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「あっ……」
ふと見上げた夜空に、すっと一筋、星が流れて。
思わず声を漏らせば、ちらりと問いかける視線を寄越してくる彼に。
「流れ星、初めて見ました」
跳ねた鼓動を手で抑えながら、そう答えたのは数日前のこと。
真夜中、ふと気配を感じて目を覚まし、起き上がると同時に現れた彼に。
何かありましたか、と、そう問う間もなく抱え上げられ。
そのまま走り出した彼に、てっきり誰か酷い怪我でも負ったかと、腕の中で身構えていれば。
どうも予想は外れ、彼が足を止めたのは、人気のない、開けた草原で。
きょとりと瞬いた目の端で、一筋、星が流れて。
はっと見上げた先に、また一筋。
やがて一斉に降りだした星に、ぶわりと鳥肌がたった。
流星群。
それがどういう仕組みで起きている現象なのか、私は知っていた。
写真や映像を見たこともあった。
けど、それはただの知識で、ただの写しで。
今、こうして、「現実に」見るそれは……
ああ、駄目だ。
立っていられなくなって、ぺたりと座り込んだ。
ピークは一瞬で、もう星は一つも流れていないのに、まだ空から目が離せない。
勝手に涙が溢れて、震えが止まらなくて。
何でこんなに動揺しているのか、自分でも分からない。
景色に感動して泣くような、可愛げのある女じゃなかったはずなのにね、と、まだ少し冷静な部分が小さく笑った。
ふと両頬を手で包まれて、彼との距離の近さを意識する。
数日前のことを思い出し、ああ、それで連れてきてくれたんだろうな、と察して。
あの時は、特に気にする素振りも見せなかったくせに、と心の中で呟いた。
じっと此方を覗き込みながら、親指のはらで涙を散らしてくれている彼からは、ありありと困惑の色が伝わってくる。
泣くなんて思ってもみなかったのだろう。
そりゃそうだ、私もこんなに衝撃を受けるなんて思わなかった。
抑えがきかない。
涙が止まらない。
溢れていく涙と一緒に、何かが胸の奥から流れ落ちていくような心地がした。
……泣き疲れて眠くなるなんて、子供の頃以来だ。
彼にしがみついたまま、気づけばうとうとと船を漕いでいた。
ふと傾いだ体を、彼の手が支えて引き戻す。
ぐっと腕の中に抱えこまれたのを、夢現つに感じつつ。
そういえば、この世界に来てから、初めて泣いたなと。
そんな風なことをぼんやり考えながら、目を閉じた。
・・・・
と、いうようなことがあった翌日から、ぱたりと姿を見せなくなった彼に。
今までよりも、ほんの少し強く寂しさを感じて。
けれど、現れるも消えるも、気まぐれなのは何時ものこと。
そのうち気が向いたなら、顔を見せに来てくれるだろうと、そう思っていた……のだけれど。
虫の知らせというものか。
不意に、ぞくりと悪寒が走り。
里の住民となった印にと貰って以来、肌身離さず首に掛けていた「導石」の紐が、ぷつりと切れて。
ここん、と床で跳ね、転がるそれを視線で追った。
そのまま、どれだけ停止していたのだろう。
ドゴン、と、勢い良く戸が蹴り開けられた音をきっかけに、ゆるゆると思考が回りはじめる。
「オイ緊急事態だ!」
戸を壊す勢いで駆け込んできたのは、私が里に住むようになってから何かと気にかけてくれている狼頭人の娘さんで。
彼の消息が途絶えた、と、緊迫した声でそう教えてくれた。
そうですか、とだけ声にし、ぼやけた笑みを返した私に。
何かを言いかけ、けれど口をつぐんだ娘さんは、何か分かったらまた知らせに来ると言い残して帰っていき。
ぱたりと戸が閉まれば、しんとした静寂だけが残る。
床に落ちたままになっていた石を拾い上げ。
切れた紐を結び直し、首にかけた。




