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芸能事務所の若社長ですが、所属タレントが不祥事を起こしすぎて胃が限界です  作者: 雪だるま


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35 レイの恐怖

 スターライト・ユニバース本社。


 社長室。


 レイは叫んでいた。


「のだぁあああああああああ!!」


 いつものことである。


 秘書はもう驚かない。


 広報部も驚かない。


 法務部も驚かない。


 驚いているのは新入社員だけだった。


「のだぁあああああ!!」


 ばんっ。


 机を叩く。


「悪夢なのだぁ!!」


 ばんっ。


「前触れなのだぁ!!」


 ばんっ。


 秘書が聞いた。


「何がですか」


 レイは震える指で資料を指差した。


 そこに書かれていたのは。


『小鳥遊ひまり 主演ドラマ視聴率』


『小鳥遊ひまり CM契約数』


『小鳥遊ひまり 楽曲売上』


『小鳥遊ひまり 好感度調査』


 全部高い。


 異常に高い。


 意味が分からないくらい高い。


 秘書は首を傾げた。


「良いことでは」


「良くないのだぁ!」


「え?」


「良すぎるのだぁ!」


「え?」


 レイは頭を抱えた。


「普通の人間ならこんなに成功しないのだぁ!」


「それは失礼では」


「絶対何かあるのだぁ!」


 レイは立ち上がる。


「ピロローン三〇〇年が売れたのだぁ!」


 ばんっ。


「暴言バニーが売れたのだぁ!」


 ばんっ。


「宿題しろなのだっ♡まで売れたのだぁ!」


 ばんっ。


「意味が分からないのだぁ!」


 ばんっ。


 秘書。


「社長が作ったんですよね」


「そうなのだぁ!」


「なら社長の責任では」


「違うのだぁ!」


 レイは真顔だった。


「吾輩は昔から変な曲を書いているのだぁ」


「はい」


「だが普通は売れないのだぁ」


「はい」


「つまりひまりなのだぁ」


 秘書。


 少し納得した。


 確かに。


 小鳥遊ひまりは変だった。


 良い意味で。


 妙な才能がある。


 意味不明な曲。


 変なドラマ。


 無茶な企画。


 普通なら失敗しそうな案件。


 なぜか成功する。


 業界でも少し噂になっていた。


「小鳥遊ひまりにやらせると当たる」


 そんな都市伝説まで出始めている。


 レイは震えていた。


「のだぁ……」


 そして。


「絶対に怖いのだぁ……」


 秘書。


「何がですか」


「反動なのだぁ」


 真顔だった。


「こういうのは反動が来るのだぁ」


「来ませんよ」


「来るのだぁ!」


 ばんっ。


「今は好感度百点なのだぁ!」


 ばんっ。


「だから怖いのだぁ!」


 ばんっ。


「絶対にダブル不倫とかするのだぁ!」


 ばんっ。


 秘書。


「しません」


「するのだぁ!」


「しません」


「するのだぁ!」


「しません」


 レイは泣きそうだった。


 そこへ。


 コンコン。


 扉が開いた。


 瑠璃。


 登場。


 白鳥瑠璃。


 今日も綺麗だった。


 そして今日も平和だった。


「失礼します」


「瑠璃ぃぃぃぃぃ!!」


 レイ。


 即飛びつきかける。


 秘書に止められる。


「走らないでください」


「のだぁ!」


 瑠璃は慣れていた。


 社長が騒いでいることに。


「どうかなさいましたか」


 レイは両肩を掴みそうな勢いで近づく。


「瑠璃ぃ!」


「はい」


「吾輩のお腹のために!」


「はい」


「お主だけは!」


「はい」


「絶対にプライベートを隠し通すのだぁぁぁぁぁ!!」


 社長室。


 静寂。


 瑠璃。


 ぱちぱち。


「……はい?」


 レイは本気だった。


「熱愛発覚禁止なのだぁ!」


「別に予定ありません」


「週刊誌禁止なのだぁ!」


「別に追われてません」


「匂わせ禁止なのだぁ!」


「してません」


「不倫禁止なのだぁ!」


「当然です」


「ありがとうなのだぁぁぁ!!」


 レイ。


 感動。


 泣く。


 瑠璃。


 困惑。


「社長」


「なんなのだぁ」


「ひまりさんに何かあったんですか」


「まだなのだぁ!」


「まだ」


「まだなのだぁ!」


 レイは震えた。


「だから怖いのだぁ!」


「意味が分かりません」


「成功しすぎなのだぁ!」


 瑠璃は資料を見る。


 確かにすごかった。


 主演ドラマ。


 高視聴率。


 CM。


 増加。


 楽曲。


 ヒット。


 人気。


 上昇。


 瑠璃は冷静だった。


「ひまりさんが頑張った結果では」


「それもあるのだぁ」


「では良いことでは」


「良すぎるのだぁ!」


 瑠璃は少しだけ笑った。


「社長らしい心配ですね」


「胃が痛いのだぁ」


 その時。


 また扉が開く。


 ひまり本人。


「おはようございますぅ」


 元凶。


 登場。


 レイ。


 即指差す。


「のだぁぁぁぁ!!」


「なんですかぁ」


「お主なのだぁ!」


「はいぃ」


「最近成功しすぎなのだぁ!」


「そうですかぁ?」


 本人に自覚がない。


 それが余計怖い。


「ドラマ当たるのだぁ!」


「ありがたいですぅ」


「曲売れるのだぁ!」


「ありがたいですぅ」


「CM増えるのだぁ!」


「ありがたいですぅ」


「だから怖いのだぁ!」


「なんでですかぁ」


 ひまりは本当に分かっていなかった。


 そこへ。


 エミリア。


 登場。


「何騒いでるの」


「エミリアぁ!」


「うるさい」


「ひまりが怖いのだぁ!」


 エミリア。


 資料を見る。


 一秒。


 二秒。


 三秒。


「普通に売れてるだけじゃん」


「違うのだぁ!」


「何が」


「吾輩の曲なのだぁ!」


「そこ?」


 レイは力説した。


「宿題しろなのだっ♡なのだぁ!」


「うん」


「普通売れないのだぁ!」


「売れたね」


「怖いのだぁ!」


 エミリア。


 吹き出した。


「それは少し分かる」


「ほらなのだぁ!」


 瑠璃まで少し頷いた。


「確かに不思議ではあります」


「瑠璃ぃ!」


「ですが、それだけひまりさんに魅力があるのでしょう」


 ひまり。


 照れる。


「えへへぇ」


 レイ。


 頭を抱える。


「その笑顔なのだぁ……」


「はいぃ?」


「そうやって全てを浄化するのだぁ……」


 エミリアが言う。


「ひまりって何やっても怒られないよね」


「そうなのだぁ!」


 レイは即答した。


「吾輩が変な曲を歌わせても!」


「うん」


「変なドラマに出しても!」


「うん」


「変な衣装着せても!」


「うん」


「好感度が下がらないのだぁ!」


「確かに」


 そこだけは全員同意した。


 なぜか下がらない。


 不思議だった。


 ひまりは首を傾げる。


「そんなにですかぁ?」


 レイ。


 真顔。


「芸能界の七不思議なのだぁ」


「増えたんですねぇ」


「今作ったのだぁ」


 その時。


 テレビ局のプロデューサーから電話が来た。


 秘書が受ける。


「はい……はい……」


 少し驚く。


「本当ですか?」


 全員を見る。


「どうしたのだぁ」


 秘書。


「ひまりさん」


「はいぃ」


「ゴールデン帯の新ドラマ主演です」


 沈黙。


 ひまり。


「わぁ」


 瑠璃。


「おめでとうございます」


 エミリア。


「すごいじゃん」


 そして。


 レイ。


 ゆっくり天井を見る。


「のだぁ……」


 全員。


 察した。


 嫌な予感。


「社長?」


 レイ。


 震える。


「来たのだぁ……」


「何が」


「破滅へのカウントダウンなのだぁ……」


「始まってない」


「始まってるのだぁ!」


 ばんっ。


「次は大ヒットなのだぁ!」


 ばんっ。


「その次は国民的女優なのだぁ!」


 ばんっ。


「そしてその後ダブル不倫なのだぁ!」


 ばんっ。


 ひまり。


「しませんよぉ」


 瑠璃。


「しません」


 エミリア。


「しないでしょ」


 秘書。


「しません」


 全員。


 一致。


 レイだけ。


 一人で怯えていた。


「のだぁぁぁぁ……」


 そして。


 最後に瑠璃を見る。


「瑠璃」


「はい」


「お主だけは絶対に平和に生きるのだぁ」


「普通に生きます」


「ありがとうなのだぁ!」


 レイは泣いた。


 ひまりは笑った。


 エミリアは呆れた。


 秘書は慣れていた。


 そして芸能界では今日も、小鳥遊ひまりの謎の快進撃が続いていた。


 それを見ながらレイだけが、


「のだぁ……絶対に怖いのだぁ……」


 と胃薬を飲んでいたのである。

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