33 スターライト・ユニバース違約金タレントランキング
スターライト・ユニバース本社。
社長室。
退院して三日目。
本来なら静養期間中である。
本来なら。
だがレイは出社していた。
なぜなら。
「暇なのだぁ!」
である。
東雲からは「無理をしないでください」と言われた。
瑠璃からも「もう少しお休みになっては」と言われた。
母親からも「寝てなさい」と言われた。
医師からも「働かないでください」と言われた。
しかしレイは元気だった。
少なくとも本人はそう思っていた。
「のだっ♡」
そして現在。
社長室には一人の若い女性がいた。
黒瀬真莉亜の娘。
黒瀬美月。
二十一歳。
女優。
顔は美人。
スタイルも良い。
演技もそれなり。
だが。
問題があった。
非常にあった。
大量にあった。
それも芸能界的に最悪な方向で。
美月はソファに座りながらため息をついた。
「社長」
「なんなのだぁ♡」
「嫌な予感しかしないんだけど」
「素晴らしい予感なのだぁ!」
レイは立ち上がった。
そして。
壁のカーテンを勢いよく開いた。
「見るのだぁぁぁぁぁ!!」
どーん。
そこには巨大パネル。
タイトル。
『スターライト・ユニバース違約金タレントランキング』
美月。
「帰る」
「待つのだぁ!」
第一位。
黒瀬美月。
写真付き。
金色の王冠付き。
なぜかキラキラしている。
美月は頭を抱えた。
「なんで作ったの」
「記念なのだぁ!」
「何の」
「偉業なのだぁ!」
レイは指差した。
「見ろなのだぁ!」
項目。
不倫騒動。
暴言騒動。
パワハラ疑惑。
飲酒運転騒動。
スポンサー激怒事件。
番組降板。
CM打ち切り。
週刊誌特集。
ネット炎上。
その他多数。
美月。
沈黙。
「……改めて見ると酷いね」
「酷いのだぁ!」
「社長が一番嬉しそうだけど」
「芸能史に残るのだぁ!」
「残りたくない」
レイは感動していた。
「堂々の我が事務所違約金タレントランキングNo.1なのだぁ!」
ばんっ。
「不倫に暴言にパワハラに飲酒運転に……!」
ばんっ。
「すごいのだぁ!」
ばんっ。
「凄すぎるのだぁ!」
ばんっ。
「おめでとうなのだぁああああ!」
美月。
「全然めでたくない」
レイは机の下から箱を取り出した。
「そして!」
美月。
「絶対ろくでもない」
「賞品なのだぁ!」
「いらない」
「吾輩カレンダーなのだぁ!」
どーん。
社長レイカレンダー。
一月から十二月まで。
全部レイ。
しかも無駄に高画質。
美月。
真顔。
「気持ち悪い」
「失礼なのだぁ!」
「これ作った人誰」
「吾輩なのだぁ♡」
「最悪」
レイは胸を張った。
「一月はスーツ姿なのだぁ!」
「どうでもいい」
「五月はタキシードなのだぁ!」
「どうでもいい」
「八月は海なのだぁ!」
「誰得」
「吾輩得なのだぁ!」
美月はカレンダーを遠ざけた。
「いらない」
「受け取るのだぁ!」
「いらない」
「受け取るのだぁ!」
「ゴミ増やしたくない」
「芸術作品なのだぁ!」
その時。
社長室の扉が開いた。
黒瀬真莉亜だった。
「社長」
「真莉亜殿ぉ!」
黒瀬は状況を見た。
ランキング。
カレンダー。
娘。
社長。
一瞬で理解した。
「馬鹿なことしてるわね」
「祝賀会なのだぁ!」
「何の」
「違約金王なのだぁ!」
黒瀬は娘を見る。
「美月」
「なに」
「反省しなさい」
「してる」
「してないでしょ」
「少しは」
「少しじゃ足りないのよ」
美月は顔を逸らした。
黒瀬は本気で怒るタイプだった。
そして。
自分が色々やらかした経験もあるので説得力があった。
「飲酒運転だけは本当に駄目」
「分かってる」
「スポンサーが何社飛んだと思ってるの」
「分かってる」
「弁護士費用」
「分かってる」
「私が謝った回数」
「それはごめん」
黒瀬はため息をついた。
レイも頷く。
「真莉亜殿も大変だったのだぁ」
「社長もでしょ」
「胃が死んだのだぁ」
「知ってる」
美月は少しだけ申し訳なさそうだった。
実際。
全部悪意でやったわけではない。
ただ。
判断が終わっていた。
びっくりするほど終わっていた。
そして芸能界はそういうミスを許してくれない。
レイは急に真面目になった。
「のだぁ」
美月を見る。
「なに」
「お主、才能はあるのだぁ」
美月。
少し黙る。
「演技も悪くないのだぁ」
「……」
「顔も良いのだぁ」
「……」
「だから余計に腹が立つのだぁ」
珍しく本音だった。
「才能ある奴が自分で自分を殴るななのだぁ」
美月は視線を落とした。
黒瀬も何も言わなかった。
レイは続ける。
「不祥事起こすのは勝手なのだぁ」
「勝手じゃないでしょ」
黒瀬が突っ込む。
「だが!」
レイは指差した。
「起こした後にちゃんと仕事しろなのだぁ!」
ばんっ。
「それが芸能人なのだぁ!」
ばんっ。
「結果で黙らせろなのだぁ!」
ばんっ。
美月。
少し笑った。
「社長らしい」
「そうなのだぁ!」
「普通まず説教でしょ」
「説教は母親がするのだぁ!」
黒瀬。
「その通りね」
美月。
「最悪」
その時だった。
コンコン。
扉が開く。
瑠璃。
ひまり。
エミリア。
ピュア・クラウンである。
「社長」
「のだっ♡」
レイ。
一瞬で元気になる。
「瑠璃ぃ!」
瑠璃はランキングを見た。
固まった。
「……なんですかこれは」
「違約金王なのだぁ!」
「作ったんですか」
「そうなのだぁ!」
瑠璃は頭を押さえた。
ひまりはランキングを見て言った。
「わぁ〜」
そして。
「凄いですねぇ」
美月。
「褒めないで」
エミリアはもっと酷かった。
ランキングを見た。
三秒。
そして。
「勝てない」
美月。
「勝とうとしないで」
「飲酒運転まではやってない」
「当たり前でしょ」
「不倫もまだ」
「まだって何」
「ランキング上位は無理だ」
美月は頭を抱えた。
「この事務所終わってる」
レイは満足そうだった。
そして再びカレンダーを持ち上げる。
「ほれ!」
美月。
「いらない」
「ほれ!」
「いらない」
「ほれ!」
「いらない」
瑠璃が言った。
「社長」
「なんなのだぁ」
「そのカレンダー、本当に配布しているんですか」
「そうなのだぁ!」
エミリア。
「売れたの?」
「五部なのだぁ!」
「少な」
「母上が三部買ったのだぁ!」
「親しか買ってない」
ひまりが笑った。
「愛されてますねぇ」
「そうなのだっ♡」
レイは得意げだった。
その時。
スマホが鳴った。
全員。
察した。
レイ。
画面を見る。
停止。
「のだ?」
エミリア。
「神社?」
「違うのだ」
ひまり。
「寺ですかぁ?」
「違うのだ」
瑠璃。
「何でしょう」
レイ。
青ざめた。
「うちのイケメン歌手がまた匂わせなのだぁぁぁぁぁ!!」
社長室に悲鳴が響く。
美月はそれを見て言った。
「社長」
「なんなのだぁぁぁ!」
「私、まだマシじゃない?」
レイ。
数秒考える。
「いや、お主は殿堂入りなのだぁ」
「最悪」
こうして。
退院したばかりのレイは再び頭を抱えた。
スターライト・ユニバースは今日も絶好調で。
そして今日も大混乱だった。




