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芸能事務所の若社長ですが、所属タレントが不祥事を起こしすぎて胃が限界です  作者: 雪だるま


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 都内某所。


 大河ファンタジードラマ『月影の姫君』撮影現場。


 平安時代をモチーフにした作品である。


 怨霊。


 陰陽師。


 貴族。


 政争。


 恋愛。


 悲恋。


 その全部を混ぜ込んだ豪華作品だった。


 そして。


 ピュア・クラウンの絶対的センター、白鳥瑠璃はその作品に出演していた。


 役名。


 月ノ宮。


 千年前に非業の死を遂げた姫君の幽霊。


 作中でも屈指の美貌を持つ悲劇の女性である。


 レイは撮影現場に現れた。


「のだぁ?」


 スタッフが頭を下げる。


「社長、お疲れ様です」


「お疲れ様ですのだっ♡」


 レイは上機嫌だった。


 今日は珍しく仕事で来たのである。


 瑠璃の様子を見るためだ。


 もちろん。


 社長として。


 真面目に。


 仕事として。


 たぶん。


 おそらく。


 きっと。


「のだぁ?」


 モニターを見る。


 瑠璃がいた。


 白い十二単。


 長い黒髪。


 青白い照明。


 月光。


 霧。


 そして。


 無表情。


 幽霊である。


 とても幽霊だった。


 監督が説明する。


「瑠璃さんには人間離れした美しさを期待しています」


「うむ」


「演技はあまり感情を出さず」


「うむ」


「ただ存在しているだけで怖い感じです」


「うむ」


 レイは頷いた。


「適材適所なのだぁ」


「社長」


 田村が睨む。


「失礼なのだぁ?」


「かなり」


「でも幽霊役は合ってるのだぁ」


 実際合っていた。


 瑠璃は歩く。


 ゆっくり。


 静かに。


 そして振り向く。


 その瞬間。


 現場が静かになる。


 怖いというより。


 綺麗だった。


 人間というより。


 美術品だった。


 監督が興奮する。


「いい!」


「素晴らしい!」


「そのまま!」


 レイも頷く。


「のだぁ」


 しかし。


 数分後。


 レイの様子がおかしくなった。


「のだ?」


 モニターの端を見る。


 女性がいた。


 着物姿。


 三十代後半。


 上品。


 美しい。


 圧倒的ベテラン女優。


 この作品の主演。


 役名。


 妻抜(めぬき)。


 貴族社会を生き抜く才女である。


 そして演じている女優は。


 芸能界でも有名な実力派。


 レイは固まった。


「のだ?」


 もう一度見る。


「のだ?」


 三度見る。


「のだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 現場が振り返った。


 レイが消えた。


 いや。


 走っていた。


 全力で。


「社長ぉぉぉ!?」


 田村が叫ぶ。


 遅かった。


 レイは主演女優の前に滑り込んでいた。


「妻抜様がいますのだぁぁぁぁぁ!!!」


 現場。


 静止。


 主演女優。


 きょとん。


 レイは叫ぶ。


「レイですのだぁぁぁ!!」


「は、はい?」


「大ファンですのだぁぁぁ!!」


「ありがとうございます?」


「ハグとサインくださいなのだぁぁぁ!!」


 主演女優。


 爆笑。


「何この子」


「社長です」


 田村が死んだ目で説明した。


「社長!?」


「そうです」


「社長なの!?」


 レイは大興奮だった。


「昔のドラマ全部見てるのだぁ!!」


「本当に?」


「三周したのだぁ!!」


「三周!?」


「吾輩、妻抜様のファンなのだぁ!!」


 主演女優は笑いを堪えられなかった。


 周囲のスタッフも笑い始める。


 レイは握手まで求めていた。


「サインくださいなのだぁ!」


「いいわよ」


「のだぁぁぁ!!」


「そんな喜ぶ?」


「喜ぶのだぁ!!」


 その頃。


 撮影待機中の瑠璃。


 遠くから見ていた。


「……」


 社長。


 自分を見に来たはずだった。


 たぶん。


 おそらく。


 きっと。


 十分後。


 レイはまだ主演女優と話していた。


 二十分後。


 まだ話していた。


 三十分後。


 普通に写真まで撮っていた。


 瑠璃。


「……」


 ひっそりお茶を飲む。


 助監督が苦笑する。


「白鳥さん」


「はい」


「社長、完全にファンですね」


「そうですね」


「怒らないんですか」


「慣れています」


 慣れていた。


 非常に慣れていた。


 レイはそういう人間である。


 美人女優を見る。


 興奮する。


 ファンになる。


 そして。


 仕事を忘れる。


 いつものことだった。


 さらに十分後。


 レイが戻ってきた。


 満足そうだった。


「のだぁ♡」


「社長」


 瑠璃が静かに言う。


「なんなのだぁ♡」


「私を見に来たのでは?」


 レイ。


 固まる。


「のだ?」


「違ったのでしょうか」


「ち、違わないのだぁ!」


「そうですか」


「もちろん瑠璃を見に来たのだぁ!」


「そうですか」


「ついでに妻抜様がいたのだぁ!」


「ついで」


 田村が呟く。


「完全に逆でしたね」


「違うのだぁ!」


「逆でした」


「違うのだぁ!」


 その時。


 監督が呼ぶ。


「白鳥さん、本番いきます!」


「はい」


 瑠璃が立ち上がる。


 レイもモニター前へ向かう。


 今度こそ真面目に見る。


 シーン開始。


 月明かり。


 廃寺。


 幽霊姫が現れる。


 瑠璃が静かに歩く。


 止まる。


 振り返る。


「……」


 現場が静まる。


 やはり綺麗だった。


 そして。


 演技も以前より良くなっていた。


 台詞は少ない。


 だが。


 雰囲気がある。


 監督が小さく言う。


「いいな……」


 カメラマンも頷く。


「画になる」


 レイも少し驚いていた。


「のだ?」


 田村が聞く。


「どうしました」


「瑠璃が成長してるのだぁ」


「当たり前です」


「のだぁ……」


 レイはしばらく見ていた。


 そして。


 小さく頷いた。


「うむ」


「珍しく真面目ですね」


「瑠璃は売れるのだぁ」


「もう売れています」


「もっと売れるのだぁ」


 レイは少し嬉しそうだった。


 主演女優への大興奮はそのままだった。


 だが。


 自分の事務所の後輩女優が、ちゃんと成長していることも見ていた。


 撮影終了。


 拍手。


 監督が満足そうに言う。


「白鳥さん良かったです」


「ありがとうございます」


 瑠璃が頭を下げる。


 レイも満足そうだった。


「のだぁ♡」


 その直後。


 主演女優が通りかかった。


「またね、社長さん」


 レイ。


 即反応。


「妻抜様ぁぁぁぁぁ!!!」


 全力で手を振る。


 瑠璃。


「……」


 助監督。


「白鳥さん」


「はい」


「やっぱり社長ですね」


「そうですね」


 瑠璃は少しだけ笑った。


 結局。


 レイは最後までレイだった。


 所属女優の成長を喜び。


 主演女優に大興奮し。


 サインを宝物のように抱えて帰っていったのである。


「のだぁぁぁ!!家宝なのだぁぁぁ!!」


 田村は帰り道で思った。


(あの人、本当に芸能事務所の社長なんだよな……)


 今さらながら、不思議で仕方なかった。

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