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目を覚ました聖騎士様に、果実水を手渡す。
寝ぼけているのか、ぼーっとした表情で飲み干した後、空の瓶を握りしめたまま動かなくなってしまった。
もしや目を開けたまま寝ているのか、と聖騎士様の顔を覗き込んだところで、パチリ、と。
覚醒したらしい聖騎士様が、目を見開きながら大きく後退り、壁に背中を打ち付けた。
ぽこん、ぽこん、と。
壁にかけてあった籠から果実が落ちて、聖騎士様の頭を経由し、床に転がる。
何だか、コントみたいだな、などと思いながら見ていれば。
「……すまない」
そっと果実を拾った聖騎士様が、どうにも申し分けなさそうな顔でそれを差し出してきて。
思わず吹き出してしまったのは、仕方ないことだったと思う。
・・・・
状況が分からない、といった様子で、緊張に身を固めていた聖騎士様の襟首を掴み。
そのまま何を説明する事もなく、ずるずると引きずっていく彼の背を見送って。
二人の姿が消えた後。
ゆっくりと、床の上にうつ伏せた。
何だろう。
この叫びたいような、暴れたいような、何かをぎゅうっと抱きしめたいような、この気持ちは。
違った、気がするのだ。
何か、こう、上手く説明できないが。
単なる、治癒のためだけの、接触とは。
というか、意識があるのなら、べつに唇をつけなくても、呼気を吸いこんでもらえさえすれば良いわけで。
それに関しては、あの後に。
あの、闘技場から脱出した後に、ちゃんと説明したはずで。
それにも関わらず、であれば、何か、ソレとは別の意味合いが含まれているのではと。
そう勘ぐってしまうのも仕方ないことなのではなかろうか。
だとしたら……あああ、いや、止めよう。
これ以上その事について考えるのは恐い。
何でもないフリをしよう。
そうしていれば、この奇妙に浮ついた心も、すぐに落ちつくはずだ。
気分を切り替えて、散歩ついでに香草でも採りに行こう。
「あら、今から森に入るなら一枚羽織っていった方が良いんじゃない?」
森に入る手前で、すれ違った奥さんにそう声を掛けられ。
すぐ戻ってくるので大丈夫です、と返して。
若いわねぇ、と呟かれた声に、何となくもぞりとした気持ちを抱きつつ。
会釈をしてから、心もち足早に森へ向かった。
何故だか火照り気味の体には、冷りとした森の空気が心地良い。
さぁっと駆け抜る風に、熱が散っていく。
大丈夫、私は何も変わらない。
このまま、ぼんやりと、概ね平穏な日々を過ごしていければそれで良い。
それが、良い。




