05:格差
依頼を受けた俺たちはしばらく無言の時を過ごした。
まるで俺を拒否するように背を向け歩いていくキャンサーに話しかけられない俺がいるだけだ。
その背中が、態度が少しずつ俺を隔離するように見えてきた。
「…君さぁ」
静かだったキャンサーが口を開いた。
「な、んだよ?」
「…それ、使えるの?」
「え」
それ、とキャンサーが指さすのは俺の腰につくダガー。
「これは」
「…君、あんまり近距離あってなさそうなのに」
「…」
正直、なにも言い返せない。
剣術なんて習ってないし、そもそもこれだって拾い物で、魔除けみたいなものだ。
「…まぁ…自分の身くらい守れるならいいけどね」
「え?」
「僕は初対面の君に手を貸すほど優しくないからね」
普段ほぼ目を閉じているようなキャンサーの糸目が、少し開いて俺を睨んだ。
拒絶。俺にはそうとしか感じれなかった。
「自分の身は自分で、どうなっても知らないって言ったよね」
「…俺はお前を助けるよ」
「…は?」
「キャンサーが俺を見捨てても」
「…意味がわからない」
「そのまんまだよ」
睨む視線が悔しそうに歪んで閉じた。
「…僕は一人でも闘えるよ」
そうつぶやいた一言はまるで足元から錘をつけられたように刺さった。
そのとき何かがガサリと音を立てた。
「俺は」
「!」
「キャンサー、避けろ!」
知らず知らずのうちにキャンサーをかばった俺は足に重傷を負った。
気づいた時には足から崩れ、行動が制限された。
「?!ちょっと…!」
キャンサーは木にもたれている俺を振り返り、目を見開いた。
「…意味、わかんない…っ!」
小さくつぶやいて、腰についた直剣を引き抜いて、討伐対象を次々討伐していく。
低酸素になっていく脳はすでに声も視界もフェードアウトさせようとして
「キャン、サー…」
うまく言葉にならない声は届かずに消えた。
俺の意識はここからない。
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討伐が完了すると、静かに雨が降り始めた。
それは次第に強く私の体にあたり始め、頬に受けた傷にしみた。
「…」
木にもたれ、安心したような顔で失神しているバカを見た。
足から鮮やかに赤を流しながら、よく生きているものだと感心した。
「…生きてる」
彼の脈を確かめて少し安心した。
初対面ながら、まっすぐな心を向ける彼は私の歪みつつある人格を正した。
光のような刺さる視線は私には耐えかねた。
出会った一瞬、彼にすがろうとした。私の、心の埋まらない隙間を、埋めさせようとした。
でもそれは私のエゴに過ぎず、彼は知るべきではない。
「…ジャケット、あげるよ」
羽織っていたジャケットローブを彼の足にくくり、止血しながらギルドへ戻った。
よく見れば足だけでなく、かばいきれなかった傷が少しずつところどころに残った。
「…ごめん」
声になっただろうか、この懺悔は。
雨に流されて消えた声は、虚空でさまよって彼は一生知らずいるだろう。




