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覚醒無敵の英傑と口の臭い男 〜俺は絶対に、追放なんてされない〜  作者: 苦慮緑了
鋼鉄の才女

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三十八話:大義

 皇城の一室、この世の全ての贅沢を集めたかのような部屋の中、用意した水鏡の前で国読みは寛いでいた。

 側には顔の似通った双子がいる。一人は白い男装の少女、もう一人は正反対の色のドレスを着た少女。


 ドレスの少女はその場に倒れ、男装の少女は静かに国読みを睨んでいた。


 「……そう怖い顔をしないでください。イェリコ」

 「国読み様、転移するのであれば、何故事前に知らせてくれなかったのですか?」


 男装の少女は詰問する。

 彼女達……イェリコとプールは空間属性の魔術を使う。

 両方が同時に魔術を使用する事で、遠方を繋ぐポータルとして運用が可能だ。


 西の森からここ、帝国の中心であり大陸の中心である皇城に移動したのはそういう訳だ。

 だが、転移には当然タイミングを合わせる必要がある。

 高度な未来視を使える国読みなら容易ではあるが、今回……というか、ここ数ヶ月は余裕が無かった。


 故に、少し手荒い手段を用いたが……。


 「文句を聞くつもりはありませんよ」

 「僕たちは人間です、プールも、こんなに消耗して……」

 「聞くつもりは無い、と言った筈ですが?杖として改造された貴女達を助けたのが誰か、今一度教える必要がありますか?」


 国読みは現在空前絶後の危機への対処で手一杯だ。

 正直言ってくだらない子供の癇癪に付き合う余裕は無い。


 「僕たちを助けたのは聖女様です、貴女じゃない」

 「ならティサに泣きつけば良いでしょう。ティサが許さないというのなら、私も話を聞きますよ」


 ちなみにティサは怒るが、国読みに言いくるめられる。この動乱が終わった後、一月後の話だが。


 「……聖女様に、言いつけてやる」

 「……退室しなさい。プールも連れて……掃除は不要ですよ」


 イェリコがプールの肩を持ち、部屋から出る。

 どこまでも、想像通りで思慮の浅い子供だ、未来視を使うまでもないような気もする。


 ため息を吐きながら、水鏡に向き合う。

 石の杯になみなみと注がれた水は、揺れ動き波紋を広げ杯の縁から溢れようとしているが、一滴も溢れる事はない。


 「……カーライル」


 国読みの言葉に、水鏡……『遠見の水鏡』は遥か遠方のカーライルと、魔王を映し出した。

 激しい戦闘が繰り広げられている。血が舞い、骨が飛ぶ戦場だ。両者治癒魔術による治療が無ければとっくに死んでいるだろう。


 国読みは左目に魔力を込め、先頭の決着まで幾許かの猶予がある事を再確認した。

 水鏡に再び言葉をかける。


 「ティサロッサ……トール……メイジー……コール」


 目まぐるしく変わる水鏡は、各地で行われている戦火を映す。国読みは未来視によりその結果を全て確認した。


 「ヘンリー……ギャリ……ベス……ハーティ」


 国読みは優れた占い師であり、予言師であり、未来視能力者である。

 国読みはおよそ占術と呼ばれる物ならばなんだって出来た。またその精度も、外れる事なんて無い、という程に正確だ。

 空を見れば人の宿命を見るし、水晶玉に触れれば未来を映す。カードを引けば運命を暗示し、右目を凝らせば人の可能性を、左目を凝らせばその場の未来を見れた。


 二十年前、まだ国読みが七歳の頃、既に能力を開花させていた国読みは、ある予言を行った。

 それこそ二十年後……すなわち、今まさに起こっているこの災害だ。


 遥か昔、神代が終わった後、人と精霊の信仰、畏怖が集まり形を成した疑似神格……悪神、その子供、魔王の復活を、予見したのだ。

 精霊王ですら手を焼き、封印するしか出来なかった超越存在は、精霊が隠れた事により現代に甦り、世を支配せんと動き出す。


 その時同時に復活する魔王の軍勢により、大陸は混乱に包まれる筈だった。

 国読みが、全て阻止したが。


 まず最初の十年で大陸を全て支配した。旧グラント王国……現帝国は、大陸の隅々を完全に統治している。

 次に戦力を整えた。帝国七英傑もその一環だ。国読みの未来視と占術で大陸内の人間の戦闘能力と潜在能力を順位付けして、適切に育て、導き、制御した。

 同時に国全体を反映させた。一万年先の技術を盗み見て飢えを無くし、戦争の種を潰し、足を引っ張る貴族を軒並み失墜させ、犯罪組織を片っ端から消滅させ……。


 全てやった。やり切った。悪神の子、魔王の復活と、その臣下、軍勢を全て相手にしても、全く問題ないほどに、万全の準備を行った。

 唯一、数年前に見逃した戦争により、帝国七英傑に穴が空いたが……リカバリーの効く範囲だった。


 十の臣下に、万の兵、そして一の王、その全ては、今日討滅される。


 犠牲はある。0には出来ない。しかしそれでも、可能な限り少ない筈だ。


 「カーライル」


 再び、水鏡がカーライルを映し出す。

 戦いは佳境に入った。予見通り、カーライルが押されている。

 しかしカーライルが魔道具を利用し、大規模魔術を数発連続で発動する。


 たまらず防御する魔王の背後に一瞬で移動して、剣を背中から突き刺す。

 魔王が驚愕する。自らの大規模魔術を喰らったカーライルは全身を傷だらけにしつつも闘志を絶やさない。


 もはや治癒は行なっていない、そんな魔力は攻撃に回している。


 後数十秒で、決着が付く。


 カーライルは国読みのあまりない誤算の一つだ。

 一体何が気に障ったのか、いつの間にか、国読みに反旗を翻すようになっていた。


 カーライルは国読みに唯一まともに対抗してきた相手だ。今までの全てを合わせても、最も手強かった障害である。


 (……寂しくなりますね)


 カーライルの予測不能な動きは、不愉快でありつつ、どこか面白かった。

 自分の制御出来ない人間は愉快だ。


 それでも、そんなカーライルももう、死ぬ。

 今回の動乱で、避け得ぬ犠牲があった。運命により確定した、絶対的な犠牲が。

 それにカーライルを選んだのは、彼が今後邪魔になるから……か。あるいは……。




 「……ご安心ください、カーライル。彼女達の終わりは私が保証します」


 遺言は受諾された。国読みは自らの瞳にかけ、カーライルの最後の望みを果たそう。

 それが唯一、カーライルが望んだ事であるのならば。




 戦闘が終わった。カーライルは負けた。

 魔力を完全に枯渇させ、魔道具類を全て破壊され、意識があるかも分からない。

 ただ焼け焦げ、血に濡れた肌を晒し、それでも魔王の眼前に立っていた。


 『……強き戦士よ、貴様は我が相対した者の中で最も……最も、厄介で、最も鋭い、刃の様な人間であった』


 魔王がカーライルに語りかける。


 『今一度問おう、カーライル。我が臣下となれ、共に世界を支配しようぞ』


 カーライルは聞こえているのかいないのか、ただ、首をゆらゆらと振った。魔王には、それで十分だったらしい。


 『……そうか』


 魔王は落胆しつつも、どこかそれを予見していたかのような態度だ。

 それも、当たり前ではある。魔王の魔力を知っていれば、至極簡単に納得出来る。


 魔王は不意にカーライルから目線を逸らし、中空から覗いている国読みを睨んだ。

 水鏡が一際大きく揺れる。


 『遥か遠き未来を見据える者よ、この時代における全てを見通す者よ、これも、貴様の読み通りか?』


 明らかにこちら側を認識している言葉に、国読み普通ならば聞こえるはずもない声を返す。


 「こんにちは、私と同じに未来を知るヒト。時空を繰り、世界を支配せしめんとする歴史の遺物……見えているはずですね?貴方の敗北が」

 『クク……クハハ……!驚いた……驚いたぞ、ああ、確かに、もはや勝てはしまい。まさか我を超える眼を持つ者が産まれるとは!まこと、世界は面白い!』


 『我を超える眼』という言葉にはあえて何も言わないでおいた。実際は国読みの眼は未来を見るだけで、魔王の様に遥か遠くを見る事は出来ないが、そんなことを教えてやる義理は無い。


 『……来たか』


 不意に、魔王が顔を向ける。

 そこにいるのはメアリー、テスタ、トーファの三人。


 それぞれが、満身創痍のカーライルに衝撃を受けていた。

 止まったのは一瞬だった。


 魔王は剣を大きく掲げ、カーライルにとどめを刺そうとした。

 メアリーは時間魔術を用いて世界を凍らせていく。

 テスタは空間魔術により時代を回帰させ、精霊王を顕現させる。


 だがしかし、魔王もそれに対抗した。

 まず時間魔術により時間停止を相殺した。

 初めての出来事にメアリーが眼を見開く。


 次に空間魔術によりテクスチャを再度塗り替え、回帰した時代を再び現代に戻した。

 精霊王は元の弱々しい姿に戻り、テスタも動きを止める。


 各々最も得意とする魔術を歯牙にもかけられず、数秒、思考が遅れる。

 だがただ一人、トーファだけが、カーライルへ駆けていた。


 魔王が魔術の発動により一時止めていた剣を再び振り下ろす。

 相殺しきれなかったメアリーの時間魔術の影響が微かに残っているのか、剣はゆっくりとカーライルへ向かっている気がする。




 トーファが駆ける。後三歩。


 『待って』


 メアリーとテスタは再び魔術を準備した。


 トーファが走る。後二歩。


 『だめ』


 魔王の剣は一秒の猶予も無くカーライルを絶命させるだろう。


 トーファが必死に手を伸ばす。後一歩、後一歩だけ届かない。


 『――カーライル!!』


 トーファが叫ぶ、最期に、カーライルは薄らと笑みを浮かべ……。

 剣が叩きつけられる。カーライルは頭を完全に押しつぶされ、即死する。




 一瞬だけ遅れて魔術が放たれ、魔王が後ろに飛び回避した。


 魔王は復活直後で魔力が非常に少ない。また、カーライルが死力を尽くしその魔力を削ったことにより、魔王の魔力はほぼ空だ。

 時間魔術、空間魔術を扱えようと、魔力が無ければ意味が無い。


 魔王は討滅される。三人は瀕死になりながらも、誰も死なずに魔王を倒す。カーライルという尊い犠牲によって。

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