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芸能事務所の若社長ですが、所属タレントが不祥事を起こしすぎて胃が限界です  作者: 雪だるま


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 スターライト・ユニバース本社。

 朝八時。

 社長室。

 田中レイは、机の上に並べられた週刊誌を前にして、震えていた。


「のだぁ……」


 週刊エンター。

 実話マグナム。

 芸能スクープ砲。

 フライデー風の何か。

 ネットニュースまとめ誌。

 全部、怖い。


「社長、確認を」


 田村が冷静に言った。


「嫌なのだぁ……社長が謝罪会見とか絶対嫌なのだぁあああああ!」


「確認しなければ、載っているか分かりません」


「分からないままで幸せに生きたいのだぁ!」


「会社経営はそういうものではありません」


 レイは涙目で一冊目を開いた。


 まず、デキ婚組。


「あっ」


「社長?」


「知らない事務所の人なのだぁ……!」


 レイは安堵で机に突っ伏した。


「よかったのだぁ……他人のデキ婚なのだぁ……おめでとうなのだぁ……!」


「言い方は最低ですが、今回は無関係です」


 次のページ。


 熱愛組。


 見出し。


『清純派アイドル、深夜の手つなぎ帰宅』


 レイは震えた。


「のだぁ……?」


 写真を見る。


「違う!うちの子じゃないのだぁ!」


「よかったですね」


「よかったのだぁ!他社の熱愛は美しいのだぁ!恋愛は自由なのだぁ!」


「自社なら?」


「契約とタイミングとスポンサー次第なのだぁ!」


 田村は何も言わなかった。


 次のページ。


 不倫組。


『人気俳優、禁断の密会』


 レイは両手で目を塞いだ。


「不倫は嫌なのだぁ……不倫はスポンサーが燃えるのだぁ……家庭向け洗剤CMが消えるのだぁ……」


「見てください」


「嫌なのだぁ」


「見てください」


 恐る恐る見る。


「……知らないおじさんなのだぁ!」


 レイは椅子から滑り落ちた。


「助かったのだぁ……吾輩の胃が助かったのだぁ……」


 だが田村は次の雑誌を差し出した。


「まだあります」


「もう嫌なのだぁ!」


 SNS炎上組。


 これは最悪だった。

 週刊誌より速い。

 朝起きたら燃えている。

 本人が寝ている間に燃えている。

 謝罪文を出す頃には、次の燃料が投下されている。


「社長、昨日の深夜に所属歌手の一人が少し炎上しました」


「のだぁ!?」


「ただ、内容は“ラーメンに酢を入れすぎる派”発言です」


「……平和なのだぁ?」


「一部で争いになっています」


「ラーメンで争うななのだぁああ!」


 次。


 薬物でやらかした組。


 レイはその見出しを見るだけで、顔色が真っ白になった。


「これは本当に嫌なのだぁ……これは笑えないのだぁ……会社ごと沈むやつなのだぁ……」


「現在、うちの所属ではありません」


「本当なのだぁ?」


「確認済みです」


「田村ぁ……お主、今日は天使なのだぁ……」


「普段も仕事をしています」


「でも怖いのだぁ……怖すぎるのだぁ……」


 レイは震える手で次のページをめくった。


 問題児アイドル組。


 これが一番読めなかった。


 デキ婚は一応めでたい。

 熱愛は場合による。

 不倫は地獄。

 SNS炎上は火消し。

 薬物は論外。

 だが問題児アイドルは、予測不能だった。


 深夜配信で号泣。

 ファンと喧嘩。

 ライブで謎発言。

 楽屋で先輩の弁当を勝手に食べる。

 地方営業で迷子。

 急に世界平和を語る。

 そして、なぜか翌日グッズが売れる。


「アイドル怖いのだぁ……」


 レイは小さく呟いた。


「社長、うちの問題児アイドル組は今朝も元気です」


「何をしたのだぁ?」


「一人が“私は朝ごはんを食べない派です”と投稿して、ファンが心配しています」


「食べろなのだぁ!」


「もう一人は“社長に怒られた夢を見た”と投稿しました」


「現実でも怒るのだぁ!」


「もう一人は自撮りの背景に社内の機密ホワイトボードを映しました」


「それは怒るのだぁああああ!」


 レイは立ち上がった。


「消させるのだぁ!今すぐ消させるのだぁ!」


「もう消しました」


「偉いのだぁ!」


「ただ、スクショは出回っています」


「のだぁあああああ!」


 社長室に悲鳴が響いた。


 その時、宣伝部の社員が駆け込んできた。


「社長!」


「今度は何なのだぁ!」


「エミリアさんがまた話題です!」


「良い方なのだぁ!?悪い方なのだぁ!?」


「良い方です!ドラマの貧乏少女役の演技がまたバズっています!」


「のだっ♡」


 レイの顔が一瞬で明るくなった。


「やっぱエミリアは金の成る問題児なのだぁ♡」


「ただし」


「ただし?」


「その流れで、過去の元ヤン疑惑を掘っているアカウントがあります」


「のだぁあああああ!!」


 レイは再び椅子に倒れ込んだ。


「上げて落とすななのだぁ!芸能界はジェットコースターなのだぁ!」


 田村が淡々と指示を出す。


「公式は反応しません。本人にも反応禁止。過去の写真が出ても、学生時代の友人関係以上の話に広げない。インタビューでは“活発な学生でした”で統一します」


「田村、頼もしすぎるのだぁ……」


「社長も余計なことを言わないでください」


「吾輩は黙るのだぁ」


「本当にお願いします」


 レイは口を両手で押さえた。


 だが、そのスマホが震えた。


 通知。


 所属アイドルからのメッセージ。


『社長〜!週刊誌ってどうやったら載れますか?宣伝になりますか?』


 レイは無言でスマホを見つめた。


 そして、叫んだ。


「載ろうとするななのだぁあああああ!!」


 田村が眼鏡を押し上げる。


「問題児アイドル組ですね」


「問題児どころか自走式爆弾なのだぁ!」


 さらに別の通知。


 所属歌手。


『熱愛報道って出たら先に言った方がいいですか?』


「出る予定があるのだぁ!?」


 さらに別。


 若手俳優。


『昨日、変な人に写真撮られたかもです』


「何してたのだぁ!?」


 さらに別。


 女性タレント。


『不倫じゃないです。相手は独身です。たぶん』


「たぶんって何なのだぁああああ!」


 レイはスマホをソファに投げた。


「もう嫌なのだぁ!吾輩、牧場を経営するのだぁ!牛は不倫しないのだぁ!」


 田村が言った。


「牛にも繁殖管理があります」


「夢を壊すななのだぁ!」


 結局、その日の朝の週刊誌には、スターライト・ユニバース所属タレントの決定的な大スキャンダルは載っていなかった。


 ただし、小さい記事はあった。


『話題の若社長、また謝罪会見を恐れている?』


 社内でレイが週刊誌を震えながら読んでいる姿が、なぜか関係者談として載っていた。


 レイは記事を読んで固まった。


「……のだぁ?」


 田村が静かに言った。


「社長自身が載りましたね」


「うぇええええええん!!吾輩が週刊誌に載ったのだぁああああ!!」


「内容は平和です」


「平和でも嫌なのだぁ!吾輩は裏方なのだぁ!」


「最近、社長の方が一部で人気です」


「嫌なのだぁ!所属タレントを見ろなのだぁ!」


 その日の昼。


 ネットでは記事が少しだけ拡散された。


『毎週ビクビクしてる社長かわいそう』


『スターライト、タレントより社長が一番苦労してそう』


『レイ社長、生きて』


『謝罪会見しないで済みますように』


 レイはコメントを見て、机に突っ伏した。


「応援されてるのに悲しいのだぁ……」


 田村は次週分の危機管理表を置いた。


「社長、来週も確認します」


「嫌なのだぁ……」


「仕事です」


「のだぁ……」


 レイは震える手で週刊誌を閉じた。


 そして、小さく呟いた。


「頼むのだぁ……来週も他社のスキャンダルだけであってくれなのだぁ……」


 その瞬間、スマホが鳴った。


 問題児アイドル組の一人からだった。


『社長!今から生配信していいですか?重大発表あります!』


 レイは青ざめた。


「重大発表は禁止なのだぁあああああ!!」


 今日もスターライト・ユニバース本社には、若き社長の悲鳴が響いていた。

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