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スターライト・ユニバース本社。
会議室。
その日、ピュア・クラウンの三人は珍しく同じ表情をしていた。
呆れ顔である。
原因はもちろん。
社長レイだった。
「うむ!」
レイはホワイトボードの前に立っていた。
満面の笑み。
非常に嫌な予感しかしない笑みだった。
「重要発表なのだぁ!」
エミリアは資料も見ずに言った。
「嫌な予感しかしない」
「失礼なのだぁ!」
「当たるから」
瑠璃は静かに紅茶を飲んでいた。
ひまりはクッキーを食べていた。
そして。
レイは高らかに宣言した。
「黒瀬真莉亜主演ドラマを応援するのだぁ!」
沈黙。
「だからなのだぁ!」
ばんっ。
「ピュア・クラウン全員出演決定なのだぁ!」
ばんっ。
「視聴率貢献なのだぁ!」
ばんっ。
エミリア。
「帰る」
「待つのだぁ!」
「今週だけで撮影三つあるんだけど」
「若いのだぁ!」
「理由になってない」
レイは胸を張った。
「看板女優様が最重要なのだぁ!」
「本音出たね」
「若手は働いて視聴率貢献しろなのだぁ!」
「本音出たね」
「うむ!」
全く隠さなかった。
瑠璃が手を挙げる。
「社長」
「なんなのだぁ」
「台本はありますか」
「あるのだぁ!」
レイは嬉しそうに配った。
タイトル。
『月下の約束』
黒瀬真莉亜主演。
恋愛ドラマ。
大人向け。
重い。
かなり重い。
病気。
別れ。
再会。
秘密。
そういうやつだった。
ひまりがページをめくる。
「暗いですねぇ」
「看板女優様なのだぁ!」
レイは力説した。
「大人向け恋愛ドラマなのだぁ!」
「ひまりだけ場違いでは?」
「場違いじゃないのだぁ!」
「役なんですかぁ?」
レイは資料を見る。
「近所のパン屋の娘なのだぁ!」
「なんでですかぁ」
「癒やし担当なのだぁ!」
ひまり。
納得。
「なるほどですぅ」
そして。
瑠璃。
「私は?」
レイ。
ドヤ顔。
「病院の幽霊なのだぁ!」
会議室。
沈黙。
瑠璃。
「幽霊?」
「そうなのだぁ!」
レイは嬉しそうだった。
「瑠璃は幽霊役で当たったのだぁ!」
「だからって」
「視聴者も期待してるのだぁ!」
「このドラマ、恋愛ドラマですよね」
「恋愛ドラマなのだぁ!」
「なぜ幽霊が」
「昔の病院に出る幽霊なのだぁ!」
「必要ですか」
「たぶん」
「たぶん」
瑠璃は静かに資料を閉じた。
もう諦めている。
そして。
問題のエミリア。
レイは満面の笑みだった。
「エミリアなのだぁ!」
「嫌な予感」
「死んだ恋人を思い続けるお嬢さん役なのだぁ!」
沈黙。
エミリア。
「私?」
「そうなのだぁ!」
「私?」
「そうなのだぁ!」
「私に?」
「そうなのだぁ!」
エミリアは頭を抱えた。
「なんで」
レイは胸を張る。
「うむ!」
そして。
「清純派なのだぁ!」
ばんっ。
「完璧な清純派なのだぁ!」
ばんっ。
「清純派復活計画第二弾なのだぁ!」
ばんっ。
エミリア。
立ち上がる。
「まだやってたの?」
「当然なのだぁ!」
「もうドラマで二〇%取ったでしょ」
「まだ足りないのだぁ!」
「何が」
「世間の清純派ポイントなのだぁ!」
「そんなものない」
レイは台本を開いた。
「見ろなのだぁ!」
読み上げる。
『私は今でも彼を愛しています』
「ほらなのだぁ!」
『他の人なんて考えられません』
「ほらなのだぁ!」
『ずっと待っています』
「ほらなのだぁ!」
エミリア。
真顔。
「重い」
「清純派なのだぁ!」
「違うと思う」
「純愛なのだぁ!」
「重い」
ひまりが手を挙げた。
「エミリアちゃんがやると怖そうですぅ」
「だよね」
「だがそれが良いのだぁ!」
レイは謎の方向に力説する。
「強い女が一途なのは人気なのだぁ!」
その時。
黒瀬真莉亜本人が会議室に入ってきた。
「何騒いでるの?」
「真莉亜殿なのだぁ!」
レイが走る。
「視聴率応援部隊を連れてきたのだぁ!」
黒瀬。
資料を見る。
ピュア・クラウン。
全員出演。
少し固まる。
「……社長」
「なんなのだぁ」
「この子たち忙しいでしょう」
「若いのだぁ!」
「便利な言葉ね」
黒瀬は苦笑した。
だが。
正直。
少し助かる。
ピュア・クラウンは今かなり勢いがある。
瑠璃は映画ヒット。
エミリアはドラマヒット。
ひまりは歌ヒット。
その三人が出れば宣伝効果は大きい。
だから否定しづらい。
「まあ」
黒瀬は肩をすくめる。
「来てくれるなら歓迎するわ」
レイ。
感動。
「のだぁぁぁ!!」
「泣くほど?」
「看板女優様なのだぁ!」
そして。
撮影開始。
最初に話題になったのは瑠璃だった。
なぜなら。
本当に幽霊だった。
病院の廊下。
月明かり。
白いワンピース。
静かに立っている。
監督。
「白鳥さん、そのままで」
「はい」
「そのまま立っていてください」
「はい」
「完璧です」
瑠璃。
演技していない。
しかし。
映像は美しい。
スタッフたちも頷く。
「また幽霊が似合う」
「人外感ある」
「神秘的」
レイ。
大喜び。
「のだぁ!」
黒瀬も認めた。
「確かに綺麗ね」
「そうなのだぁ!」
「でも恋愛ドラマよね」
「たぶん大丈夫なのだぁ!」
大丈夫ではなかったが。
映像は綺麗だった。
一方。
ひまり。
パン屋の娘。
普通に可愛かった。
客にパンを渡す。
笑う。
雑談する。
以上。
視聴者。
『癒やし』
『かわいい』
『この子だけ別作品』
『平和』
スタッフも癒やされた。
そして。
問題のエミリア。
死んだ恋人を思い続ける令嬢。
黒いドレス。
静かな屋敷。
窓辺。
雨。
エミリアが振り返る。
「私はまだ彼を忘れられません」
監督。
「いい!」
スタッフ。
「いい!」
黒瀬。
「上手いわね」
エミリア。
普通に上手かった。
しかも。
妙に説得力がある。
視線が強い。
感情が重い。
本当に十年くらい引きずってそうだった。
レイは涙目になった。
「のだぁぁぁ!」
「なんで泣いてるの」
「清純派なのだぁ!」
「違うと思う」
「一途なのだぁ!」
「重いだけでは?」
「一途なのだぁ!」
レイは絶対に認めなかった。
撮影が進む。
黒瀬の演技は流石だった。
主演。
経験。
技術。
全部ある。
ピュア・クラウン三人も良い刺激を受けた。
特に瑠璃。
撮影の合間。
黒瀬に質問していた。
「感情をどう作るのですか」
黒瀬は少し驚いた。
瑠璃が自分から聞くのは珍しい。
「経験ね」
「経験」
「あと観察」
「なるほど」
レイはその光景を見て感動していた。
「のだぁ……」
エミリアが呆れる。
「また泣いてる」
「瑠璃が成長してるのだぁ!」
「保護者?」
「社長なのだぁ!」
数週間後。
ドラマ放送開始。
第一話。
視聴率。
一五%。
第二話。
一七%。
第三話。
一九%。
そして。
SNS。
『幽霊の子綺麗すぎる』
『病院の幽霊誰?』
『パン屋の子かわいい』
『エミリア怖いくらい一途』
『黒瀬真莉亜さすが』
『出演者豪華』
『事務所総動員で草』
レイ。
ガッツポーズ。
「のだぁああああ!」
黒瀬。
苦笑。
「結局宣伝になったわね」
「当然なのだぁ!」
「でもピュア・クラウン働かせすぎじゃない?」
「若いのだぁ!」
「便利ねその言葉」
エミリアは疲れた顔をしていた。
「ライブの振り付け覚えなきゃいけないんだけど」
「清純派売りですがなにもあるのだぁ!」
「そのタイトルやめない?」
「やめないのだぁ!」
瑠璃は台本を読んでいる。
ひまりはパンを食べている。
黒瀬はワインを飲んでいる。
そして。
レイだけが異常に元気だった。
「のだぁぁぁ!」
スマホを掲げる。
「視聴率なのだぁ!」
その瞬間。
通知。
所属俳優。
『社長、また神社です』
レイ。
停止。
「のだ?」
黒瀬。
「また?」
「またなのだぁ……」
エミリア。
「いつもの」
ひまり。
「元気ですねぇ」
瑠璃。
「平常運転ですね」
レイは天井を見上げた。
「のだぁ……」
そして。
叫んだ。
「視聴率が良くても人生は楽にならないのだぁあああああ!!」
スターライト・ユニバース。
今日も絶好調で大混乱だった。




