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芸能事務所の若社長ですが、所属タレントが不祥事を起こしすぎて胃が限界です  作者: 雪だるま


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20 ゴミ映画のひまり

 都内高級ホテル。


 映画『放課後ゾンビ探偵VS宇宙タコ大魔王』公開記念祝賀会。


 業界関係者。


 スポンサー。


 映画会社。


 出演者。


 マスコミ。


 大量の人間が集まっていた。


 そして。


 その会場で最も派手な格好をしていたのは主演でも監督でもなかった。


 スターライト・ユニバース社長、田中レイである。


 真っ白なタキシード。


 無駄に高そうな時計。


 無駄に高そうな靴。


 無駄に高そうなネクタイピン。


 顔だけ見れば若き大富豪。


 実態は怒っている保護者だった。


「のだっ♡」


 シャンパンを受け取る。


「のだっ♡」


 ローストビーフを見る。


「のだっ♡」


 デザートも確認する。


 田村が隣で言った。


「社長」


「なんなのだぁ♡」


「顔が怖いです」


「当然なのだぁ♡」


 レイは笑顔だった。


 しかし目が笑っていない。


「よくも吾輩の可愛いタレントをあんな使い方してぇ♡」


 田村はため息をついた。


「まだ怒ってるんですか」


「当たり前なのだぁ♡」


 映画は大コケしていた。


 興行収入も微妙。


 レビューも微妙。


 脚本も微妙。


 CGも微妙。


 演出も微妙。


 何もかも微妙。


 だが。


 最も許せなかったのは。


 ひまりの扱いだった。


 映画の監督は妙な方向にこだわる人間だった。


「ひまりさんにはもっと個性を出してもらいます」


「ほうなのだぁ」


「変顔をします」


「のだ?」


「変顔です」


「のだ?」


「ひたすら変顔です」


 そして。


 本当に変顔ばかりやらせた。


 ひまり。


 白目。


 変顔。


 宇宙タコに驚く変顔。


 ゾンビに驚く変顔。


 パンを落として変顔。


 転んで変顔。


 ラストシーンでも変顔。


 ひまりのファンたちは映画館で固まった。


『なんでこんなに変顔するの?』


『可愛い顔がもったいない』


『監督どうした?』


『途中から変顔の回数数えてた』


『ひまりの顔面に謝れ』


 ネットはそんな感想だらけだった。


 レイは思い出しただけで腹が立った。


「のだぁ……」


 シャンパンを飲む。


「のだぁ……」


 肉を食べる。


「のだぁ……」


 ケーキも取る。


 田村が言った。


「食べながら怒らないでください」


「怒るのだぁ♡」


「料理は楽しんでますね」


「料理は別なのだぁ♡」


 そこへ。


 ひまり本人が現れた。


 ドレス姿。


 相変わらずふわふわしている。


「社長さぁん」


「ひまりぃぃぃぃ!」


 レイは立ち上がった。


「大丈夫だったのだぁ!?」


「何がですかぁ?」


「変顔なのだぁ!」


「あぁ」


 ひまりは笑った。


「楽しかったですよぉ?」


 レイ。


 固まる。


「のだ?」


「変顔いっぱいしましたぁ」


「嫌じゃなかったのだぁ?」


「監督さん楽しそうでしたしぃ」


 レイは頭を抱えた。


「ひまりは優しすぎるのだぁ……」


「えへへぇ」


「吾輩なら泣いてたのだぁ」


「社長さんは変顔しなくても面白いですしぃ」


「どういう意味なのだぁ!?」


 その頃。


 会場の奥では監督がスポンサーたちと話していた。


 レイ。


 即発見。


 目が光る。


「いたのだぁ」


 田村。


「駄目です」


「まだ何もしてないのだぁ」


「顔が完全に何かする顔です」


「料理を食べながら文句言うだけなのだぁ」


「それを普通は何かすると言います」


 レイは料理を持ったまま監督の方へ向かった。


 監督は上機嫌だった。


「いやぁ、芸術的挑戦でした」


「のだっ♡」


 レイ登場。


 監督が振り向く。


「あ、社長さん」


「監督殿ぉ♡」


「映画どうでした?」


 レイ。


 笑顔。


 満面の笑み。


「面白かったのだぁ♡」


「ありがとうございます」


「でも次からは三十回くらい会議するのだぁ♡」


「え?」


「ひまりに変顔させる時は三十回会議なのだぁ♡」


 監督。


 固まる。


「え?」


「四十回でもいいのだぁ♡」


「そんなにですか」


「当たり前なのだぁ♡」


 レイは笑顔だった。


 非常に笑顔だった。


 だが。


 監督は理解した。


 怒っている。


 めちゃくちゃ怒っている。


「ひまりは可愛いのだぁ♡」


「はい」


「非常に可愛いのだぁ♡」


「はい」


「なのに変顔ばっかりだったのだぁ♡」


「個性を……」


「個性は変顔じゃないのだぁ♡」


「……」


「次はもっと可愛く撮るのだぁ♡」


 監督。


 後退り。


 レイ。


 前進。


 田村。


 回収。


「社長」


「なんなのだぁ」


「戻ってください」


「まだ話が終わってないのだぁ」


「終わりました」


「終わってないのだぁ」


「終わりました」


 こうしてレイは回収された。


 その頃。


 別のテーブルではエミリアが爆笑していた。


「変顔映画」


「笑うななのだぁ!」


「だって本当に変顔映画だったじゃん」


 瑠璃も珍しく口元を押さえていた。


 笑っている。


「瑠璃までなのだぁ!?」


「申し訳ありません」


「でも笑ってるのだぁ!」


「少しだけ」


「裏切り者なのだぁ!」


 ひまりはケーキを食べていた。


「美味しいですねぇ」


「お主だけ平和なのだぁ!」


「えへへぇ」


 そして。


 祝賀会終盤。


 スポンサーたちが帰り始める。


 俳優たちも帰る。


 監督も帰る。


 ひまりも帰る。


 瑠璃も帰る。


 エミリアも帰る。


 レイだけがまだ食べていた。


「社長」


 田村が言う。


「もう終わります」


「待つのだぁ」


「何ですか」


「ローストビーフおかわりなのだぁ」


「まだ食べるんですか」


「祝賀会なのだぁ♡」


「映画には怒ってるんですよね」


「怒ってるのだぁ♡」


「でも料理は楽しんでますね」


「料理は無罪なのだぁ♡」


 田村は諦めた。


 結局。


 映画はコケた。


 ひまりは変顔だらけだった。


 レイは監督に文句を言った。


 だが。


 祝賀会の料理は美味しかった。


 それだけは事実だった。


 帰りの車の中。


 レイは満足そうに呟いた。


「のだぁ……」


「何ですか」


「次からは脚本と監督を見るのだぁ……」


「やっと学習しましたか」


「でもローストビーフは美味しかったのだぁ♡」


 田村は静かに思った。


 この社長。


 本当に反省しているのだろうか、と。

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