り。
言われて、はっとした様子の青年が、謝罪とともに頭を下げようとするのを、気にしなくて良いとなだめていれば。
「君も君で、何も聞かずについてきたのか」
そう、何処か面白がるように言われ。
此方の胸の内の焦燥を見透かして、笑う男に。
良く分からないままに流されるのは得意なので、と、殊更ほのぼのと笑って返してみせた。
「それで、何があったのか、詳しい話を聞かせていただけますか?」
言った瞬間、ぴりりと空気が張り詰める。
それだけでも、事態の深刻さが伺えた。
真剣な顔で言葉を紡ぐ青年は、話しながら悔しさを堪える様に掌を握りしめ。
それを囲む仲間たちもまた、各々じっと何かを噛み締めるように俯いている。
「すみません、僕たちは……あいつを、魔王に奪われてしまいました」
しんとした空気の中、苦々しく絞り出された声に。
私は、ただ、沈黙するしかなかった。




