30 新曲のヒット
数週間後。
スターライト・ユニバース本社。
朝。
会議室。
レイは静かだった。
異常だった。
社員たちは警戒していた。
社長が静かな時は二種類しかない。
本当に疲れているか。
あるいは。
信じられないほど嬉しいことがあったか。
今回は後者だった。
机の上には資料。
数字。
ランキング。
売上。
ダウンロード数。
配信サイト順位。
SNS反応。
全部が並んでいる。
そして。
中央。
大きく書かれていた。
『清純派売りですがなにか』
累計。
三十万枚。
ダウンロード込み。
レイはその数字を見つめていた。
「のだぁ……」
静かだった。
社員たちは逆に怖かった。
秘書が恐る恐る聞く。
「社長」
「のだぁ」
「大丈夫ですか」
「のだぁ」
「壊れました?」
「壊れてないのだぁ」
レイはゆっくり立ち上がった。
そして。
資料を抱きしめた。
「三十万なのだぁ……」
ぽろっ。
涙が落ちた。
「三十万なのだぁぁぁ……」
社員たち。
理解した。
本当に嬉しいやつだった。
「社長」
「のだぁ……」
「おめでとうございます」
「のだぁ……」
そして。
次の瞬間。
「ハイタッチなのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
会議室の扉が吹き飛びそうな勢いで開いた。
いつものレイに戻った。
「ピュア・クラウンを呼ぶのだぁぁぁぁぁ!!!」
十分後。
ピュア・クラウン三人。
強制召集。
瑠璃。
CM撮影帰り。
ひまり。
ラジオ収録帰り。
エミリア。
ドラマ撮影帰り。
三人とも疲れていた。
そして。
会議室に入った瞬間。
レイがいた。
満面の笑み。
両手を広げている。
「のだっ♡」
嫌な予感しかしない。
エミリアが言った。
「売れた?」
「売れたのだぁぁぁ!」
レイ。
机を叩く。
「三十万なのだぁぁぁ!」
ばんっ。
「清純派売りですがなにかなのだぁぁぁ!」
ばんっ。
「世間は馬鹿なのだぁぁぁ!」
ばんっ。
エミリア。
「最後余計」
ひまりは拍手した。
「わぁ〜」
瑠璃も少し驚いていた。
「三十万ですか」
「三十万なのだぁ!」
レイは泣いていた。
「意味不明な曲なのだぁ!」
「社長が作ったんでしょ」
「そうなのだぁ!」
「なら自業自得」
「違うのだぁ!」
レイは資料を配る。
ランキング。
配信サイト。
動画再生数。
SNS。
全部良い。
しかも。
予想外の層に刺さっていた。
『昭和アイドルっぽくて好き』
『逆に新鮮』
『タイトルで笑った』
『エミリアが真顔で歌ってるの面白すぎる』
『瑠璃が本物の清純派すぎる』
『ひまりが全部浄化してる』
『サビが頭から離れない』
『なんで売れてるのか分からない』
『でも聞いてる』
レイ。
感動。
「これなのだぁ……」
涙。
「芸術なのだぁ……」
エミリア。
「違うと思う」
瑠璃は資料を読んでいた。
「幅広い年代に届いていますね」
「そうなのだぁ!」
レイは飛びついた。
「瑠璃ぃ!」
「社長、近いです」
「お主のおかげなのだぁ!」
「皆のおかげです」
「清純派の化身なのだぁ!」
瑠璃は困ったように微笑む。
その頃。
ひまり。
資料の一部を見ていた。
「子供人気高いですねぇ」
「そうなのだぁ!」
レイ。
さらに興奮。
「ひまりなのだぁ!」
「はいぃ」
「お主の力なのだぁ!」
「そうですかぁ?」
「暴言バニーからの流れなのだぁ!」
ひまり。
納得。
「なるほどですぅ」
エミリアは呆れた。
「そこ繋がってるんだ」
「繋がってるのだぁ!」
レイは真面目な顔になった。
「そして」
全員を見る。
「エミリアなのだ」
「なに」
「お主が一番面白かったのだぁ!」
エミリア。
眉が動く。
「は?」
「SNSで大人気なのだぁ!」
「どこが」
「お主なのだぁ!」
レイはスマホを見せる。
『エミリアが一番清純派に見えないのに一番頑張ってる』
『逆に好き』
『表情管理プロ』
『全部演技で押し切ってる』
『目が強い』
『清純派(物理)』
『エミリアだけ別ジャンル』
『でも可愛い』
エミリア。
沈黙。
「褒められてる?」
「たぶん」
「微妙」
「だが人気なのだぁ!」
レイは満足そうだった。
そして。
突然。
両手を上げた。
「ハイタッチなのだぁ!」
三人。
察した。
逃げられない。
まず。
瑠璃。
ぱしっ。
「おめでとうございます」
「のだぁ!」
レイ。
感動。
「瑠璃ぃ!」
次。
ひまり。
ぱしっ。
「やりましたねぇ」
「のだぁ!」
レイ。
さらに感動。
そして。
最後。
エミリア。
「ほら」
ぱしっ。
レイ。
固まる。
「のだ……」
「何」
「エミリアが素直なのだぁ」
「三十万売れたんだからいいでしょ」
「のだぁ……」
レイ。
泣く。
「気持ち悪い」
「泣くのだぁ!」
その日の午後。
祝賀会。
また祝賀会だった。
スターライトは祝賀会が多い。
なぜなら。
レイが好きだからである。
壇上。
レイ。
マイク。
「のだぁ!」
社員たち。
拍手。
「本日は!」
ばんっ。
「清純派売りですがなにか!」
ばんっ。
「三十万枚突破記念なのだぁ!」
ばんっ。
歓声。
レイ。
感動。
「吾輩は最初!」
指を立てる。
「売れて五万だと思っていたのだぁ!」
会場。
笑い。
「十万でも奇跡だと思っていたのだぁ!」
笑い。
「二十万で土下座する予定だったのだぁ!」
さらに笑い。
「三十万なのだぁ!」
絶叫。
拍手。
レイは涙目だった。
「ありがとうなのだぁ!」
その時。
黒瀬真莉亜も来ていた。
ワイン片手。
「おめでとう」
「真莉亜殿ぉ!」
「売れたわね」
「売れたのだぁ!」
「私のドラマの宣伝より話題になってるけど」
レイ。
目を逸らす。
「のだぁ」
「否定しなさいよ」
その横では。
麗奈の名前もネットで出ていた。
『麗奈の恋愛映画も良かったけど、清純派売りですがなには面白い』
『全然ジャンル違う』
『エミリアまた勝負してる』
エミリア。
スマホを見る。
「また見てる」
ひまりが言う。
「麗奈さんですかぁ?」
「別に」
「気にしてますねぇ」
「してない」
瑠璃は静かに微笑んだ。
「仲が良いのですね」
「違う」
即答。
レイ。
聞いていた。
「のだぁ……」
深く頷く。
「若いのだぁ……」
「社長より年上の女優とも似たようなことしてるでしょ」
黒瀬が言った。
「ぐふっ」
痛いところだった。
そして。
祝賀会終盤。
レイは改めて三人を見る。
瑠璃。
ひまり。
エミリア。
最初は。
顔が良いから集めただけだった。
正直。
それもあった。
だが。
今は違う。
ちゃんと売れている。
ちゃんと人気がある。
ちゃんと仕事をしている。
レイは少しだけ真面目な顔になった。
「のだぁ」
三人を見る。
「ありがとうなのだ」
会場。
一瞬静かになる。
珍しい。
社長が真面目だった。
瑠璃が微笑む。
「こちらこそ」
ひまりも笑う。
「楽しいですよぉ」
エミリアは少しだけ肩をすくめた。
「まだ働かされそうだけどね」
「当然なのだぁ!」
即復活。
「次は五十万なのだぁ!」
「出た」
「そして紅白なのだぁ!」
「出た」
「そしてドームなのだぁ!」
「出た」
「そして世界なのだぁ!」
「調子乗りすぎ」
会場が笑う。
その時。
レイのスマホが鳴った。
全員。
察した。
レイ。
画面を見る。
沈黙。
「のだ?」
エミリア。
「神社?」
レイ。
震える。
「違うのだ」
会場。
少し安心。
「寺なのだ?」
「違うのだ」
さらに安心。
「じゃあ何」
レイ。
涙目。
「所属アイドルが匂わせなのだぁぁぁぁぁ!!」
会場。
爆笑。
レイ。
頭を抱える。
「三十万売れても地獄は終わらないのだぁぁぁぁぁ!!」
その叫びが。
祝賀会の最後を見事に締めくくったのであった。




