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覚醒無敵の英傑と口の臭い男 〜俺は絶対に、追放なんてされない〜  作者: 苦慮緑了
鋼鉄の才女

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三十六話:昔話

 俺がまだガキだった頃だ。


 当時の俺は6歳か7歳だったが、当時の俺は同年代と比べりゃ賢かったし、魔術も上手かった。


 さらに謙虚で、目上の人間を立て、真っ当な倫理観を持ってた。


 飼ってた犬の墓を作ってやったことがある、俺は当時本気で泣いた。悲しかったからだ、両親はそんな俺を慰めて、その日は親の手伝いを免除された。


 夏の日だったと思う。なにしろ昔の事だから、よくは覚えていないが。


 俺は死んだ犬とよく行っていた森のそばの空き地で一人寂しくぼうっとしていた。

 なんで死んだんだとか、そういう事を考えてた。


 一人でいる俺は、空き地に入ってきた一人の男に気づいた。

 エルフだった。もう顔も覚えていないが、賢そうな男だったと思う。

 田舎の村で、村に見知らぬ顔なんて無かったが、そのエルフは見たことが無かった。旅人だったのだろう。


 「そんなところで何をしている」


 男はそう言った。俺は飼ってた犬が死んだ事と、それについて思考を巡らしている事を話した。


 男は納得したようなしていないような曖昧な返事をしてから、俺に自分が森に入ったことは黙っているように、と言った。


 俺はなんでですか、と丁寧に聞いたが、男は適当に誤魔化すばかりで答えない。


 しばらく、黙る黙らないと問答をしていた、その最中、男が持っていた本が目に止まって、それは何かと聞いた。


 男はそれに困ったように頭を書いていたが、ふと思いついたように手を止めた。


 「この本を読めば、君の知りたい事も知れるかもしれない」


 男はそう言って、俺に本を差し出した。


 「その代わり、私の事は黙っているように」


 俺は一も二もなく頷いた。

 本当ならそんな怪しい男は村の大人に伝えるべきだが、好奇心が勝った。


 当時からそこそこ賢かった俺は早速その場で本を読み出したが、ほとんど読めなかった。当時の俺には難しい本だったからだ。

 唯一解読できたのは本の一番最初、大きく書かれた言葉。

 『人生に意味は無く。死に希望は無く。故に絶望に合理は無い』

 そうしてしばらく本と睨めっこしていた俺は、不意に怖くなった。


 本は高価だ、こんな一塊の村人如きが持っていていい物ではない、とか、持ち帰ったら親になんて言われるだろうか、とか、そんな感じだったと思う。


 俺は本を返そうとした。男はいつの間にか森に入ってしまったようだが、足跡が残っていた。


 俺は本を片手に男を追った。

 森の中は危なかったが、魔術を使える俺にはそれほど危ないものに見えなかった。

 出した炎が広がりかけたのだけ、少し焦ったが。


 男の足跡は森の奥深くに続いていた。

 それをずっと追って、日が落ちつつあるくらいの頃、森のずっと奥深く、鬱蒼とした森の中、俺でも危険だと思えるくらいに分かりやすく危険な森に、男はいた。


 首を吊っていた。


 男の体は大きな木の幹に吊るされていた。

 暗くて顔は見えなかった。

 俺は訳も分からず男の足を引っ張り、それでも反応しないのを見て、ああ死んだのだとぼんやり思った。


 男がなんであったのか、俺は知らない。

 なんでそんな事をしたのか、俺は知らない。


 でもなんとなく、持っていた本の意味が理解できた。






 それから何年か後。何事も楽しむべきだ、と俺はそんなポリシーを持つようになっていた。


 住んでた村が滅んだ。俺は死んだ両親の焦げた匂いを嗅いだ。俺は楽しんだ。


 クソの山賊と一緒に村を襲った。俺は楽しんだ。

 気が変わって山賊を皆殺しにした。俺は楽しんだ。

 反乱を主導して国を滅ぼした。俺は楽しんだ。

 救世を目指し戦争を止めた。俺は楽しんだ。

 ただ一人の死人も出させないため身を削った。俺は楽しんだ。

 皇帝陛下にありもしない忠誠を嘯いた。俺は楽しんだ。

 飽きた。全部メチャクチャにしてやろうと暴れた。俺は楽しんだ。

 国読みという絶対的な存在を知った。俺が俺の自由意志だと考えていたそれは、国読みに操作されていたものだと知った。俺は楽しんだ。


 ずっとずっと、俺は何もかもを楽しんだ。


 人を殺すのを楽しんだ。人を助けるのを楽しんだ。人を裏切るのを楽しんだ。人を導くのを楽しんだ。歴史を歪曲するのを楽しんだ。誤った常識を覆すのを楽しんだ。土地を殺すのを楽しんだ。土地を生き返らせるのを楽しんだ。


 全部全部、俺は楽しんだ。




 変わったのは、多分あの三人に会ってからだ。


 メアリーをからかい、怒られるのが楽しかった。チックのバカに突っ込むのが楽しかった。トーファと他愛のない話をするのが楽しかった。

 あの三人と一緒に、何かをするのが楽しかった。




 久しぶりだった。楽しもうと思わなくても楽しかったのなんて。


 もう二度と無いと思っていんだ。本当に心の底から笑うことなんて。




 森を歩く。一人、置いていった三人に想いを馳せる。


 「……国読み、これを聞いてるか?」


 呟く。

 国読みの未来視は、今の俺を見ていただろうか?


 「なあ、今まで色々あったな、俺は結構、お前の思い通りになりたくないと抵抗してた」


 剣をなぞる。前方で気配がした。


 「迷惑をかけた。すまねえな。もう反省出来るだけの時間は残されちゃいないだろうが、謝らせてくれ」


 森が死んでいた。ある境界を境目に、地面は黒く萎み、空気は澱んでいる。


 「……なあ、国読み、聞いてるか?」


 境界は円を描いている。その円の中心に、何かがいた。


 「……頼む、これがお前の見てる未来か、俺の現在か分からないが、ああ、どうか俺をこの未来に」


 死んだ地面を踏み、何も気にせず歩みを進める。中心の何かが、ピクリと動いた。


 「俺は……満足だ。この結末が、俺の生きた意味であり、価値なんだ」


 「……三人を頼むぜ」



 剣を抜く。中心の何かが立ち上がり、地面から剣を生み出し引き抜いた。


 「何奴だ。さぞ名のある戦士と見るが」

 「帝国七英傑が一人『剣』カーライル・マネガン」

 「そうか、その名覚えたぞ。我も名乗りたいところではあるが、生憎とそうはいかない、すまぬな」


 大男……恐らく魔王は、厳かに、唸るように言った。


 「……貴様、なかなかに強いな……目覚めたばかりで我も本調子ではない。もし我が軍門に降るのであれば、その命だけは助けるが?」

 「……断れば?」

 「無論、全力で死合うのみ」


 俺は大口を開けて笑った。


 「クク……ははは、ははははは!!」

 「……?」


 剣を構え、魔術を用意する。


 「誰がてめえの仲間になるかよ」


 悔いは無い。後悔も無い。出来るだけやった。

 俺は満足だ。やる事は決まってる。なら、精一杯楽しめ。楽観しろ。

 最後にもう一度三人の顔を思い浮かべて、俺は魔王に立ち向かった。

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