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芸能事務所の若社長ですが、所属タレントが不祥事を起こしすぎて胃が限界です  作者: 雪だるま


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 スターライト・ユニバース本社。


 会議室。


 朝。


 社長レイは珍しく機嫌が良かった。


「のだぁ〜〜♪」


 鼻歌まで歌っていた。


「のだのだのだぁ〜〜♪」


 田村は嫌な予感しかしなかった。


「社長」


「なんなのだぁ♡」


「何かありましたね」


「良いことがあったのだぁ♡」


「どうせ普通の人にとっては良くないことです」


「失礼なのだぁ!」


 レイはスマホを掲げた。


「見ろなのだぁ♡」


 そこにはネット記事。


『ピュア・クラウン、海外人気グループとのダンス比較で話題』


 さらにSNS。


『ダンスレベル違いすぎて草』


『顔面偏差値だけで戦ってる』


『ダンスがお遊戯会』


『高校の文化祭の方が踊れてる』


『逆に好き』


『可哀想になってきた』


『瑠璃だけ置物で草』


『ひまりは迷子みたい』


『エミリアだけ頑張ってる』


『顔は勝ってる』


『顔だけなら勝ってる』


『顔だけなら』


『顔だけ』


 田村は記事を閉じた。


「大炎上ですね」


「違うのだぁ♡」


「違いますか」


「微笑ましいのだぁ♡」


 田村。


 固まる。


「はい?」


 レイは満面の笑みだった。


「スポンサー問題ゼロなのだぁ♡」


 会議室。


 静まる。


「のだぁ……」


 レイは感動していた。


「熱愛じゃないのだぁ……」


「はい」


「不倫じゃないのだぁ……」


「はい」


「薬物じゃないのだぁ……」


「はい」


「違約金の匂いもしないのだぁ……」


「はい」


「最高なのだぁああああ!!」


 ばんっ。


 机を叩く。


「精神だけ削られるタイプなのだぁ♡」


「最低な評価ですね」


「経営者視点なのだぁ!」


 実際。


 ネットは盛り上がっていた。


 原因は簡単だった。


 海外の超人気女性アイドルグループ。


 ダンス特化。


 数年単位の練習。


 世界ツアー。


 ライブ職人。


 一方。


 ピュア・クラウン。


 瑠璃。


 歌苦手。


 ダンス苦手。


 顔最強。


 ひまり。


 歌最強。


 ダンス怪しい。


 エミリア。


 演技上手い。


 ダンスそこそこ。


 つまり。


 そもそも戦う場所が違う。


 だが。


 ネットはそんなこと気にしない。


 比較動画。


 再生数数百万。


 片方。


 完璧なシンクロダンス。


 もう片方。


 ピュア・クラウン。


 結果。


 コメント欄が地獄になった。


 レイは笑っていた。


「のだっ♡」


「笑い事ですか」


「笑い事なのだぁ♡」


「本人たちは?」


「気にしてないのだぁ♡」


 その時。


 会議室のドアが開いた。


 瑠璃。


 ひまり。


 エミリア。


 三人が入ってきた。


「おはようございます」


「おはようございますぅ」


「おはよ」


 レイ。


 即座に聞く。


「ダンス炎上なのだぁ!」


「はい」


「傷ついてるのだぁ?」


 三人。


 顔を見合わせる。


 そして。


「別に」


 エミリアが答えた。


「のだ?」


「だってダンスで売ってないし」


 終了。


 レイ。


 感動。


「強いのだぁ……」


 ひまりも頷く。


「ひまり歌手ですしぃ」


「そうなのだぁ」


「歌を褒めてほしいですぅ」


「そうなのだぁ」


「ダンスは普通ですぅ」


「そうなのだぁ」


 瑠璃も静かに言った。


「私もダンスは得意ではありません」


「うむ」


「事実ですので」


「うむ」


「練習は続けます」


「偉いのだぁ!」


 レイは泣きそうになった。


「やっぱり瑠璃なのだぁ……」


 田村が資料を出す。


「ちなみに」


「なんなのだぁ」


「比較動画の影響でフォロワーは増えています」


「のだ?」


「CMも増えています」


「のだ?」


「瑠璃さんへの問い合わせも増えています」


「のだ?」


「ひまりさんの曲も再生されています」


「のだ?」


「エミリアさんの映画も伸びています」


 レイ。


 固まる。


「売れてるのだぁ?」


「売れています」


「馬鹿にされてるのだぁ?」


「されています」


「売れてるのだぁ?」


「売れています」


「不思議なのだぁ……」


 エミリアが笑った。


「興味持たれたら勝ちだからね」


「芸能人っぽいこと言ったのだぁ」


「芸能人だし」


 その頃。


 ネット。


 相変わらず盛り上がっていた。


『ダンスやばい』


『笑った』


『顔だけでここまで来たグループ』


『逆に好き』


『見てたら応援したくなる』


『瑠璃の顔面強すぎる』


『エミリア普通に演技上手いよな』


『ひまりは歌うと化け物』


『ダンス以外全部強い』


『ダンスだけ壊滅』


『何で売れてるか分かる』


 世間の評価は。


 意外と冷静だった。


 ダンスは弱い。


 でも。


 別の武器が強い。


 だから売れている。


 ただそれだけだった。


 その日の夕方。


 ピュア・クラウンは音楽番組の収録へ向かった。


 待機室。


 レイは最後の確認をしていた。


「いいかお主ら」


「はい」


「はぁい」


「何?」


「ダンス頑張るのだぁ!」


「頑張る」


「頑張りますぅ」


「努力します」


「よろしいのだぁ!」


 そして。


 レイは続けた。


「でも無理するななのだぁ!」


「どっち」


 エミリアが即座に突っ込む。


「怪我したら困るのだぁ!」


「はいはい」


「顔は守るのだぁ!」


「結局そこ」


「顔は資産なのだぁ!」


 レイは本気だった。


 そして。


 収録後。


 ネット。


『今日もダンスは危うい』


『でも可愛い』


『瑠璃が映ると全部許される』


『ひまり歌うま』


『エミリア顔強い』


『なんか好き』


『応援したくなる』


 レイは満足そうだった。


「のだぁ……」


「どうしました」


 田村が聞く。


「平和なのだぁ……」


「平和ですか?」


「平和なのだぁ」


 レイはしみじみ言った。


「ダンス下手で笑われるくらいが平和なのだぁ……」


「基準がおかしいですね」


「芸能界にいるとこうなるのだぁ……」


 遠い目。


 そして。


 スマホを見ながら微笑む。


『ダンスはお遊戯会』


『顔は神』


『歌は良い』


『また見たい』


 レイは頷いた。


「のだぁ……」


「なんですか」


「芸能界トップクラスの顔面を集めて良かったのだぁ♡」


 田村。


 ため息。


「結論それですか」


「それなのだぁ♡」


 その瞬間。


 レイのスマホが鳴った。


 通知。


『所属俳優が深夜に神社で踊っている動画が拡散』


 レイ。


 静止。


 数秒。


 十秒。


 二十秒。


 そして。


「のだぁあああああああああ!!」


 会議室に絶叫が響いた。


 瑠璃は静かにお茶を飲んだ。


 ひまりはクッキーを食べた。


 エミリアは呆れて言った。


「ほら、ダンス下手の方が平和だったでしょ」


 レイは泣きながら頷いた。


「本当にそうなのだぁああああ!!」


 こうして。


 ピュア・クラウンは今日も「ダンスは微妙だが何故か売れているグループ」として話題になり。


 社長レイは改めて思った。


 ダンスで笑われる。


 それだけで済むなら。


 芸能界ではかなり平和なのである、と。

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