表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霞が関の月と地獄の艦隊〜地獄を知らぬ天才補佐官、伝説の猛者共を率いて国際政治をぶち抜く。なお、金曜日は全員カレーの模様〜  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/18

EP 3

月に影は落とさせない

 深夜の霞が関。

 冷たい春の雨が、アスファルトを黒く濡らしていた。

 日野輝夜は、傘も差さずに官舎への暗い道を歩いていた。

 疲労で足取りは重く、ハイヒールの音が鈍く響く。

 脳裏にこびりついて離れないのは、ネット上で自分を「魔女」と罵る無数の言葉と、義正の口座から消滅した「一〇〇億」という赤い数字だ。

 自分の理想が、仲間を傷つけ、国を混乱させている。

 その事実が、足に絡みつく泥のように輝夜の心を重く沈ませていた。

 彼女は気づいていなかった。

 冷たい雨音に紛れ、背後の暗い路地から、三つの「影」が彼女の背中にサイレンサー付きの銃口を向けていることに。

 他国が放った、プロの暗殺部隊。

 輝夜の命を物理的に絶つことで、日本の指揮系統を完全に沈黙させる——大国の最も直接的で、最も原始的な「回答」だった。

 暗殺者の一人が、引き金に指をかけ——。

「——遅ぇよ」

 頭上から降ってきた「何か」が、暗殺者の首の骨を無音でへし折った。

「なっ……!?」

 残る二人の暗殺者が銃口を上へ向けた瞬間、今度は背後のゴミ箱の陰から、黒い影が獣のような速度で飛び出してきた。

「よそ見すんなや、三流が」

 坂上信長だ。

 彼は第一空挺団・特殊作戦群の軍用ナイフを逆手に握り、一切の躊躇なく、一人の暗殺者の銃を持つ手首の腱を切り裂き、そのまま顎の骨を下から砕き割った。

 悲鳴を上げる間も与えない、完全な制圧サイレント・キル

「おっかねえ。陸のゴリラは相変わらず容赦ないねえ」

 最初に上から降ってきた男——平上雪之丞が、折れた暗殺者の体を路地に放り捨てながら、だらしなく笑う。

 音速の世界で生きるトップエースの動体視力と身体能力は、地上においても白兵戦の達人たちを凌駕していた。

「ひっ……!」

 唯一生き残った暗殺者のリーダー格が、恐怖で顔を引き攣らせ、輝夜の背中へ向けて無茶苦茶に発砲しようとした。

 だが。

「……オドレ、誰の月に影を落とそうとしとるんか、分かっとるんか」

 暗殺者の背後に、巨大な絶望が立っていた。

 出雲艦隊・総司令官、坂上真一。

 スーツのネクタイを外し、その下にある分厚い筋肉を隆起させた猛将は、万力のような掌で暗殺者の顔面を鷲掴みにした。

「が、あ……ッ!」

「声を出せば、姫君が振り向いてしまうじゃろうが。静かに寝とれ」

 メキィッ! という骨の軋む音とともに、暗殺者の意識は深い闇へと落ちていった。

 雨音だけが響く路地裏に、三つの血まみれの肉塊が転がる。

 かかった時間は、わずか十秒。

 霞が関のすぐ裏で繰り広げられた、本物の「地獄」の日常風景だった。

「片付きましたね、親父」

 信長がナイフの血を雨で洗い流し、短く報告する。

「ああ。雪之丞、蘭に連絡してこいつらの『掃除』を手配しろ。絶対に足はつかせるな」

「了解っス。あーあ、せっかくの合コンが台無しだぜ」

 ぼやきながらスマートフォンを取り出す雪之丞を横目に、坂上は懐からハイライトを取り出し、カチリとジッポーで火を点けた。

 紫色の煙が、血の匂いを消すように路地裏に漂う。

 坂上の視線の先には、何も知らずに、ただ冷たい雨に打たれて歩き続ける輝夜の小さな背中があった。

「……親父。あの人、今にも折れそうじゃぞ。俺たちが裏で手ェ下しとること、いつかは——」

「言わんでええ」

 坂上は、ハイライトを深く吸い込み、雨空へ煙を吐き出した。

「ワシらは地獄の底を這いずる番犬じゃ。あんな美しい光を、わざわざ泥水に引きずり下ろす必要はない」

 坂上の目には、かつて暴走族として広島を火の海にし、戦場で無数の命を散らしてきた男の「狂気」と、一人の少女への異常なまでの「忠誠」が宿っていた。

「姫君は、綺麗な月だけ見とればええんじゃ。……泥被りは、ワシらの仕事じゃけえ」

 一切の音を立てず。一切の血を流させず。

 男たちは深い影の中に潜み、自分たちの「月」を絶対の暴力で守り抜いていた。

 だが、その歪な過保護が、やがて輝夜の心を最も深く抉る刃になることを、彼らはまだ知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ