表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
芸能事務所の若社長ですが、所属タレントが不祥事を起こしすぎて胃が限界です  作者: 雪だるま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/43

5 レイの悪夢

 深夜三時二十七分。


 スターライト・ユニバース社長・田中レイは、自宅のベッドで幸せに寝ていた。


「のだぁ……♡」


 夢の中では札束が踊っていた。


 エミリアが主演女優賞を取っていた。


 ひまりが歌番組で絶賛されていた。


 瑠璃は高級化粧品のCMで微笑んでいた。


 ピュア・クラウンは大成功。


 株価も上昇。


 スポンサーも大喜び。


 平和である。


 しかし。


 次の瞬間。


 レイの目が見開いた。


「のだぁああああああああああああああああ!!!」


 飛び起きた。


 汗だくだった。


「やばいのだぁああああああ!!!」


 枕が吹っ飛んだ。


「歌番組なのだぁあああああああ!!!」


 そのままベッドから転げ落ちた。


「痛いのだぁああああ!!でもそれどころじゃないのだぁあああ!!」


 レイは床を這った。


「瑠璃なのだぁ!!」


 叫んだ。


「瑠璃が歌番組に出たら終わるのだぁああああ!!」


 スマホを掴む。


 時刻。


 午前三時二十八分。


 普通の人間は寝ている。


 だがレイは社長だった。


 そして芸能事務所の社長だった。


 つまり定期的に悪夢を見る。


「のだぁあああ!!」


 即座に田村へ電話。


 三コールで出た。


 田村ももう慣れていた。


「社長」


「田村ぁああああ!!」


「またですか」


「歌番組なのだぁああああ!!」


「まだ出演オファーも来ていません」


「来るかもしれないのだぁ!!」


「まだデビュー曲もありません」


「だからこそなのだぁ!!」


 田村は数秒沈黙した。


「説明してください」


 レイはベッドの上を転げ回った。


「瑠璃なのだぁ!!」


「はい」


「見た目は完璧なのだぁ!!」


「はい」


「顔面偏差値一二〇なのだぁ!!」


「はい」


「清楚力だけで国が建つのだぁ!!」


「はい」


「でも歌うと国が滅ぶのだぁあああああ!!」


 田村は静かに天井を見た。


「深夜ですね」


「問題はそこじゃないのだぁ!!」


 レイは叫んだ。


「歌番組って比較されるのだぁ!!」


「当然です」


「ひまりは歌えるのだぁ!!」


「歌えますね」


「エミリアも普通に歌えるのだぁ!!」


「歌えますね」


「瑠璃だけ歌えないのだぁ!!」


「歌えませんね」


「認めるななのだぁああああ!!」


 レイは泣いた。


 本気で泣いた。


「アンチに言われるのだぁあああ!!」


「何をですか」


「見た目は妖精!!歌唱力は妖怪!!」


 田村は思わず吹き出しかけた。


「社長」


「なんなのだぁ!」


「少し面白いです」


「面白くないのだぁああああ!!」


 レイは枕を殴った。


「絶対言われるのだぁ!!」


『顔だけ』


『口パクしろ』


『美術館に展示しろ』


『歌うな』


『そのまま立ってろ』


「のだぁあああああああ!!」


 田村は冷静だった。


「まず落ち着いてください」


「落ち着けないのだぁ!!」


「デビュー曲がありません」


「そうなのだぁ!!」


「歌番組もありません」


「そうなのだぁ!!」


「出演予定もありません」


「そうなのだぁ!!」


「では寝てください」


「嫌なのだぁ!!」


 レイは電話を切らなかった。


 そのままパソコンを開いた。


 深夜三時四十五分。


 社長による緊急危機管理会議である。


 参加者一名。


「考えるのだぁ……」


 ホワイトボードアプリを開く。


『瑠璃歌問題』


 大問題だった。


 まず案その一。


『歌わせない』


「のだっ!」


 数秒後。


「アイドルなのだぁ!!」


 即却下。


 案その二。


『口パク』


「のだっ!」


 数秒後。


「生放送なのだぁ!!」


 即却下。


 案その三。


『ひまりだけ歌わせる』


「のだっ!」


 数秒後。


「瑠璃が泣くのだぁ!!」


 却下。


 案その四。


『エミリアとひまりで囲んでごまかす』


「のだっ!」


 数秒後。


「逆に目立つのだぁ!!」


 却下。


 案その五。


『瑠璃をセンターにして歌を減らす』


「のだぁ……?」


 レイは固まった。


 そして立ち上がった。


「これなのだぁ!!」


 社長の目が輝いた。


「これなのだぁああああ!!」


 翌朝。


 午前八時。


 まだ始業前。


 社長室。


 田村が出社した。


 机の上に企画書が置いてあった。


『ピュア・クラウン戦略』


 嫌な予感しかしなかった。


 開く。


 一ページ目。


『瑠璃をセンターに固定』


 二ページ目。


『歌唱パート極小化』


 三ページ目。


『カメラは瑠璃中心』


 四ページ目。


『ひまりに歌わせる』


 五ページ目。


『エミリアに踊らせる』


 六ページ目。


『瑠璃は微笑む』


 七ページ目。


『とにかく微笑む』


 八ページ目。


『歌うな』


 田村は資料を閉じた。


「社長」


「のだっ♡」


「寝てませんね」


「寝てないのだぁ♡」


「これを作っていたんですね」


「天才なのだぁ♡」


「歌手ユニットですよね」


「そうなのだぁ♡」


「歌うなと書いてあります」


「瑠璃だけなのだぁ♡」


 その時。


 ドアが開いた。


 瑠璃本人だった。


「おはようございます」


「瑠璃ぃぃぃぃ!!」


 レイが飛びつきそうになった。


 田村が止めた。


「社長」


「のだぁ」


 瑠璃は微笑んだ。


 相変わらず美しかった。


 朝日すら似合う。


 レイは感動した。


「美しいのだぁ……」


「ありがとうございます」


「顔だけで三千万再生なのだぁ……」


「褒められているのでしょうか」


 その後ろから。


 ひまり登場。


「おはようございますぅ」


 さらに。


 エミリア登場。


「眠い」


 三人揃った。


 レイは深刻な顔になった。


「緊急会議なのだぁ」


「何ですか?」


 瑠璃が聞く。


「歌番組なのだぁ」


 三人は顔を見合わせた。


「まだ出ませんよね?」


 エミリアが言った。


「出るかもしれないのだぁ!!」


「曲もないけど」


「未来の話なのだぁ!!」


「社長、また始まった」


 エミリアは椅子に座った。


 レイは叫んだ。


「瑠璃ぃぃぃ!!」


「はい」


「お主、自分の歌をどう思うのだぁ!」


 瑠璃は少し考えた。


「課題が多いと思います」


「優しい言い方なのだぁ!!」


 エミリアが横から言う。


「音痴」


「エミリア」


「事実じゃん」


「事実なのだぁ!!」


 レイが泣いた。


 ひまりは困っていた。


「でも瑠璃ちゃん綺麗ですよぉ?」


「そうなのだぁ!!」


 レイが即復活した。


「そこなのだぁ!!」


 机を叩く。


「顔なのだぁ!!」


 田村がため息をつく。


「また始まりました」


「アイドルは総合芸術なのだぁ!!」


 レイはホワイトボードを指差した。


「ひまり!」


「はいぃ」


「歌担当!」


「わかりましたぁ」


「エミリア!」


「何」


「総合担当!」


「雑」


「瑠璃!」


「はい」


「顔担当!!」


 沈黙。


 数秒。


 瑠璃は真面目に頷いた。


「精一杯努めます」


 レイは頭を抱えた。


「受け入れたのだぁぁぁぁ!!」


 田村が呟いた。


「適応力がありますね」


「瑠璃は真面目すぎるのだぁ……」


 エミリアは笑いを堪えていた。


「顔担当」


「笑うななのだぁ!」


「だって本人が受け入れてるし」


 瑠璃は本気だった。


「私の強みが外見にあるなら、それを活かすべきだと思います」


 レイは感動した。


「のだぁ……」


 エミリアは呆れた。


「この子、本当に清楚だわ」


 ひまりも頷く。


「天使さんみたいですぅ」


 だが。


 レイの危機感は消えなかった。


 なぜなら。


 歌番組は残酷だからである。


 数秒で比較される。


 数秒で切り抜かれる。


 数秒でバズる。


「のだぁ……」


 レイは窓の外を見た。


 遠くのテレビ局を見た。


「まだデビュー曲もないのに胃が痛いのだぁ……」


 田村が言う。


「その前に曲を作ってください」


「そうだったのだぁ!!」


 全員がずっこけそうになった。


 最大の問題。


 それは。


 ピュア・クラウン。


 まだ。


 デビュー曲すら完成していなかったのである。


「のだぁあああああああ!!」


 社長室に悲鳴が響いた。


「歌番組を心配する前に曲なのだぁああああ!!作曲家探すのだぁあああああ!!」


 こうして。


 未来の炎上を恐れる社長と。


 顔担当。


 歌担当。


 総合担当。


 という妙な三人組による。


 ピュア・クラウンのデビュー準備は、今日も混乱しながら進んでいくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ