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芸能事務所の若社長ですが、所属タレントが不祥事を起こしすぎて胃が限界です  作者: 雪だるま


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9

 スターライト・ユニバース本社。


 会議室。


 朝九時。


 そこでは。


 社長レイによる緊急経営戦略会議が開催されていた。


 議題。


『ピュア・クラウンの未来について』


 田村は資料を開いた。


 宣伝部もいる。


 営業部もいる。


 マネージャーもいる。


 全員真面目な顔だった。


 ただ一人。


 レイだけが異常だった。


「のだぁあああああああああああ!!」


 会議室に絶叫が響く。


「スポンサー様を守るのだぁああああああ!!」


 ばんっ。


 机を叩く。


「違約金が怖いのだぁああああああ!!」


 ばんっ。


 さらに叩く。


「芸能界を信じるななのだぁああああ!!」


 ばんっ。


 三回目。


 田村が止めた。


「机が壊れます」


「そんなことより経営なのだぁ!」


「社長室の机も同じことを言っていました」


 レイはホワイトボードを指差した。


 そこには。


 大きく。


『瑠璃防衛計画』


 と書かれていた。


 田村は頭を抱えた。


「また始まりました」


「始まったのだぁ!」


 レイは真剣だった。


 本気だった。


「瑠璃を守るのだぁ!」


 会議室。


 沈黙。


 レイは続ける。


「お主ら分かってるのだぁ!?」


「何をですか」


 田村が聞く。


「瑠璃なのだぁ!!」


「はい」


「まだ何もやらかしてないのだぁ!!」


「そうですね」


「奇跡なのだぁ!!」


 社員たちも少し頷いた。


 確かに。


 芸能界。


 若いタレント。


 SNS全盛期。


 それなのに。


 白鳥瑠璃。


 炎上ゼロ。


 熱愛ゼロ。


 暴言ゼロ。


 遅刻ゼロ。


 問題ゼロ。


 学校の成績も良好。


 先生の評判も良好。


 近所の評判まで良好。


 もはや奇跡だった。


 レイは涙目になった。


「こんな子が存在するのだぁ……」


「社長」


「なんなのだぁ」


「泣かないでください」


「感動なのだぁ」


 ホワイトボードに書く。


『瑠璃=スポンサーの宝』


 大きく丸で囲む。


「瑠璃はもうスポンサーに嫌がられる情報を出さないのだぁ!」


 ばんっ。


「CM最重視なのだぁ!」


 ばんっ。


「雑誌も出るのだぁ!」


 ばんっ。


「高級ブランドも狙うのだぁ!」


 ばんっ。


 田村。


 静かに言う。


「内容自体はまともです」


「当然なのだぁ!」


 レイはさらに熱くなった。


「瑠璃はもうお人形さん路線なのだぁ!」


 会議室。


 少し静まる。


「お人形さん?」


 宣伝部長が聞く。


「そうなのだぁ!」


 レイ。


 力説する。


「喋りすぎない!」


「はい」


「余計なSNSしない!」


「はい」


「恋愛相談も受けない!」


「はい」


「深夜配信もしない!」


「はい」


「ただ美しく微笑むのだぁ!!」


「それは少し極端では」


「極端じゃないのだぁ!」


 レイは本気だった。


 芸能界で心が壊れ始めていた。


 そして。


 ホワイトボードの左を見る。


 そこには。


『エミリア』


 と書かれていた。


 レイ。


 沈黙。


 数秒。


「のだぁ……」


「社長?」


「エミリアはもう諦めるのだぁ」


 会議室。


 爆笑しそうになる。


「諦めるんですか」


「諦めるのだぁ」


「早いですね」


「絶対何か起こすのだぁ」


 レイは遠い目をした。


「絶対デキ婚するのだぁ」


「根拠は?」


「勘なのだぁ」


「最悪ですね」


「社長の勘はだいたい当たるのだぁ」


 社員たち。


 微妙な顔。


 確かに当たる時もある。


 外れる時もある。


 ピロローン三十万枚みたいな事故もある。


「エミリアは才能があるのだぁ」


「ありますね」


「顔も良いのだぁ」


「良いですね」


「でも危険なのだぁ」


「それは否定しません」


 続いて。


 ホワイトボード。


『ひまり』


 レイ。


 さらに遠い目。


「ひまりはダブル不倫するのだぁ」


「しません」


 田村が即答。


「するのだぁ」


「しません」


「するのだぁ」


「根拠は?」


「距離感なのだぁ!!」


 会議室。


 納得。


 少し納得。


 かなり納得。


 ひまりは良い子だった。


 優しい。


 可愛い。


 歌が上手い。


 だが。


 距離感だけが怖い。


「既婚者って素敵ですよねぇ」


 とか。


 平気で言う。


 悪気ゼロ。


 だから怖い。


 レイは震えた。


「吾輩、未来が見えるのだぁ……」


「見えません」


「見えるのだぁ……」


 そして。


 ホワイトボードの中央。


 大きく。


『違約金対策』


 と書く。


「これなのだぁ!」


 全員。


 少し真面目になる。


 そこは重要だった。


 芸能界。


 CM。


 スポンサー。


 そして。


 違約金。


 怖い。


 非常に怖い。


 レイは本気で言った。


「CMは慎重なのだぁ」


「その通りです」


「スポンサー様に迷惑かけたら駄目なのだぁ」


「はい」


「だから瑠璃なのだぁ!!」


 結局そこだった。


 レイは力説する。


「瑠璃は信頼なのだぁ!」


「確かに」


「瑠璃は平和なのだぁ!」


「今のところ」


「瑠璃は安全なのだぁ!」


「比較的」


「瑠璃はスポンサーの夢なのだぁ!」


「少し大げさです」


 その時。


 ドアが開いた。


 瑠璃本人だった。


「失礼します」


 会議室。


 静まる。


 レイ。


 感動。


「瑠璃ぃぃぃぃ!!」


「はい?」


「今日も可愛いのだぁ!」


「ありがとうございます」


「今日も問題起こしてないのだぁ!」


「はい?」


「偉いのだぁ!」


 瑠璃。


 本気で困惑。


「普通では?」


「普通じゃないのだぁ!」


 レイは叫んだ。


「芸能界では奇跡なのだぁ!」


 瑠璃。


 さらに困惑。


 そこへ。


 ひまり。


「おはようございますぅ」


 エミリア。


「眠い」


 二人も入ってくる。


 レイ。


 即座に指差す。


「お主ら!」


「何?」


「何ですかぁ?」


「瑠璃を見習うのだぁ!」


 ひまり。


 きょとん。


「えへへぇ?」


 エミリア。


 呆れる。


「また始まった」


「始まったのだぁ!」


 レイは立ち上がる。


「瑠璃はスポンサーの希望なのだぁ!」


「大げさ」


 エミリアが言う。


「大げさじゃないのだぁ!」


「私だって問題起こしてないけど」


「まだなのだぁ!」


「失礼ね」


「未来が怖いのだぁ!」


 ひまりが手を挙げる。


「ひまりもですかぁ?」


「怖いのだぁ!」


「えぇ〜」


「距離感なのだぁ!」


「またですかぁ」


「またなのだぁ!」


 瑠璃は静かに言った。


「社長」


「なんなのだぁ」


「私は別に特別なことはしていません」


「してるのだぁ!」


「普通に生活しているだけです」


「それが凄いのだぁ!!」


 レイは本気だった。


 芸能界に染まりすぎていた。


 普通に学校へ行く。


 普通に勉強する。


 普通に仕事する。


 普通に帰宅する。


 それだけで感動していた。


 田村は小さく呟く。


「芸能界に長くいるとこうなるんですね」


「なるのだぁ……」


 レイは疲れた顔で頷いた。


「信じられるのはグッズ売上と曲売上と瑠璃だけなのだぁ……」


「私、商品みたいになってませんか?」


 瑠璃が少しだけ困った顔で言う。


「違うのだぁ!」


 レイは慌てる。


「瑠璃は人間なのだぁ!」


「ありがとうございます」


「ただスポンサーの希望でもあるのだぁ!」


「そこは外してください」


 会議室。


 少し笑いが起きる。


 そんな中。


 田村が資料をめくる。


「ちなみに社長」


「なんなのだぁ」


「瑠璃さんのCM契約候補がまた三件増えました」


 レイ。


 立ち上がる。


「のだっ♡」


「化粧品」


「のだっ♡」


「飲料メーカー」


「のだっ♡」


「学習教材」


「のだっ♡」


 レイ。


 完全復活。


「見たか世界なのだぁ!!」


 ばんっ。


「これが瑠璃なのだぁ!!」


 ばんっ。


「清楚は強いのだぁ!!」


 ばんっ。


「スポンサー様万歳なのだぁ!!」


 ばんっ。


 田村が呟く。


「結局そこなんですね」


「経営者なのだぁ♡」


 その頃。


 エミリアは隣でスマホを見ていた。


「ドラマ主演候補」


 ひまりは。


「ピロローン400年って本当に作るんですかぁ?」


 と聞いていた。


 レイは即答した。


「作るのだぁ♡」


 田村は頭を抱えた。


 瑠璃だけが。


 静かにお茶を飲んでいた。


 そしてレイは。


 そんな瑠璃を見て。


 また感動していた。


「のだぁ……」


「どうしました?」


「今日も平和なのだぁ……」


 その日。


 スターライト本社では。


 若き社長による。


 過剰な瑠璃保護計画が。


 さらに強化されることになったのであった。

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