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芸能事務所の若社長ですが、所属タレントが不祥事を起こしすぎて胃が限界です  作者: 雪だるま


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 数ヶ月後。


 スターライト・ユニバース本社。


 社長室。


 田中レイは机に突っ伏していた。


「のだぁ……」


 死んでいた。


 精神的に。


 かなり。


「終わりなのだ……」


 田村は慣れていた。


「今度は何ですか」


「今度は本当に終わりなのだぁ……」


「先週も言っていました」


「今回は本当に終わりなのだぁ……」


 レイはスマホを差し出した。


 画面には大量の記事。


 大量のまとめサイト。


 大量のSNS投稿。


 大量の匿名アカウント。


 全部。


 ピュア・クラウン関連だった。


 理由は単純。


 売れたからである。


 ひまり。


 探偵ドラマ高視聴率。


 ソロ曲ヒット。


 CMも増加。


 エミリア。


 映画ヒット。


 挿入歌ヒット。


 若手女優枠を奪いまくる。


 瑠璃。


 相変わらず演技は怪しい。


 歌も怪しい。


 だが。


 顔面だけでCMが増殖していた。


 化粧品。


 飲料。


 学習教材。


 高級ブランド。


 保険。


 旅行会社。


 何でも来る。


 そして。


 当然。


 他事務所が面白くない。


「のだぁ……」


 レイはスマホを見せた。


『エミリア、スタッフから嫌われている?』


『ひまり、性格がヤバいという噂』


『瑠璃、実は冷たい?』


『ピュア・クラウン内部不和説』


『独立計画か』


『事務所への不満』


『三人は不仲だった!?』


「のだぁ……」


 レイ。


 震える。


「全部見たことある記事なのだぁ……」


「芸能界ではよくあるものです」


「嫌なのだぁ……」


 田村は冷静だった。


「売れている証拠です」


「慰めになってないのだぁ!」


 レイはホワイトボードへ向かった。


 大きく書く。


『攻撃一覧』


 その下。


『ゴシップ攻撃』


『匿名リーク』


『SNS工作』


『記事誘導』


「全部なのだぁ!!」


 ばんっ。


「フルコースなのだぁ!!」


 ばんっ。


「嫌なのだぁ!!」


 ばんっ。


「机が可哀想です」


 レイは涙目だった。


「吾輩、最近夜に週刊誌の夢を見るのだぁ……」


「健康に悪いですね」


「夢の中で記者に追いかけられるのだぁ……」


「休んでください」


「休めないのだぁ!」


 その時。


 ドアが開いた。


 瑠璃。


 ひまり。


 エミリア。


 三人が入ってきた。


「おはようございます」


「おはようございますぅ」


「おはよ」


 レイは三人を見る。


 そして。


 泣いた。


「のだぁあああああ!!」


「何?」


 エミリアが即座に警戒する。


「絶対そろそろ独立するって言い出すのだぁ!!」


 会議室。


 静まる。


 ひまり。


 きょとん。


「独立ですかぁ?」


 瑠璃。


 困惑。


「なぜでしょうか」


 エミリア。


 呆れ顔。


「また始まった」


「始まったのだぁ!!」


 レイは叫ぶ。


「売れた若手はそういう記事を書かれるのだぁ!!」


 スマホを見せる。


『独立秒読み』


『移籍準備』


『契約更新拒否か』


『大手事務所が接触』


 レイ。


 机を叩く。


「高校生なのだぁ!!」


 ばんっ。


「高校生のくせに独立とか意味不明なのだぁ!!」


 ばんっ。


「まだ学校なのだぁ!!」


 ばんっ。


「数学のテスト受けろなのだぁ!!」


 瑠璃が静かに言う。


「先週受けました」


「そうなのだぁ!」


「九十二点でした」


「偉いのだぁ!!」


 レイ。


 即復活。


「やっぱ瑠璃なのだぁ!!」


 田村。


 ため息。


「現金ですね」


 エミリアが椅子に座る。


「誰も独立しないって」


「本当なのだぁ?」


「今のところ」


「今のところ!?」


「社長、顔」


 エミリアは笑った。


「そんなに嫌?」


「嫌なのだぁ!!」


 レイ。


 本気だった。


「育てたのだぁ!!」


 ばんっ。


「お金かけたのだぁ!!」


 ばんっ。


「胃も痛めたのだぁ!!」


 ばんっ。


「そこ重要なんですか」


「重要なのだぁ!」


 ひまりが手を挙げる。


「独立すると何があるんですかぁ?」


 レイ。


 即答。


「吾輩が泣くのだぁ!」


「それ以外は?」


「吾輩が泣くのだぁ!」


「それ以外は?」


「吾輩がもっと泣くのだぁ!」


 エミリア。


 吹き出した。


「社長、自分基準じゃん」


「当然なのだぁ!」


 その時。


 田村が資料を出した。


「ちなみに」


「なんなのだぁ」


「実際に接触はあります」


 レイ。


 硬直。


「のだ?」


「他事務所」


「のだ?」


「広告代理店」


「のだ?」


「映画会社」


「のだ?」


「複数あります」


 レイ。


 椅子から転げ落ちた。


「のだぁあああああ!!」


 田村。


 冷静。


「ただし、正式な話ではありません」


「本当なのだぁ?」


「はい」


「助かったのだぁ……」


 その瞬間。


 エミリアがぼそっと言う。


「でもオファーは来るよね」


 レイ。


 再び硬直。


「のだ?」


「来るよ」


「のだ?」


「売れてるし」


「のだ?」


「当たり前じゃん」


 レイ。


 真っ白。


「当たり前なのだぁ?」


「当たり前」


「のだぁ……」


 瑠璃が静かに言った。


「社長」


「なんなのだぁ」


「私たちは今のところ事務所を離れるつもりはありません」


 レイ。


 固まる。


「のだ?」


 瑠璃は続けた。


「お世話になっていますし」


「のだ?」


「まだ学ぶことも多いですし」


「のだ?」


「ここで頑張りたいと思っています」


 レイ。


 泣いた。


「瑠璃ぃぃぃぃ!!」


「はい」


「お主、天使なのだぁ!!」


 ひまりも笑う。


「ひまりもですよぉ」


「本当なのだぁ?」


「楽しいですしぃ」


「のだぁ……」


「お友達もいますしぃ」


「のだぁ……」


「探偵さんも続きたいですしぃ」


「のだぁ……」


 レイ。


 かなり回復。


 だが。


 最後にエミリアを見る。


「エミリアは?」


「何」


「お主は?」


 エミリア。


 少し考える。


 そして。


「今は別に」


「今は?」


「今は」


「今は!?」


「社長」


 エミリアは笑った。


「脅かしてるだけ」


「のだぁあああああ!!」


 会議室。


 爆笑。


 レイ。


 机に突っ伏す。


「悪魔なのだぁ……」


「元ヤンだから」


「開き直るななのだぁ!」


 だが。


 実際のところ。


 三人とも今は離れる気はなかった。


 なぜなら。


 まだ若い。


 まだ高校生。


 そして。


 スターライト・ユニバースは問題だらけだったが、仕事は取ってくる。


 レイは変だったが、守ろうとはしてくれる。


 田村は有能だった。


 居心地も悪くない。


 だから。


 少なくとも今は。


 離れる理由がなかった。


 しかし。


 ネットは止まらない。


『移籍秒読み』


『不仲説』


『独立準備』


『事務所との確執』


 毎日のように出る。


 レイはそのたびに震える。


「のだぁ……」


「また記事ですか」


 田村が聞く。


「記事なのだぁ……」


「慣れてください」


「慣れたくないのだぁ……」


 その時。


 ひまりがスマホを見る。


「また記事ですよぉ」


「何なのだぁ?」


「“瑠璃とエミリアが不仲”ですぅ」


 全員。


 瑠璃を見る。


 エミリアを見る。


 二人。


 普通に隣でお茶飲んでいた。


「のだ?」


 瑠璃。


「お茶いりますか?」


 エミリア。


「いる」


 終了。


 レイは頭を抱えた。


「記事書いたやつ、現場見ろなのだぁ……」


 その日の夕方。


 また新しい記事が出た。


『ピュア・クラウン、独立秒読みか』


 レイはそれを見て。


 机を叩いた。


「ケッなのだっ!」


 ばんっ。


「ケッなのだっ!」


 ばんっ。


「高校生のくせに独立とか言うななのだぁ!」


 ばんっ。


「まず宿題しろなのだぁ!」


 ばんっ。


 田村が静かに言った。


「社長」


「なんなのだぁ」


「瑠璃さんはもう終わっています」


「偉いのだぁ!!」


「ひまりさんも提出済みです」


「偉いのだぁ!!」


「エミリアさんは……」


「のだ?」


「たぶん」


「たぶんなのだぁ!?」


 エミリアは目を逸らした。


 レイは天を仰いだ。


「やっぱり問題児なのだぁあああああ!!」


 こうして。


 売れれば売れるほど。


 攻撃も増える。


 だが。


 今のところ。


 ピュア・クラウンはまだ同じ方向を向いていた。


 それだけで。


 レイにとっては十分幸せなことだったのである。


「のだぁ……」


 そして今日も。


 社長室では。


 週刊誌とSNSを睨みながら。


 レイが小さく呟いていた。


「頼むから卒業するまで独立とか言うななのだぁ……」

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