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芸能事務所の若社長ですが、所属タレントが不祥事を起こしすぎて胃が限界です  作者: 雪だるま


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3

 深夜ドラマ『雨宿りの街角』第三話放送後。


 スターライト・ユニバース本社は、ざわついていた。


「社長!」


「社長、速報です!」


「エミリアさんの名前、トレンド一位です!」


「切り抜き動画、もう百万再生超えました!」


 社長室の中央で、田中レイはスマホを握りしめていた。


「のだ……?」


 画面には、泣きながらパン屋の裏口で残り物のパンを抱きしめる、貧乏な少女役のエミリアが映っていた。


 頬は少し汚れ、髪は質素に結ばれ、目だけが強い。


『妹には食べさせたいんです。私だけなら、何日でも我慢できます』


 その台詞が、SNSで大拡散されていた。


『誰この子、演技うますぎ』


『貧乏少女役の子、目の芝居やばい』


『エミリア・神崎、完全に見つかった』


『正統派清楚系かと思ったら演技派だった』


『あの悔しそうな顔、リアルすぎる』


 レイは震えた。


 そして。


「のだっ♡」


 立ち上がった。


「のだっ♡のだっ♡金儲けのだっ♡」


 そこにエミリア本人が入ってきた。


「社長、呼んだ?」


「エミリアぁあああああ!!」


 レイは駆け寄り、両手を上げた。


「ハイタッチなのだぁ!」


「はいはい」


 ぱんっ。


「もう一回なのだぁ!」


 ぱんっ。


「もう一回なのだぁ!」


 ぱんっ。


「もう一回なのだぁ!」


「何回やるの?」


「売れた分だけなのだぁ!」


「じゃあ一晩中じゃん」


「のだっ♡最高なのだぁ♡」


 レイはエミリアの周りをぐるぐる回った。


「やっぱ人格より顔面のだっ♡才能のだっ♡ごり押し最高なのだっ♡吾輩の審美眼は神なのだぁ♡」


 秘書の田村が冷静に言った。


「社長、ごり押しという言葉は外では絶対に言わないでください」


「言わないのだぁ!外では“厳正なオーディションの結果”なのだぁ!」


「実際には?」


「吾輩が顔で選んだのだぁ!」


「最低ですね」


「最低でも売れたら勝ちなのだぁ!」


 そもそも、このドラマ出演は無茶だった。


 制作側は最初、エミリアを入れる気などなかった。


 レイが押し込んだのである。


『うちのエミリアを出すのだぁ!顔が良くて演技もできるのだぁ!』


『新人ですよね?』


『新人でも顔が良いのだぁ!』


『役柄は貧しい家庭の少女です。華やかすぎるのでは』


『汚せばいいのだぁ!』


『言い方』


『綺麗な子を貧乏役にするとギャップで売れるのだぁ!吾輩は知っているのだぁ!』


 スタッフは困った。


 監督は渋った。


 脚本家も渋った。


 しかしレイはスポンサー筋と父親の古い人脈と自社広告枠を振り回した。


 結果。


 エミリアは脇役としてねじ込まれた。


 最初、現場の空気は冷たかった。


「事務所のごり押しか」


「また顔だけ新人か」


「どうせ台詞二つくらいでしょ」


 だが。


 撮影初日。


 エミリアは、古びた団地の階段に座り、台本を一度読んだだけで役に入った。


 普段の華やかさを消し、目から余裕を消し、唇を少し固く結んだ。


 監督が「用意」と言う前から、そこにはもう、貧しい家の長女がいた。


「お願いします」


 カメラが回った。


 相手役の子役が泣きそうな顔で言う。


「お姉ちゃん、お腹すいた」


 エミリアは一瞬だけ目を伏せた。


 そして、笑った。


 作り笑いではない。


 自分が泣かないために作る、硬い笑顔だった。


「大丈夫。今日はね、パン屋さんでいいものをもらったの」


「本当?」


「本当。だから、先に食べて」


「お姉ちゃんは?」


「私はあとで食べる」


 たったそれだけ。


 だが、現場の空気が変わった。


 監督がモニターを見つめた。


 助監督が小声で言った。


「……上手いですね」


 監督は答えなかった。


 代わりに。


「もう一回。今の、少し寄りで撮る」


 その一言で、現場は理解した。


 この新人は、ただのごり押しではない。


 面倒な事務所の社長が連れてきた、運の悪い顔だけ美少女ではない。


 ちゃんと使える。


 いや、使えるどころか、映る。


 そして第三話。


 エミリアの出番は本来三分だった。


 だが放送後、その三分がドラマ全体を食った。


 スターライト本社では、宣伝部が叫んでいた。


「フォロワー、二時間で八万人増えました!」


「インタビュー依頼、十七件来てます!」


「雑誌の表紙打診もあります!」


「ドラマ公式のコメント欄、エミリアさんの話ばかりです!」


 レイは机の上に乗りそうな勢いで喜んだ。


「のだっ♡のだっ♡吾輩の勝ちなのだぁ♡」


 田村が止める。


「机に乗らないでください」


「今日は乗ってもいい日なのだぁ!」


「よくありません」


「エミリア!またハイタッチなのだぁ!」


「はいはい」


 ぱんっ。


「のだぁ♡」


 ぱんっ。


「のだぁ♡」


 ぱんっ。


「そろそろ手が痛いんだけど」


「売れっ子の痛みなのだぁ!」


「意味わかんない」


 エミリアは呆れていたが、少しだけ口元が緩んでいた。


 自分がバズったことは分かっている。


 現場で冷たく見られていたことも分かっている。


 だから余計に、勝った感覚があった。


「まあ、悪くないわね」


「悪くないどころじゃないのだぁ!お主は今日から貧乏少女界の女王なのだぁ!」


「嫌な女王ね」


「儲かる女王なのだぁ!」


 その時、白鳥瑠璃と小鳥遊ひまりも社長室に入ってきた。


 瑠璃は丁寧に拍手した。


「エミリアさん、おめでとうございます。とても素晴らしいお芝居でした」


「ありがと。瑠璃に褒められると、なんか本当に良いことした気分になる」


「実際に良いお仕事だったと思います」


 ひまりは目を輝かせていた。


「エミリアちゃん、すごかったですぅ。パンを抱きしめてるところ、ひまり泣いちゃいましたぁ」


「ありがと」


「ひまりも既婚のパン屋さんにパンもらう役やりたいですぅ」


「それは危ないのだぁ!!」


 レイが即座に叫んだ。


「既婚をつけるななのだぁ!普通のパン屋さんでいいのだぁ!」


「えへへ、社長さん細かいですねぇ」


「細かくないのだぁ!週刊誌が大好物な単語なのだぁ!」


 エミリアが鼻で笑った。


「ひまりは貧乏役より、近所の人を全員勘違いさせる謎の少女役が向いてそう」


「わぁ、楽しそうですぅ」


「楽しそうではないのだぁ!危険なのだぁ!」


 瑠璃は真面目に言った。


「私は、貧しい少女役を演じるには、まず生活感の勉強が必要ですね」


 レイは瑠璃を見た。


 美しい。


 あまりにも美しい。


 貧乏役が似合わない。


 たぶん古びた団地に立たせても、団地の方が高級に見える。


「瑠璃は……没落令嬢役なのだぁ」


「没落令嬢ですか」


「貧乏でも紅茶を美しく飲む役なのだぁ」


「精一杯努めます」


「歌わない役なのだぁ」


「……はい」


 レイは咳払いした。


「とにかく!今日の主役はエミリアなのだぁ!吾輩はお主を信じていたのだぁ!」


 田村が資料をめくる。


「社長、最初は“顔が強いから三十秒映れば勝ち”と言っていました」


「信じていたのだぁ!」


「“台詞は短い方が事故らない”とも言っていました」


「信じていたのだぁ!」


「“元ヤンの目つきが貧困層のリアルになる”とも言っていました」


「それは当たったのだぁ!」


 エミリアが目を細めた。


「社長、今なんて?」


「褒めてるのだぁ」


「元ヤンの目つき?」


「役作りの資産なのだぁ」


「後で覚えてなさい」


「それなのだぁ!その目なのだぁ!あのドラマの最後の睨み、まさにそれだったのだぁ!」


 エミリアは黙った。


 褒められているのか怒るべきなのか分からない顔をしている。


 田村が冷静に話を戻した。


「問題は今後です。今回のバズで、エミリアさんに演技仕事が集中する可能性があります。ピュア・クラウンとしての活動との調整が必要です」


「のだぁ……」


 レイは急に社長の顔になった。


 少しだけ。


「つまり、エミリア単独で稼げるのだぁ?」


「言い方は悪いですが、そうです」


「ドラマ、映画、CM、雑誌……」


「可能性は広がりました」


「のだぁ……」


 レイの目が金貨のように輝いた。


「金儲けの匂いなのだぁ……!」


「社長、顔が悪いです」


「悪くないのだぁ!商売人の顔なのだぁ!」


 エミリアは腕を組んだ。


「でも、私は変な仕事やらないから」


「分かってるのだぁ!お主は貧乏少女、薄幸少女、強気少女、不良から更生した少女、口の悪い令嬢、全部いけるのだぁ!」


「最後の二つ、ほぼ私じゃん」


「だからリアルなのだぁ!」


「腹立つけど否定しづらい」


 ひまりが手を挙げた。


「社長さん、ひまりは何で稼げますかぁ?」


「歌なのだぁ!あと危ない魅力なのだぁ!」


「危ない魅力?」


「ただし本人には自覚させない方がいいのだぁ」


 瑠璃も静かに尋ねた。


「私は何でお役に立てますか」


 レイは即答した。


「顔なのだぁ!」


「……顔ですか」


「究極の顔なのだぁ!美貌は才能なのだぁ!お主は喋らず映るだけでブランド価値があるのだぁ!」


「それは褒め言葉なのでしょうか」


「最大級なのだぁ!」


 瑠璃は少し考え、真面目に頷いた。


「では、映るだけで価値が出せるよう、所作を磨きます」


「のだぁ……この子、顔担当への覚悟がすごいのだぁ……」


 その後、エミリアのバズはさらに拡大した。


 ドラマ公式は、慌ててエミリアのオフショットを投稿した。


 質素な衣装で笑うエミリア。


 それだけで伸びた。


『役だと貧乏少女なのに本人は華やかすぎる』


『このギャップすごい』


『演技してる時と素の目つき違いすぎて好き』


『ピュア・クラウン、実はすごいのでは?』


 レイはコメント欄を見て踊っていた。


「のだのだのだのだっ♡」


 田村が言う。


「社長、気持ち悪いです」


「今日は許されるのだぁ!」


「許されません」


 テレビ局からも連絡が入った。


『第四話以降、エミリアさんの出番を少し増やせないか検討しています』


 レイは受話器を握りしめて叫んだ。


「増やすのだぁ!もっと増やすのだぁ!妹を三人くらい増やしてもいいのだぁ!」


『いや、脚本がありますので』


「貧乏なら家族が多くても自然なのだぁ!」


『雑です』


「では病弱な弟なのだぁ!」


『検討します』


 電話を切った後、田村が冷たい目で見ていた。


「脚本に口を出しすぎです」


「売れたキャラを増やすのは当然なのだぁ!」


「作品全体のバランスがあります」


「金儲けにもバランスがあるのだぁ!」


「今の社長にはありません」


 その夜、エミリアは一人でスマホを見ていた。


 自分の名前が並んでいる。


 褒め言葉が並んでいる。


 演技が評価されている。


 顔だけではない。


 ごり押しだけではない。


 そう言われている。


 エミリアは小さく息を吐いた。


「……ふん」


 嬉しくないわけではない。


 だが、それを素直に出すのは癪だった。


 そこへレイが勝手に横から覗き込む。


「嬉しいのだぁ?」


「近い」


「嬉しいのだぁ?」


「別に」


「嘘なのだぁ。口元が勝ってるのだぁ」


「何それ」


「売れた人間の口元なのだぁ」


「社長こそ、さっきから顔が下品」


「金の匂いで元気なのだぁ♡」


「最低」


「最低でも、お主を売ったのは吾輩なのだぁ!」


 エミリアは少し黙った。


 そして、目を逸らして言った。


「……まあ、それは感謝してる」


 レイは固まった。


「のだ?」


「何よ」


「今、感謝したのだぁ?」


「したけど」


「録音したかったのだぁ!」


「取り消す」


「のだぁあああ!!」


 レイは騒いだ。


 エミリアは面倒くさそうにしていたが、完全に嫌そうではなかった。


 翌日。


 事務所の会議室では、緊急戦略会議が開かれた。


 議題は、エミリア・神崎の今後。


 宣伝部、営業部、マネージャー、田村、そして社長レイ。


「まず、ドラマの反響を受けて、エミリアさん単独の露出を増やします」


「のだっ」


「ただし、ピュア・クラウンとしての清楚系イメージも維持します」


「のだっ」


「元ヤン疑惑、性格の鋭さ、言葉遣いの強さは管理します」


「のだぁ……」


「社長も余計な発言をしないでください」


「なぜ吾輩まで管理対象なのだぁ?」


「最大のリスクだからです」


 会議室全員が頷いた。


「裏切り者どもなのだぁ!」


 宣伝部員が言った。


「今回の役柄は“貧しくてもまっすぐ生きる少女”なので、本人コメントも誠実寄りにしましょう」


 レイは頷く。


「エミリアに言わせるのだぁ。“この役を通して、人の温かさを学びました”なのだぁ」


 田村が即座に言う。


「本人が言えるか確認が必要です」


「言わせるのだぁ」


「棒読みになる可能性があります」


「そこは演技力でどうにかするのだぁ」


 マネージャーが不安そうに言った。


「本人が会見で余計なことを言わないように、想定問答を作ります」


「良いのだぁ」


「“ごり押しと言われていますが?”と聞かれた場合」


「吾輩が殴り込みに行くのだぁ!」


「ダメです」


「ではエミリアが睨むのだぁ!」


「もっとダメです」


「難しいのだぁ……」


 田村が言った。


「答えは、“チャンスをいただいた以上、結果で返せるよう努力します”です」


「のだぁ……大人の答えなのだぁ」


「大人の仕事です」


 レイは感心した。


「田村、お主が社長やればいいのだぁ」


「嫌です」


「吾輩も嫌なのだぁ!」


「社長です」


 その頃、エミリアは別室でコメント練習をしていた。


「この役を通して、人の温かさを学びました」


「もう少し柔らかく」


「この役を通して、人の温かさを学びました」


「目が怖いです」


「温かさを学んでるのに?」


「学んでいる人の目ではありません」


「面倒くさ」


「それを言わないでください」


 マネージャーは頭を抱えた。


 しかし、エミリアは本番に強かった。


 翌日の囲み取材。


 記者に囲まれたエミリアは、白いブラウスに落ち着いたスカートで立っていた。清楚系の皮は、まだ何とか被れている。


「今回の反響、どう受け止めていますか?」


 エミリアは微笑んだ。


「とても驚いています。短い出番でしたが、見てくださった方に届いたのなら嬉しいです」


「貧しい少女役でしたが、役作りは?」


「強く見せるより、強がっているように見せたいと思いました。本当に余裕がない子ほど、簡単に泣けないと思ったので」


 記者たちが頷く。


 レイは後方で震えた。


「のだぁ……まともなこと言ってるのだぁ……」


 田村が小声で言う。


「黙って見ていてください」


「はいなのだぁ」


 別の記者が聞いた。


「事務所の強い推薦で出演が決まったとも聞いていますが、プレッシャーはありましたか?」


 来た。


 空気が少し張る。


 エミリアは一瞬だけ目を細めた。


 レイは心臓を押さえた。


 だが、エミリアは笑った。


「チャンスをいただいた以上、結果で返すしかないと思っていました」


 完璧。


「今回、少しでも評価していただけたなら、次はもっと良い形で返したいです」


 記者たちが一斉にメモを取る。


 レイは泣きそうになった。


「のだぁ……できる子なのだぁ……怖いけどできる子なのだぁ……」


 その後ろで、ひまりが小声で瑠璃に言った。


「エミリアちゃん、大人ですねぇ」


 瑠璃は頷く。


「本当に立派です」


 エミリアは取材を終えた瞬間、二人にだけ聞こえる声で言った。


「今の私、清楚だったでしょ」


 ひまりは拍手した。


「清楚でしたぁ」


 瑠璃も微笑む。


「とても落ち着いていました」


 エミリアは少し得意げだった。


 そこへレイが突撃してきた。


「エミリアぁああ!ハイタッチなのだぁ!」


「また?」


「会見成功記念なのだぁ!」


 ぱんっ。


「コメント完璧記念なのだぁ!」


 ぱんっ。


「金儲け加速記念なのだぁ!」


「それ外で言わないでよ」


「言わないのだぁ!」


 ぱんっ。


「のだっ♡のだっ♡やっぱ才能なのだぁ!顔面なのだぁ!人格は後から考えればいいのだぁ!」


 田村が即座に言う。


「それも外で言わないでください」


「言わないのだぁ!」


「社内でもあまり言わないでください」


「のだぁ……」


 そして一週間後。


 ドラマ第四話。


 エミリアの出番は明らかに増えていた。


 パン屋の裏口だけではない。


 夜の団地。


 病院の廊下。


 妹の手を握りながら、悔しさを押し殺す場面。


『泣いたら、終わりなんです。泣く暇があるなら、明日のことを考えます』


 その台詞で、またバズった。


『エミリア・神崎、完全に本物』


『目だけで感情出すのうますぎ』


『この子の主演ドラマ見たい』


『ピュア・クラウンの清楚担当じゃなくて、演技担当だったのか』


 レイは社長室で勝利の舞を踊った。


「のだっ♡のだっ♡金儲けのだっ♡」


 エミリアもさすがに笑った。


「社長、本当に金の話ばっかり」


「当然なのだぁ!売れるということは、お主に仕事が来て、吾輩に金が入って、会社が大きくなって、またお主に良い仕事を取れるということなのだぁ!美しい循環なのだぁ!」


「最後だけまともっぽい」


「吾輩は有能社長なのだぁ!」


「調子乗りすぎ」


「今日くらい乗らせるのだぁ!」


 エミリアは少し考えた後、自分から手を上げた。


「じゃ、もう一回だけ」


 レイの目が輝いた。


「のだっ♡」


 ぱんっ。


 ハイタッチの音が、社長室に響いた。


 その音は、レイにとって金貨の音だった。


 エミリアにとっては、勝利の音だった。


 田村にとっては、これから増える仕事量の予告だった。


 そして、スターライト・ユニバースにとっては。


 問題児だらけの新人ユニットから、ついに一人、世間に見つかった瞬間だった。


 レイは胸を張った。


「見るがいいのだぁ!吾輩のごり押しは、ただのごり押しではないのだぁ!顔面と才能に投資する、先見の明あるごり押しなのだぁ!」


 田村が静かに訂正する。


「外では“戦略的キャスティング”です」


「そうとも言うのだぁ!」


 エミリアは笑って言った。


「まあ、次も取ってきてよ。変な役じゃなければ出るから」


 レイは親指を立てた。


「任せるのだぁ!次は薄幸の天才少女、没落令嬢、強気な貧乏学生、どれでもいけるのだぁ!」


「ヤンキー役は?」


「まだ早いのだぁ。元が漏れるのだぁ」


「後で覚えてなさい」


「それも役に使えるのだぁ!」


 社長室に、また明るい騒ぎ声が響いた。


 清楚系ユニット。


 ごり押し新人。


 問題児。


 元ヤン疑惑。


 色々あった。


 だが、売れた。


 売れた以上、レイは強かった。


「のだっ♡のだっ♡勝てば官軍なのだぁ♡芸能界は怖いけど、金儲けは楽しいのだぁ♡」


 その日、レイは深夜までエミリアのバズった場面を何度も見返し、そのたびに一人で小さくハイタッチの練習をしていた。


「のだっ♡」


 ぱん。


「のだっ♡」


 ぱん。


「次は主演なのだぁ♡」


 そして翌朝。


 エミリアのもとには、新しいドラマのオファーが三本届いていた。


 レイはまた泣いた。


 今度は嬉し泣きだった。


「うぇええええん!!金儲けが向こうから歩いてくるのだぁああああ!!エミリアぁあああ!!お主、最高の問題児なのだぁあああ!!」

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