25 解雇された田村
スターライト・ユニバース本社。
朝。
社内に絶叫が響いた。
「のだぁあああああああああ!!」
秘書たちは慣れていた。
受付も慣れていた。
警備員も慣れていた。
ただし。
今回は少し声が大きかった。
「のだぁああああああ!!」
社長室。
レイが机に突っ伏していた。
目の前には週刊誌。
見出し。
『人気女性歌手ひまり 人気男性アイドルグループメンバーと急接近!?』
写真付き。
しかも。
そこそこ距離が近い。
仕事現場のオフショットだった。
ひまり。
いつものふわふわ笑顔。
相手。
超人気男性アイドル。
爽やか。
高身長。
イケメン。
女性ファン大量。
芸能界でも有名。
レイは震えていた。
「のだぁぁぁぁぁ!!」
机を叩く。
「ついにひまりがやったのだぁぁぁ!!」
ばんっ。
「うぇえええええん!!」
ばんっ。
「だから言ったのだぁぁぁ!!」
ばんっ。
「イケメンアイドルと交流ある仕事なんて取ってくるななのだぁぁぁ!!」
ばんっ。
社員たち。
静かだった。
いつものことである。
「男性アイドルのファンは怖いのだぁぁぁ!!」
レイは頭を抱えた。
「絶対荒れるのだぁ!!」
スマホを見る。
案の定。
SNSは盛り上がっていた。
『付き合ってる?』
『匂わせ?』
『距離近くない?』
『ただの共演者では?』
『仕事だろ』
『いや近い』
『普通じゃない?』
『普通じゃない』
いつもの芸能界である。
レイはさらに泣いた。
「のだぁぁぁぁ!!」
しかし。
数秒後。
あることに気付いた。
「のだ?」
記事を見直す。
もう一度見る。
そして。
目を細めた。
「のだ?」
田村が言う。
「どうしました」
「待てなのだ」
「はい」
「よく考えるのだ」
「はい」
レイは腕を組んだ。
「ひまりなのだ」
「はい」
「暴言バニー四十万」
「はい」
「探偵ドラマ視聴率十八%」
「はい」
「ライブも大成功」
「はい」
「CMもある」
「はい」
レイ。
立ち上がる。
「のだ?」
「何ですか」
「吾輩のひまりの方が大物なのだ」
田村。
嫌な予感。
「社長」
「なんなのだ」
「落ち着いてください」
「つまりなのだぁ!!」
ばんっ。
「こいつ何吾輩の事務所のひまりにベタベタしてるのだぁぁぁ!!」
ばんっ。
「ふざけるななのだぁぁぁ!!」
ばんっ。
「相手の事務所にクレームなのだぁぁぁ!!」
田村。
頭を抱える。
「逆方向にキレないでください」
「だってそうなのだぁ!!」
「そうじゃありません」
「ひまりは国宝なのだぁ!!」
「違います」
「吾輩の宝なのだぁ!!」
「もっと違います」
その頃。
ひまり本人。
学校帰り。
パンを食べていた。
「へぇ〜」
記事を見る。
「仲良しって書いてありますねぇ」
以上だった。
特に気にしていない。
本人が一番平和だった。
一方。
レイは本当に相手事務所へ電話していた。
「社長ぉぉぉぉ!!」
田村が止める。
しかし。
遅かった。
「もしもしなのだぁ!」
相手事務所。
困惑。
「はい?」
「なんでお主らのアイドルがひまりに近付いてるのだぁ!!」
「はい?」
「距離感がおかしいのだぁ!!」
「え?」
「もっと離れるのだぁ!!」
「え?」
完全に意味不明だった。
相手事務所も混乱した。
「いや、仕事現場ですが」
「だからなのだぁ!!」
「共演です」
「共演だからって近いのだぁ!!」
「普通です」
「普通じゃないのだぁ!!」
十分後。
電話終了。
レイ。
満足。
「言ってやったのだ」
田村。
頭痛。
「社長」
「なんなのだ」
「今後の仕事減るかもしれません」
「減らないのだ」
「減ります」
「減らないのだ」
その時。
さらに報告が来た。
原因判明。
写真が撮られた時。
田村が別件対応で席を外していた。
その間。
男性アイドルとひまりが普通に雑談していた。
以上。
レイ。
静止。
「のだ?」
報告書を見る。
「のだ?」
もう一度見る。
「のだ?」
そして。
田村を見る。
数秒。
十秒。
二十秒。
そして。
「田村ぅぅぅぅぅ!!」
絶叫。
「はい」
「お主マネージャーなのだぁ!!」
「はい」
「なんで距離感を管理してないのだぁ!!」
「高校の先生じゃありません」
「管理なのだぁ!!」
「無理です」
「管理なのだぁ!!」
「無理です」
「管理なのだぁ!!」
「無理です」
会話が成立しなかった。
レイは立ち上がる。
「決めたのだ」
社員たち。
嫌な予感。
「田村」
「はい」
「転職なのだ」
「はい?」
「他の事務所へ行くのだ」
「いや」
「決定なのだ」
「待ってください」
「駄目なのだ」
「社長」
「なんなのだ」
「理不尽です」
「芸能界なのだ」
「理由になってません」
「次からちゃんと距離感管理する人を雇うのだ」
「無理です」
「無理じゃないのだ」
「無理です」
翌週。
本当に人事発表が出た。
『田村マネージャー退職』
社員たち。
ざわつく。
「本当にやった」
「本当にやった」
「社長やばい」
「前からやばい」
レイは会見した。
「田村は旅立ったのだ」
「社長」
記者が聞く。
「円満退職ですか?」
「うむ!」
レイは胸を張る。
「非常に円満なのだぁ!」
田村。
遠い目。
円満ではなかった。
かなり理不尽だった。
ただ。
もうどうでもよかった。
新しい職場は決まっている。
しかも給料が高い。
「では」
田村。
最後に頭を下げる。
「お世話になりました」
「うむ!」
レイ。
元気だった。
「頑張るのだぁ!」
「はい」
「次の会社でも距離感管理なのだぁ!」
「無理です」
最後まで同じ会話だった。
田村は去った。
レイは別に惜しまなかった。
なぜなら。
今はそれどころではない。
新しいマネージャー候補の面接が始まるからである。
「次の人材なのだぁ!」
レイは履歴書を見た。
「おぉ!」
目が輝く。
「元幼稚園の先生なのだぁ!」
社員たち。
静かだった。
嫌な予感しかしない。
「完璧なのだぁ!!」
レイ。
大喜び。
「子供管理のプロなのだぁ!!」
社員。
「社長」
「なんなのだ」
「ひまりさんは高校生です」
「似たようなものなのだぁ!」
「違います」
「大丈夫なのだぁ!」
レイは満面の笑みだった。
「今度こそ完璧な管理体制なのだぁ!!」
そして。
三日後。
ひまりは新マネージャーと一緒にコンビニで肉まんを食べていた。
「美味しいですねぇ」
「美味しいですね」
平和だった。
一方。
レイはまた別の所属タレントの炎上報告を聞いていた。
「のだぁぁぁぁぁぁ!!」
今日もスターライト・ユニバースは平常運転だった。




