17
スターライト・ユニバース本社。
会議室。
朝。
社長レイは珍しく機嫌が良かった。
「のだぁ〜〜♪」
鼻歌まで歌っていた。
「のだのだのだぁ〜〜♪」
田村は嫌な予感しかしなかった。
「社長」
「なんなのだぁ♡」
「何かありましたね」
「良いことがあったのだぁ♡」
「どうせ普通の人にとっては良くないことです」
「失礼なのだぁ!」
レイはスマホを掲げた。
「見ろなのだぁ♡」
そこにはネット記事。
『ピュア・クラウン、海外人気グループとのダンス比較で話題』
さらにSNS。
『ダンスレベル違いすぎて草』
『顔面偏差値だけで戦ってる』
『ダンスがお遊戯会』
『高校の文化祭の方が踊れてる』
『逆に好き』
『可哀想になってきた』
『瑠璃だけ置物で草』
『ひまりは迷子みたい』
『エミリアだけ頑張ってる』
『顔は勝ってる』
『顔だけなら勝ってる』
『顔だけなら』
『顔だけ』
田村は記事を閉じた。
「大炎上ですね」
「違うのだぁ♡」
「違いますか」
「微笑ましいのだぁ♡」
田村。
固まる。
「はい?」
レイは満面の笑みだった。
「スポンサー問題ゼロなのだぁ♡」
会議室。
静まる。
「のだぁ……」
レイは感動していた。
「熱愛じゃないのだぁ……」
「はい」
「不倫じゃないのだぁ……」
「はい」
「薬物じゃないのだぁ……」
「はい」
「違約金の匂いもしないのだぁ……」
「はい」
「最高なのだぁああああ!!」
ばんっ。
机を叩く。
「精神だけ削られるタイプなのだぁ♡」
「最低な評価ですね」
「経営者視点なのだぁ!」
実際。
ネットは盛り上がっていた。
原因は簡単だった。
海外の超人気女性アイドルグループ。
ダンス特化。
数年単位の練習。
世界ツアー。
ライブ職人。
一方。
ピュア・クラウン。
瑠璃。
歌苦手。
ダンス苦手。
顔最強。
ひまり。
歌最強。
ダンス怪しい。
エミリア。
演技上手い。
ダンスそこそこ。
つまり。
そもそも戦う場所が違う。
だが。
ネットはそんなこと気にしない。
比較動画。
再生数数百万。
片方。
完璧なシンクロダンス。
もう片方。
ピュア・クラウン。
結果。
コメント欄が地獄になった。
レイは笑っていた。
「のだっ♡」
「笑い事ですか」
「笑い事なのだぁ♡」
「本人たちは?」
「気にしてないのだぁ♡」
その時。
会議室のドアが開いた。
瑠璃。
ひまり。
エミリア。
三人が入ってきた。
「おはようございます」
「おはようございますぅ」
「おはよ」
レイ。
即座に聞く。
「ダンス炎上なのだぁ!」
「はい」
「傷ついてるのだぁ?」
三人。
顔を見合わせる。
そして。
「別に」
エミリアが答えた。
「のだ?」
「だってダンスで売ってないし」
終了。
レイ。
感動。
「強いのだぁ……」
ひまりも頷く。
「ひまり歌手ですしぃ」
「そうなのだぁ」
「歌を褒めてほしいですぅ」
「そうなのだぁ」
「ダンスは普通ですぅ」
「そうなのだぁ」
瑠璃も静かに言った。
「私もダンスは得意ではありません」
「うむ」
「事実ですので」
「うむ」
「練習は続けます」
「偉いのだぁ!」
レイは泣きそうになった。
「やっぱり瑠璃なのだぁ……」
田村が資料を出す。
「ちなみに」
「なんなのだぁ」
「比較動画の影響でフォロワーは増えています」
「のだ?」
「CMも増えています」
「のだ?」
「瑠璃さんへの問い合わせも増えています」
「のだ?」
「ひまりさんの曲も再生されています」
「のだ?」
「エミリアさんの映画も伸びています」
レイ。
固まる。
「売れてるのだぁ?」
「売れています」
「馬鹿にされてるのだぁ?」
「されています」
「売れてるのだぁ?」
「売れています」
「不思議なのだぁ……」
エミリアが笑った。
「興味持たれたら勝ちだからね」
「芸能人っぽいこと言ったのだぁ」
「芸能人だし」
その頃。
ネット。
相変わらず盛り上がっていた。
『ダンスやばい』
『笑った』
『顔だけでここまで来たグループ』
『逆に好き』
『見てたら応援したくなる』
『瑠璃の顔面強すぎる』
『エミリア普通に演技上手いよな』
『ひまりは歌うと化け物』
『ダンス以外全部強い』
『ダンスだけ壊滅』
『何で売れてるか分かる』
世間の評価は。
意外と冷静だった。
ダンスは弱い。
でも。
別の武器が強い。
だから売れている。
ただそれだけだった。
その日の夕方。
ピュア・クラウンは音楽番組の収録へ向かった。
待機室。
レイは最後の確認をしていた。
「いいかお主ら」
「はい」
「はぁい」
「何?」
「ダンス頑張るのだぁ!」
「頑張る」
「頑張りますぅ」
「努力します」
「よろしいのだぁ!」
そして。
レイは続けた。
「でも無理するななのだぁ!」
「どっち」
エミリアが即座に突っ込む。
「怪我したら困るのだぁ!」
「はいはい」
「顔は守るのだぁ!」
「結局そこ」
「顔は資産なのだぁ!」
レイは本気だった。
そして。
収録後。
ネット。
『今日もダンスは危うい』
『でも可愛い』
『瑠璃が映ると全部許される』
『ひまり歌うま』
『エミリア顔強い』
『なんか好き』
『応援したくなる』
レイは満足そうだった。
「のだぁ……」
「どうしました」
田村が聞く。
「平和なのだぁ……」
「平和ですか?」
「平和なのだぁ」
レイはしみじみ言った。
「ダンス下手で笑われるくらいが平和なのだぁ……」
「基準がおかしいですね」
「芸能界にいるとこうなるのだぁ……」
遠い目。
そして。
スマホを見ながら微笑む。
『ダンスはお遊戯会』
『顔は神』
『歌は良い』
『また見たい』
レイは頷いた。
「のだぁ……」
「なんですか」
「芸能界トップクラスの顔面を集めて良かったのだぁ♡」
田村。
ため息。
「結論それですか」
「それなのだぁ♡」
その瞬間。
レイのスマホが鳴った。
通知。
『所属俳優が深夜に神社で踊っている動画が拡散』
レイ。
静止。
数秒。
十秒。
二十秒。
そして。
「のだぁあああああああああ!!」
会議室に絶叫が響いた。
瑠璃は静かにお茶を飲んだ。
ひまりはクッキーを食べた。
エミリアは呆れて言った。
「ほら、ダンス下手の方が平和だったでしょ」
レイは泣きながら頷いた。
「本当にそうなのだぁああああ!!」
こうして。
ピュア・クラウンは今日も「ダンスは微妙だが何故か売れているグループ」として話題になり。
社長レイは改めて思った。
ダンスで笑われる。
それだけで済むなら。
芸能界ではかなり平和なのである、と。




