15
数ヶ月後。
スターライト・ユニバース本社。
社長室。
田中レイは机に突っ伏していた。
「のだぁ……」
死んでいた。
精神的に。
かなり。
「終わりなのだ……」
田村は慣れていた。
「今度は何ですか」
「今度は本当に終わりなのだぁ……」
「先週も言っていました」
「今回は本当に終わりなのだぁ……」
レイはスマホを差し出した。
画面には大量の記事。
大量のまとめサイト。
大量のSNS投稿。
大量の匿名アカウント。
全部。
ピュア・クラウン関連だった。
理由は単純。
売れたからである。
ひまり。
探偵ドラマ高視聴率。
ソロ曲ヒット。
CMも増加。
エミリア。
映画ヒット。
挿入歌ヒット。
若手女優枠を奪いまくる。
瑠璃。
相変わらず演技は怪しい。
歌も怪しい。
だが。
顔面だけでCMが増殖していた。
化粧品。
飲料。
学習教材。
高級ブランド。
保険。
旅行会社。
何でも来る。
そして。
当然。
他事務所が面白くない。
「のだぁ……」
レイはスマホを見せた。
『エミリア、スタッフから嫌われている?』
『ひまり、性格がヤバいという噂』
『瑠璃、実は冷たい?』
『ピュア・クラウン内部不和説』
『独立計画か』
『事務所への不満』
『三人は不仲だった!?』
「のだぁ……」
レイ。
震える。
「全部見たことある記事なのだぁ……」
「芸能界ではよくあるものです」
「嫌なのだぁ……」
田村は冷静だった。
「売れている証拠です」
「慰めになってないのだぁ!」
レイはホワイトボードへ向かった。
大きく書く。
『攻撃一覧』
その下。
『ゴシップ攻撃』
『匿名リーク』
『SNS工作』
『記事誘導』
「全部なのだぁ!!」
ばんっ。
「フルコースなのだぁ!!」
ばんっ。
「嫌なのだぁ!!」
ばんっ。
「机が可哀想です」
レイは涙目だった。
「吾輩、最近夜に週刊誌の夢を見るのだぁ……」
「健康に悪いですね」
「夢の中で記者に追いかけられるのだぁ……」
「休んでください」
「休めないのだぁ!」
その時。
ドアが開いた。
瑠璃。
ひまり。
エミリア。
三人が入ってきた。
「おはようございます」
「おはようございますぅ」
「おはよ」
レイは三人を見る。
そして。
泣いた。
「のだぁあああああ!!」
「何?」
エミリアが即座に警戒する。
「絶対そろそろ独立するって言い出すのだぁ!!」
会議室。
静まる。
ひまり。
きょとん。
「独立ですかぁ?」
瑠璃。
困惑。
「なぜでしょうか」
エミリア。
呆れ顔。
「また始まった」
「始まったのだぁ!!」
レイは叫ぶ。
「売れた若手はそういう記事を書かれるのだぁ!!」
スマホを見せる。
『独立秒読み』
『移籍準備』
『契約更新拒否か』
『大手事務所が接触』
レイ。
机を叩く。
「高校生なのだぁ!!」
ばんっ。
「高校生のくせに独立とか意味不明なのだぁ!!」
ばんっ。
「まだ学校なのだぁ!!」
ばんっ。
「数学のテスト受けろなのだぁ!!」
瑠璃が静かに言う。
「先週受けました」
「そうなのだぁ!」
「九十二点でした」
「偉いのだぁ!!」
レイ。
即復活。
「やっぱ瑠璃なのだぁ!!」
田村。
ため息。
「現金ですね」
エミリアが椅子に座る。
「誰も独立しないって」
「本当なのだぁ?」
「今のところ」
「今のところ!?」
「社長、顔」
エミリアは笑った。
「そんなに嫌?」
「嫌なのだぁ!!」
レイ。
本気だった。
「育てたのだぁ!!」
ばんっ。
「お金かけたのだぁ!!」
ばんっ。
「胃も痛めたのだぁ!!」
ばんっ。
「そこ重要なんですか」
「重要なのだぁ!」
ひまりが手を挙げる。
「独立すると何があるんですかぁ?」
レイ。
即答。
「吾輩が泣くのだぁ!」
「それ以外は?」
「吾輩が泣くのだぁ!」
「それ以外は?」
「吾輩がもっと泣くのだぁ!」
エミリア。
吹き出した。
「社長、自分基準じゃん」
「当然なのだぁ!」
その時。
田村が資料を出した。
「ちなみに」
「なんなのだぁ」
「実際に接触はあります」
レイ。
硬直。
「のだ?」
「他事務所」
「のだ?」
「広告代理店」
「のだ?」
「映画会社」
「のだ?」
「複数あります」
レイ。
椅子から転げ落ちた。
「のだぁあああああ!!」
田村。
冷静。
「ただし、正式な話ではありません」
「本当なのだぁ?」
「はい」
「助かったのだぁ……」
その瞬間。
エミリアがぼそっと言う。
「でもオファーは来るよね」
レイ。
再び硬直。
「のだ?」
「来るよ」
「のだ?」
「売れてるし」
「のだ?」
「当たり前じゃん」
レイ。
真っ白。
「当たり前なのだぁ?」
「当たり前」
「のだぁ……」
瑠璃が静かに言った。
「社長」
「なんなのだぁ」
「私たちは今のところ事務所を離れるつもりはありません」
レイ。
固まる。
「のだ?」
瑠璃は続けた。
「お世話になっていますし」
「のだ?」
「まだ学ぶことも多いですし」
「のだ?」
「ここで頑張りたいと思っています」
レイ。
泣いた。
「瑠璃ぃぃぃぃ!!」
「はい」
「お主、天使なのだぁ!!」
ひまりも笑う。
「ひまりもですよぉ」
「本当なのだぁ?」
「楽しいですしぃ」
「のだぁ……」
「お友達もいますしぃ」
「のだぁ……」
「探偵さんも続きたいですしぃ」
「のだぁ……」
レイ。
かなり回復。
だが。
最後にエミリアを見る。
「エミリアは?」
「何」
「お主は?」
エミリア。
少し考える。
そして。
「今は別に」
「今は?」
「今は」
「今は!?」
「社長」
エミリアは笑った。
「脅かしてるだけ」
「のだぁあああああ!!」
会議室。
爆笑。
レイ。
机に突っ伏す。
「悪魔なのだぁ……」
「元ヤンだから」
「開き直るななのだぁ!」
だが。
実際のところ。
三人とも今は離れる気はなかった。
なぜなら。
まだ若い。
まだ高校生。
そして。
スターライト・ユニバースは問題だらけだったが、仕事は取ってくる。
レイは変だったが、守ろうとはしてくれる。
田村は有能だった。
居心地も悪くない。
だから。
少なくとも今は。
離れる理由がなかった。
しかし。
ネットは止まらない。
『移籍秒読み』
『不仲説』
『独立準備』
『事務所との確執』
毎日のように出る。
レイはそのたびに震える。
「のだぁ……」
「また記事ですか」
田村が聞く。
「記事なのだぁ……」
「慣れてください」
「慣れたくないのだぁ……」
その時。
ひまりがスマホを見る。
「また記事ですよぉ」
「何なのだぁ?」
「“瑠璃とエミリアが不仲”ですぅ」
全員。
瑠璃を見る。
エミリアを見る。
二人。
普通に隣でお茶飲んでいた。
「のだ?」
瑠璃。
「お茶いりますか?」
エミリア。
「いる」
終了。
レイは頭を抱えた。
「記事書いたやつ、現場見ろなのだぁ……」
その日の夕方。
また新しい記事が出た。
『ピュア・クラウン、独立秒読みか』
レイはそれを見て。
机を叩いた。
「ケッなのだっ!」
ばんっ。
「ケッなのだっ!」
ばんっ。
「高校生のくせに独立とか言うななのだぁ!」
ばんっ。
「まず宿題しろなのだぁ!」
ばんっ。
田村が静かに言った。
「社長」
「なんなのだぁ」
「瑠璃さんはもう終わっています」
「偉いのだぁ!!」
「ひまりさんも提出済みです」
「偉いのだぁ!!」
「エミリアさんは……」
「のだ?」
「たぶん」
「たぶんなのだぁ!?」
エミリアは目を逸らした。
レイは天を仰いだ。
「やっぱり問題児なのだぁあああああ!!」
こうして。
売れれば売れるほど。
攻撃も増える。
だが。
今のところ。
ピュア・クラウンはまだ同じ方向を向いていた。
それだけで。
レイにとっては十分幸せなことだったのである。
「のだぁ……」
そして今日も。
社長室では。
週刊誌とSNSを睨みながら。
レイが小さく呟いていた。
「頼むから卒業するまで独立とか言うななのだぁ……」




