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さて、教会から逃れてきたものの。
家の場所は知られているだろうから、帰るわけにもいかず。
どうしたものかな、とぼんやり悩んでいる内に、ひょいっと。
あの国から離れた途端、あっさり回復してみせた彼に抱え上げられ。
おや、と思っている間に、辿りついたは魔族の隠れ里。
再会早々にしばらく匿って欲しいと伝えれば、何だか驚く程に歓迎され。
いっそここで暮らせば良いと、あれよあれよという間に里の外れに家をもらってしまった。
その上、彼がちょいちょい里の外に出かけていく度に、ついでだ何だと言いながら、前の家から色々と取ってきてくれて。
おかげで数日も経たずに生活環境は整い、そうなれば、もう、特に困ることなく暮らしていけるわけで。
里に流れる、ゆったりとした時間の流れも心地良く。
じゃあ、まあ良いか、と。
ありがたく定住させてもらうことにしたのだった。
・・・・
ひっそりと閉じられた場所にあって案外、というか、だからこそ、というか。
皆さん情報収集にはどん欲なようで。
通信用の魔道具やら鳥文やら何やら活用して、里から出なくとも、わりと細かく外の流れは追えるようにしているらしく。
特に、里の外で活動している仲間の安否は気になるようで、誰々は今あそこで何々をしているという話題を良く耳にする。
なので彼の動向についても、何となく……いや、結構しっかり把握できてしまっていた。
気遣いなのか、皆さん何かと彼について教えに来てくれるので。
だから、さりげなく私の顔見知りに接触して、私が無事であることを知らせてくれた事とか。
私の居場所を探る教会関係の人たちを邪魔してくれている事とか。
色々と、知ってしまっているのだ。
けれど、きっと、感謝を告げたら不機嫌な顔をさせてしまうだろうから。
彼と顔を合わせても、そのことについては一切触れず。
時々溢れ出てきそうになる、むず痒いような熱を、ぎゅっと胸の中に隠して。
何も知らないフリを続けていた、ある日。
どうにも嫌そうな顔をした彼が、窓から顔を出し。
瀕死の聖騎士様を、ぽいっと、放りこんでいった。
何がどうしてそうなったのか。
色々聞けるとは言っても、さすがに全ての経緯を詳しく把握できるわけでもなく。
腹部がモザイク処理必須な状態のその人に駆け寄りながら、頭の中を疑問符が舞う。
それでも半ば反射のように、治して。
軽く清めた身体に毛布を掛けて。
さて、と顔をあげ。
去ったように見えて、何気なくまだ窓の外にある気配に。
少し考えて、これは「来い」ということかな? と。
外に出て、窓の方へ回れば、壁に背をつけて座る彼の姿が見えた。
近寄り、彼の隣りに腰を下ろしたところで、ふと、気付く。
何だか、向けられた視線が、トゲトゲしい、ような。
ちらり、と。
目だけを横に向ければ、じっと此方を凝視する黒と赤。
何だろう、こう、ちょっと気まずいような気持ちになるのは。
別に、特に咎められるようなことはしていない、はずなのだが。
何故こんな、責められているような気分に。
いや、彼にそんなつもりはないのかもしれないけれど。
微妙にざわつく胸を抑え、姿勢を正す。
聖騎士様程ではないが、彼も彼で満身創痍だ。
治したい。
伺うように彼を見つめれば。
血だらけの手が此方に伸ばされかけ、中途半端に動きを止めた。
考えるように自分の手を見下ろす彼に、ふっと口元が緩む。
別に、汚れるとか、そんなの気にしなくても良いのに。
彼の手を引き寄せ、掌に口付ける。
少し見開かれた彼の目が、一瞬後、スッと細まった。
あ、何か。
何らかのスイッチを押してしまった、ような。
そう気付くも、だからといってどうすることも出来ず。
噛み付くように、唇が奪われた。




