表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
芸能事務所の若社長ですが、所属タレントが不祥事を起こしすぎて胃が限界です  作者: 雪だるま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/43

13 会議

 スターライト・ユニバース本社。

 第七会議室。


 ピュア・クラウンの三人は、長机の向こう側に並んで座っていた。


 白鳥瑠璃。

 高校三年生。

 圧倒的美貌。

 圧倒的品行方正。

 圧倒的スポンサー適性。

 歌と演技だけが怪しいが、清純派という一点では社内最強。


 小鳥遊ひまり。

 高校二年生。

 歌は天才。

 ドラマも当てた。

 不思議ちゃん。

 ただし距離感が危険で、放っておくと「奥様のいる大人の方って素敵ですねぇ」などと言い出すため、常時監視対象。


 エミリア・神崎。

 高校三年生。

 演技も歌も上手い。

 顔も強い。

 現場でも使える。

 ただし元ヤン疑惑、目つき、言葉遣い、スタッフに対する圧、全部が週刊誌に狙われやすい。


 そして、その三人の前で、社長レイはホワイトボードを叩いていた。


「いいかお主らぁあああ!!」


 ばんっ。


「ピュア・クラウンは正統派清純派アイドルグループなのだぁ!!」


 ばんっ。


「清純派なのだぁ!!」


 ばんっ。


「清純派は稼げるのだぁ!!」


 ばんっ。


 田村が静かに言った。


「机ではなくホワイトボードを壊すつもりですか」


「壊さないのだぁ!吾輩の熱意なのだぁ!」


 レイは振り返り、三人を順番に指差した。


「瑠璃!」


「はい」


「お主はセンターなのだぁ!」


「承知いたしました」


「理由は分かるのだぁ?」


「……清純派のイメージに合うからでしょうか」


「その通りなのだぁあああ!」


 レイは感動していた。


「やはり瑠璃は賢いのだぁ!問題を起こさない!礼儀正しい!言葉遣いが綺麗!スポンサー様が笑顔になる!違約金の匂いがしない!最高なのだぁ!」


「ありがとうございます」


 瑠璃は丁寧に頭を下げた。


 それだけで会議室の空気が浄化される。


 レイは泣きそうになった。


「見ろなのだぁ……これが清純派なのだぁ……」


 そして次に、ひまりとエミリアを見る。


「それに比べてお主らぁ!」


「えへへぇ?」


「何よ」


「危険なのだぁ!」


 レイは再びホワイトボードを叩いた。


「元ヤンの不思議ちゃん不倫パワハラグループはスポンサーウケが微妙なのだぁ!」


「混ぜすぎじゃないですかぁ?」


 ひまりが首を傾げる。


 エミリアは眉をひそめた。


「誰がパワハラよ」


「週刊誌にそう書かれたのだぁ!」


「盛られてたでしょ」


「盛られてても写真が怖かったのだぁ!」


「それは撮り方」


「撮られる隙を作るななのだぁ!」


 エミリアは舌打ちしそうになったが、田村の視線を受けて飲み込んだ。


 レイはそれを見逃さない。


「今!今なのだぁ!その顔なのだぁ!清純派アイドルは今の顔をしないのだぁ!」


「じゃあどんな顔すればいいのよ」


「こうなのだぁ!」


 レイは両手を胸の前で合わせた。


 そして、首を少し傾けた。


 目を潤ませた。


 頬に手を添えた。


「みなさん、いつも応援ありがとうございます……♡ ピュア・クラウンのレイです……♡」


 沈黙。


 会議室が死んだ。


 田村は資料を見るふりをした。


 瑠璃は困った顔で微笑んだ。


 ひまりは「わぁ」と言った。


 エミリアは真顔で言った。


「気持ち悪い」


「のだぁああああああ!!」


 レイは崩れ落ちた。


「気持ち悪くてもやるのだぁ!!」


「いや、今のは本当に気持ち悪い」


「清純派の演技なのだぁ!!」


「清純派に謝りなさいよ」


「社長」


 田村が淡々と割り込む。


「今の実演は、清純派というより、売れない地下アイドルの握手会直前の不審な練習に見えました」


「田村までひどいのだぁ!」


 ひまりがにこにこしながら真似をした。


「みなさん、いつも応援ありがとうございますぅ……♡」


 可愛かった。


 普通に可愛かった。


 会議室の数人が思わず頷く。


 レイは叫んだ。


「ほらなのだぁ!ひまりはできるのだぁ!」


「えへへぇ」


「でもその後に既婚者の話をするから怖いのだぁ!」


「しませんよぉ」


「するのだぁ!お主は空気が柔らかいから余計怖いのだぁ!」


 ひまりは不思議そうだった。


「優しい大人の人を褒めるのは良いことじゃないですかぁ?」


「既婚者限定で褒めるななのだぁあああ!」


 レイは頭を抱えた。


「分かってないのだぁ……この子は本当に分かってないのだぁ……」


 次にレイはエミリアを指差した。


「エミリア!やるのだぁ!」


「何を」


「清純派の挨拶なのだぁ!」


「嫌」


「仕事なのだぁ!」


「台本にあるならやるけど」


「あるのだぁ!今作ったのだぁ!」


 エミリアは露骨に面倒そうな顔をした。


 だが、一応仕事ではある。


 彼女は椅子から立ち上がり、姿勢を正した。


 さすが女優。


 一瞬で顔が変わる。


 柔らかく微笑み、声も少し上品になる。


「皆さん、いつも応援ありがとうございます。ピュア・クラウンのエミリア・神崎です。これからも三人で、皆さんに笑顔を届けられるよう頑張ります」


 会議室が少しざわついた。


 普通に良かった。


 清純派だった。


 レイは目を輝かせた。


「できるのだぁ!できるではないかぁ!」


 エミリアはすぐ素に戻った。


「はい、終わり」


「戻るななのだぁ!」


「疲れる」


「カメラの前では戻るななのだぁ!」


「分かってるって」


「本当なのだぁ?」


「本番ではやる」


「本番以外でもやるのだぁ!最近はどこにカメラがあるか分からないのだぁ!」


 レイは机の下まで覗いた。


「週刊誌の罠があるかもしれないのだぁ……!」


 田村が言った。


「会議室にはありません」


「油断は禁物なのだぁ!」


 レイはさらにホワイトボードに書いた。


『ピュア・クラウン清純派鉄則』


 一、瑠璃を絶対的センターにする。

 二、ひまりは既婚者関連発言禁止。

 三、エミリアは睨まない。

 四、三人ともカメラ前では清純派。

 五、不祥事製造機ではない。

 六、スポンサー様を怖がる。

 七、違約金をもっと怖がる。


「これなのだぁ!」


 エミリアが手を挙げた。


「六と七、アイドルの心得じゃなくて社長の恐怖じゃない?」


「全員で共有する恐怖なのだぁ!」


 ひまりも手を挙げる。


「不祥事製造機って何ですかぁ?」


「お主らになってほしくないものなのだぁ!」


 瑠璃は真面目にメモしていた。


「スポンサー様への配慮は大切ですね」


「瑠璃ぃ……!」


 レイはまた泣きそうになる。


「やはり瑠璃がセンターなのだぁ……この理解力……この安心感……この違約金から最も遠い存在……!」


「違約金から遠い存在、という褒め言葉は初めてです」


「最高の褒め言葉なのだぁ!」


 そこへ宣伝部長が資料を配った。


「次回の音楽番組出演用の立ち位置案です」


 モニターに表示される。


 中央、瑠璃。


 左、ひまり。


 右、エミリア。


 瑠璃のアップ多め。


 ひまりは歌唱パート多め。


 エミリアはダンスと表情で締める。


 レイは頷いた。


「完璧なのだぁ」


 田村が言う。


「ただし、瑠璃さんの歌唱パートはさらに減らしています」


「英断なのだぁ」


 瑠璃は少し申し訳なさそうにした。


「私も練習は続けています」


「分かってるのだぁ!でもセンターの仕事は歌うことだけではないのだぁ!」


「そうなのですか?」


「そうなのだぁ!」


 レイは力説する。


「センターとは、概念なのだぁ!」


「概念」


「そこに立つだけでグループのイメージを決める存在なのだぁ!瑠璃が中央にいれば、ピュア・クラウンは清純派なのだぁ!」


 エミリアがぼそっと言う。


「左右に私たちがいるけどね」


「だからお主らはカメラの前で清純派の演技をするのだぁ!」


「はいはい」


「返事が清純派じゃないのだぁ!」


 レイは再び実演した。


「こうなのだぁ!“はい、社長。精一杯頑張ります♡”」


 エミリアは即答した。


「嫌」


「のだぁあああ!」


 ひまりは真似した。


「はい、社長さん。精一杯頑張りますぅ♡」


「ひまりは可愛いのだぁ!でもその後の自由発言が怖いのだぁ!」


 瑠璃は普通に言った。


「はい、社長。精一杯頑張ります」


 レイは崩れ落ちた。


「本物なのだぁ……」


 田村が小声で言う。


「社長の実演が一番不要でしたね」


「聞こえてるのだぁ!」


 その後、三人は実際に清純派コメントの練習をさせられた。


 想定質問一。


『ピュア・クラウンはどんなグループですか?』


 瑠璃。


「三人それぞれの個性を大切にしながら、皆様に清らかな時間をお届けできるよう努めるグループです」


 満点。


 ひまり。


「ふわふわしててぇ、楽しくてぇ、たまにピロローンなグループですぅ」


 悪くないが危ない。


 エミリア。


「顔が強い三人組です」


「エミリアぁああああ!」


「正直でしょ」


「正直すぎるのだぁ!」


 想定質問二。


『プライベートで大切にしていることは?』


 瑠璃。


「学業とお仕事の両立、そして周囲の方への感謝です」


 満点。


 ひまり。


「優しい人と仲良くすることですぅ」


「相手の婚姻状況には触れないのだぁ!」


「触れてませんよぉ」


「今のは合格なのだぁ……ぎりぎりなのだぁ……」


 エミリア。


「睡眠」


「清純派としてもう少し膨らませるのだぁ!」


「じゃあ、健やかな生活」


「急に良くなったのだぁ!」


 想定質問三。


『今後挑戦したいことは?』


 瑠璃。


「演技にも歌にも真摯に向き合い、少しずつ成長していきたいです」


 レイは感涙。


「瑠璃ぃ……!」


 ひまり。


「探偵さんの続きとぉ、ピロローン400年ですぅ」


 田村が即座にメモした。


「ピロローン400年は保留です」


 エミリア。


「主演」


 レイが頷いた。


「野心はあるのだぁ……でも清純派コメントなら?」


 エミリアは少し考えた。


「いただいた役に誠実に向き合って、いつか主演として作品を支えられる人になりたいです」


 会議室が静まった。


 良い。


 かなり良い。


 レイは震えた。


「できるのだぁ……!」


 エミリアは得意げに笑った。


「女優だから」


「そのドヤ顔は清純派ではないのだぁ!」


「細かい」


「細部に週刊誌が宿るのだぁ!」


 練習が終わる頃には、レイはぐったりしていた。


「疲れたのだぁ……」


 田村は資料をまとめる。


「三人より社長が疲れています」


「清純派を守るのは大変なのだぁ……」


 エミリアが言う。


「そもそも、清純派ってそんなに必要?」


 レイは即座に振り向いた。


「必要なのだぁ!」


「何で?」


「スポンサーウケなのだぁ!」


「またそれ」


「スポンサー様は大事なのだぁ!CMは強いのだぁ!雑誌も強いのだぁ!企業案件も強いのだぁ!」


 レイは瑠璃を指差した。


「瑠璃は清純派だから、化粧品も飲料も学習教材も来るのだぁ!」


 次にエミリアを見る。


「エミリアは強すぎるから、映画とドラマは来るけど、家庭向けCMは慎重になるのだぁ!」


 そしてひまりを見る。


「ひまりは歌とドラマは強いけど、発言が危険だから生放送のスポンサー案件は怖いのだぁ!」


「えへへぇ」


「笑い事じゃないのだぁ!」


 瑠璃は静かに頷いた。


「つまり、私が中央に立つことで、グループ全体の印象を安定させるということですね」


「そうなのだぁ!」


 レイはまた感動した。


「瑠璃、理解が早いのだぁ……!」


「でも、二人の魅力も大切だと思います」


 瑠璃はひまりとエミリアを見た。


「ひまりさんの歌声や柔らかさ、エミリアさんの表現力や強さがあるから、ピュア・クラウンはただ綺麗なだけでは終わらないのだと思います」


 会議室が静かになった。


 ひまりは嬉しそうに笑った。


「瑠璃ちゃん、優しいですぅ」


 エミリアは少し目を逸らした。


「……まあ、瑠璃がそう言うなら」


 レイは泣いた。


「のだぁあああ!これなのだぁ!これが清純派センターの器なのだぁ!」


 田村も珍しく少し微笑んだ。


「確かに、センターとしては適任ですね」


 レイは胸を張った。


「そうなのだぁ!だからピュア・クラウンの絶対的センターは瑠璃なのだぁ!」


 そして、すぐにひまりとエミリアを見る。


「でもお主らも大事なのだぁ!」


「ついでみたいに言わないで」


「ついでじゃないのだぁ!」


「じゃあ何?」


「危険だけど稼ぐ戦力なのだぁ!」


「もっと言い方あるでしょ」


「歌う爆弾と演じる爆弾なのだぁ!」


「悪化してる」


 ひまりは楽しそうに言った。


「爆弾なんですかぁ?」


「爆発しないでほしい爆弾なのだぁ!」


「難しいですねぇ」


「本当に難しいのだぁ!」


 その日の最後、音楽番組用の挨拶動画を試し撮りすることになった。


 三人が並ぶ。


 中央、瑠璃。


 左、ひまり。


 右、エミリア。


 カメラが回る。


 瑠璃が微笑む。


「皆様、こんにちは。ピュア・クラウンです」


 三人が揃って頭を下げる。


 ひまりが柔らかく続ける。


「これからも、たくさんの方に笑顔を届けられるよう頑張りますぅ」


 エミリアが穏やかに締める。


「三人で力を合わせていきます。応援よろしくお願いします」


 完璧だった。


 少なくとも、カメラの前では。


 レイはモニターを見て震えた。


「のだぁ……」


 田村が聞く。


「どうしました」


「清純派なのだぁ……」


「映像上はそうですね」


「映像上でもいいのだぁ……!」


 レイは両手を上げた。


「これでいくのだぁ!ピュア・クラウンは清純派超美少女三人組なのだぁ!不祥事製造機ではないのだぁ!」


 その瞬間、エミリアのスマホが鳴った。


 エミリアが画面を見る。


「げ」


 レイの顔色が変わる。


「何なのだぁ?」


「前のドラマのスタッフから」


「内容は?」


「“今度こそ差し入れの量を普通にしてください”って」


 レイは少し安心した。


「平和なのだぁ……」


 ひまりのスマホも鳴る。


「ひまりは探偵ドラマの監督さんからですぅ」


「内容は?」


「“打ち上げに既婚者が多いので、社長さんにも来てもらってください”って」


「のだぁあああああ!!吾輩が監視に行くのだぁああああ!!」


 最後に瑠璃のスマホが鳴る。


「私は、学校の先生からです」


「何なのだぁ?」


「模試の結果が良かったそうです」


 レイは椅子から崩れ落ちた。


「瑠璃ぃ……お主だけが吾輩の心の清浄機なのだぁ……」


 エミリアが呆れた。


「社長、瑠璃への依存が重い」


「重くないのだぁ!経営戦略なのだぁ!」


 ひまりは笑った。


「瑠璃ちゃん、センターですねぇ」


 瑠璃は少し照れたように微笑んだ。


「三人で頑張りましょう」


 その言葉で、空気が少しだけまとまった。


 清純派。


 超美少女三人組。


 実態はかなり危うい。


 だが、中央に瑠璃が立てば、不思議とそう見える。


 ひまりのふわふわも柔らかさに見える。


 エミリアの強さも頼もしさに見える。


 それがセンターの力だった。


 レイは深く頷いた。


「うむ!これでピュア・クラウンは安泰なのだぁ!」


 田村が静かに言う。


「そういう発言の直後に問題が起きがちです」


「やめるのだぁ!」


 その直後、事務所の内線が鳴った。


 田村が取る。


「はい。……はい。……分かりました」


 レイが震える。


「何なのだぁ……?」


 田村は受話器を置いた。


「所属俳優がまた神社で目撃されました」


「のだぁああああああ!!」


 瑠璃は静かに目を伏せた。


 ひまりは「神社好きですねぇ」と言った。


 エミリアは「もう神社のCM取れば?」と言った。


 レイは頭を抱えて叫んだ。


「違うのだぁ!!吾輩が欲しいのは清純派のCMなのだぁあああ!!神社裸踊り芸人じゃないのだぁあああ!!」


 こうして。


 ピュア・クラウンは今日も、正統派清純派超美少女三人組として売り出される。


 少なくとも、カメラの前では。


 そしてその中心には、今日も問題を起こさない優等生、白鳥瑠璃が立っていた。


 レイは震える声で呟く。


「信じられるのは瑠璃とスポンサー様だけなのだぁ……」


 田村が即座に訂正した。


「まずは所属タレントを信じてください」


「信じたいのだぁ!でも怖いのだぁ!」


 社長室に、またレイの悲鳴が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ