18
スターライト・ユニバース本社。
その日。
社内には異様な空気が漂っていた。
原因。
ひまり。
そして。
『暴言バニー』
である。
誰も予想していなかった。
本当に。
誰も予想していなかった。
あの意味不明な曲が。
あの社長の趣味百パーセントの曲が。
あのうさぎコスプレをさせたいだけの曲が。
まさか。
四十万枚。
ダウンロード込みで四十万。
子供向け市場で大爆発。
幼稚園。
保育園。
小学校低学年。
さらには親世代。
なぜか大流行。
『野菜食べろなのだっ♡』
『ちゃんと寝ろなのだっ♡』
『宿題しろなのだっ♡』
子供が歌う。
親が喜ぶ。
先生も喜ぶ。
教育番組まで興味を示す。
そして。
社長レイ。
完全に調子に乗っていた。
「のだっ♡」
会議室で踊っていた。
「のだっ♡」
資料を抱えていた。
「のだっ♡」
顔が非常に気持ち悪かった。
田村は頭を抱えていた。
「社長」
「なんなのだぁ♡」
「調子に乗っていますね」
「当然なのだぁ♡」
ばんっ。
売上表を机に叩きつける。
「四十万なのだぁ♡」
ばんっ。
「四十万なのだぁ♡」
ばんっ。
「見たかな世界なのだぁ♡」
「見ました」
「吾輩は天才なのだぁ♡」
「そこは否定しません」
田村も少しだけ認めざるを得なかった。
意味不明だが。
売れた。
それが全てだった。
その時。
会議室のドアが開いた。
瑠璃。
ひまり。
エミリア。
三人が入ってきた。
そして。
三人とも。
嫌な予感がしていた。
レイの顔を見れば分かる。
あれは何かを思いついている顔だった。
危険である。
非常に危険である。
「のだっ♡」
レイ。
満面の笑み。
「お主らぁ♡」
三人。
無言。
「重大発表なのだぁ♡」
さらに無言。
逃げたい。
だが逃げられない。
そして。
レイは叫んだ。
「ピュア・クラウン写真集企画なのだぁああああ!!」
ばんっ。
資料が映し出される。
タイトル。
『Pure Rabbit』
エミリア。
即座に嫌な顔。
瑠璃。
理解した。
ひまり。
嬉しそう。
「うさぎさんですかぁ?」
「そうなのだぁ♡」
「可愛いですねぇ」
「そうなのだぁ♡」
レイ。
勢いよく次のページを開く。
そこには。
三人のイメージイラスト。
全員。
白うさぎ。
耳付き。
ふわふわ。
リボン付き。
完全にうさぎ。
会議室。
静まる。
エミリア。
「嫌」
「のだぁ!?」
「絶対嫌」
「なんでなのだぁ!?」
「二十万枚売った女優に何させる気よ」
「うさぎなのだぁ♡」
「意味が分からない」
レイ。
瑠璃を見る。
「瑠璃ぃ♡」
瑠璃。
目を閉じる。
数秒。
そして。
諦めた顔になった。
「……仕事でしょうか」
「仕事なのだぁ♡」
「なら頑張ります」
レイ。
感動。
「瑠璃ぃぃぃぃ!!」
涙目。
「やっぱりセンターなのだぁ!!」
エミリア。
「諦めるの早くない?」
「仕事ですから」
「真面目すぎる」
レイ。
さらに次の資料。
「見ろなのだぁ♡」
そこには。
撮影サンプル。
瑠璃。
白うさぎ。
神秘的。
妖精。
もはや人間ではない。
エミリア。
白うさぎ。
なぜか妙に強そう。
ボスうさぎ。
ひまり。
白うさぎ。
違和感ゼロ。
元々うさぎだった可能性すらある。
会議室。
静まる。
レイ。
感動。
「完璧なのだぁ……」
田村。
冷静。
「確かに売れそうです」
「だろうなのだぁ♡」
「社長」
「なんなのだぁ♡」
「個人的な動機は」
「吾輩のコレクションなのだぁ♡」
即答。
会議室。
沈黙。
エミリア。
机を叩く。
「最低」
「のだぁ!?」
「本音出すな」
「だって欲しいのだぁ!」
「隠せ」
「保存用三百冊欲しいのだぁ!」
「もっと隠せ!!」
ひまりは笑っていた。
「三百冊ですかぁ」
「そうなのだぁ♡」
「置く場所ありますぅ?」
レイ。
固まる。
「のだ?」
考えてなかった。
田村。
「社長室が埋まります」
「のだぁ?」
「火災の原因になります」
「のだぁ?」
「税務調査で説明が面倒です」
「のだぁ!?」
レイ。
初めて現実を見た。
だが。
すぐ立ち直る。
「でも欲しいのだぁ♡」
「駄目です」
「欲しいのだぁ♡」
「駄目です」
その頃。
撮影スタッフたちは既に盛り上がっていた。
なぜなら。
普通に絵になる。
瑠璃。
顔面最強。
白うさぎ。
相性抜群。
エミリア。
強気な目。
少し不機嫌な表情。
逆に人気が出そう。
ひまり。
説明不要。
元からうさぎ。
レベルだった。
数日後。
撮影当日。
スタジオ。
瑠璃。
白うさぎ衣装。
スタッフたち。
静まる。
「綺麗……」
「CGみたい……」
「本当に人間?」
瑠璃。
困惑。
「ありがとうございます」
エミリア。
白うさぎ衣装。
スタッフ。
「なんか強そう」
「うさぎなのに勝てそう」
「野生にいそう」
「ボスうさぎだ」
「誰がボスうさぎよ」
ひまり。
白うさぎ衣装。
スタッフ。
「完成形だ」
「違和感ない」
「元からいた」
「絶対森に住んでる」
ひまり。
「えへへぇ」
そして。
撮影現場の隅。
レイ。
泣いていた。
「のだぁ……」
田村。
「どうしました」
「完璧なのだぁ……」
「そうですね」
「吾輩、生きてて良かったのだぁ……」
「大げさです」
「芸能界トップクラスの顔面を集めて良かったのだぁ……」
レイは本気だった。
その後。
写真集予約開始。
即。
ランキング上位。
SNS。
『瑠璃うさぎやばい』
『エミリアうさぎ強そう』
『ひまりは元からうさぎ』
『三人とも顔が強すぎる』
『暴言バニーありがとう』
『社長何考えてるんだ』
『でも買う』
レイ。
予約数を見て震える。
「のだぁ……」
「また売れていますね」
田村。
冷静。
「売れてるのだぁ……」
「売れています」
「やっぱり吾輩は天才なのだぁ……」
その瞬間。
スマホが鳴る。
通知。
『所属俳優、また神社』
レイ。
静止。
五秒。
十秒。
二十秒。
そして。
「のだぁあああああああああ!!」
絶叫。
スタジオ中に響く。
瑠璃。
微笑む。
ひまり。
クッキーを食べる。
エミリア。
呆れた顔。
「現実に戻ったね」
レイ。
泣きながら頷く。
「戻りたくなかったのだぁああああ!!」
こうして。
暴言バニー四十万ヒットの余波によって。
ピュア・クラウン全員がうさぎになった。
そして。
レイだけが。
本気で幸せそうだったのである。
「のだっ♡うさぎ最高なのだっ♡」




